ニッポン放送「ザ・フォーカス」(3月19日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。各国の新型コロナウイルス対策を比較して解説した。
武漢市、新型コロナウイルスの新たな感染者確認されず
中国政府は19日、新型コロナウイルスの感染がもっとも深刻な湖北省武漢市で、18日は新たな感染者が確認されなかったと発表した。1月23日に武漢市が事実上封鎖されて以来、1日あたりの新規感染者がゼロになったのは初めて。また湖北省全体でも、新たな感染者は確認されなかった。
森田耕次解説委員)新型コロナウイルス世界全体の感染者はすでに20万人を超えています。中国政府はもっとも感染が深刻な湖北省武漢市で18日は新たな感染者が確認されなかったと発表し、1月23日に武漢市が事実上封鎖されて以降1日あたりの感染者がゼロというのは初めてです。湖北省全体でも新たな感染者はゼロということで、習近平指導部は新型コロナウイルスの対策に成功したと捉えて、感染症を克服しつつあるという宣伝をますます強めそうですね。
佐藤)それはそうですが、やはり事実として封じ込めに成功しているということだと思います。中国からウイルスが来てけしからんと思っているので、中国政府の言うことは何でもけしからんと取るのではなく、我々も封じ込めることができると考えるのがいいと思います。ニュースなどで社会に「コロナ疲れ」が出ていると思いませんか? さまざまなニュースが入ってくるのですが、我々にとってどうプラスに転じられるのか考えると、武漢でも封じ込めの方向で我々も封じ込めの方向に向かっているということです。休校でお母さんたちから言われるのは、「煮詰まってしまってかなわないのです。自分の子どもがこんなに大変だと思いませんでした」という言葉です。でも、この方向性は間違えていないのです。逆にもし日本政府の対策が遅れていたら、非常に不幸なことになっているイタリアは他人事ではありません。確かにいま置かれている状況は大変なのですが、我々の置かれている状況はそれほど悪くありません。これは長期戦になるけれど、そこまで深刻にならないと見て、とにかくコロナで疲れないようにすることが大事だと思います。だって、1日に何回「コロナ」という言葉を聞くでしょうか。そうなると、頭の中がコロナでいっぱいになってしまうのですよ。
森田)我々もコロナばかり言っているので、「コ」というと次は「ロ」と口が動いてしまうのですよ。
佐藤)自覚しないうちに心理が変化してしまうのです。それがトイレットペーパーの買い占めにもつながってしまうし、心理を冷却する作業を意図的にやらなければいけないので、コロナのニュースを見るときに「これで安定していくのだ」と読むのが大事です。
ヨーロッパでは戦争状態~超法規的対策
森田)これからはヨーロッパが焦点になります。イタリアは感染者が3万5000人を超えていて、亡くなった方も3000人近くになっています。ドイツはいまのところ感染者が1万人ということですが、こちらも封じ込めようということで営業規制をかけています。ドイツの公衆衛生研究機関は、このまま対策しないと2,3ヵ月で最大1000万人の感染になってしまうとの見解を示し、メルケル首相が18日にテレビ演説して「第二次大戦以来最大の難局だ」とかなり激しいことを言っていました。ヨーロッパは戦争状態だと言いますね。
佐藤)イタリアで何が起きているのか。韓国も武漢も似たようなことですが、封じ込められないことがわかっているのです。いまは封じ込めではなく、医療崩壊が起きないようにしているのですよ。日本の選択は、イギリスやロシアに近いものです。熱が出て重症な人を治すことにエネルギーをかけるので、あまり病院へ来ないでくださいという。それで医療の体制が崩れないようにしています。韓国は方向性が違って、事実を明らかにすることを優先するから検査にエネルギーを使っています。医療の力には枠がありますから、トレードオフなのです。検査を重視すると治療ができなくなり、治療を重視すると検査ができなくなるという究極の選択で、どの国も両方やっているのですが本当はどちらにウエイトを置いているのか。ヨーロッパはイタリアを除いて医療崩壊を防ぐという方向で、それは水際対策や封じ込めではないのです。拡散するのはやむを得ない段階にきているので、そのなかで亡くなる人をできるだけ減らすと。だから動かないようにと言うのです。しかし、政治的には「封じ込める」としか言えません。ここをどう見極めるかというメディアリテラシーなのです。
それから致死率が高くないので、いちばん露骨な話をしているのはイギリスのジョンソン首相です。「季節性インフルエンザで8000人亡くなるのだけれど、2万人は亡くなると思う。天寿を全うできないので、そういう情勢になる」と言っているのですが、それは医療崩壊が起きなければという前提なのです。そうしたら、イギリスの別の顧問団が「そのやり方でもし医療崩壊が起きたら25万人死ぬ」と反論しました。イギリスの議論は全部客観的なデータです。アメリカのトランプ大統領も客観的データで話します。日本に何が欠けているのかというと、科学に基づいた話です。そして、極力悪い話をしません。
森田)感染者のグラフで「曲線が高くなるのを抑えよう」と言っていますが、推計でどれくらいの人数が感染するかということは言っていません。
「封じ込めをしている」としか言えない事情~政争をやめられぬ2つの国
佐藤)ただ、報道も少し変わってきて、ある新聞だとクルーズ船の人数を16日から抜き始めました。それから、退院者の数を書くようになりました。でも、ロシアでは1月の終わりからやっていることです。完治者の数を毎日発表しているので、亡くなる人よりも生きて戻る人のほうがずっと多いことを伝えています。ですから、データに基づく科学的根拠は重要なのです。
森田)そこが日本は足りないところであったかもしれません。ただ、拡大させない方向ではうまくやっていますね。
佐藤)その方向性で、日本は捨てたものではないと思います。ただ、解説する人がいません。「封じ込めなければいけない」と政府が言ってしまいましたが、できないのは明白です。そのときに「医療崩壊が起きないようにしている」とは言えません。どうして言えないかというと、それを言ったらヨーロッパではいま戦争状態です。昔、オランダにグローティウスという人がいて、『戦争と平和の法』という本を書いているのですが、戦争状態になったら法律が全部変わるのです。ですから、戦争状態になれば政治休戦になります。そういう文化の国と、そうでなくこの機会に政府を倒してやろうとする国。野党は政府を倒すのが仕事ですからね。それにこの機会を利用しようとする文化の日本や韓国などとは大分違ってくるのですよ。でも、政府として倒されたらかないませんから「封じ込める」としか言えないのです。しかし、実際にやっていることを見ると、それは無理だから医療崩壊を起こさないということに。私は、学校休校措置を取った段階でそちらに切り替えたのだと思います。
森田)ある種の戦争状態、超法規的なことを日本政府もやったということですね。ヨーロッパで戦争状態といったら、法律は関係ないという状況になると。
佐藤)戦争のときでも絶対に破ってはいけない、人を逮捕するには礼状がなければいけないなどのことは守りますよ。しかし、それ以外は政争をやめています。ほとんどの国がそうなのですが、どうも違う国が2つほどあって、それが韓国と日本です。
森田)政争をしている場合ではないわけですよね。
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。