「3」がコミュニケーションで大切な数字である理由
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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、コミュニケーションにおける数字について---
【緊急事態宣言解除における3つのお願い】
Stay Homeを実施し始めてから結構な時間を過ごしました。毎日、不便だなぁと感じながらも、1ヵ月もすると自粛生活に慣れて来て、それなりに楽しむ術を見つける人が多くなりました。
料理をする人、断捨離をする人、映画三昧する人、積んだ本を読む人。突き詰めて行くと、本当は自分が好きなことは何なのか。知らず知らずのうちにふるいにかけられて、人の意見に流されず、したいことをしているのかなと感じます。
さて、新型コロナウイルス対策で全国に発令した緊急事態宣言は、39県で解除されました。14日夜の会見で安倍総理は「3つのお願いがあります」と、今後に向けて提示しました。39県へのお願いとは、
1.「少しずつ段階的に」
2.「前向きな変化はできるだけこれからも続けてほしい」
3.「日常のあらゆる場面で、ウイルスへの警戒を怠らないでいただきたい」
上記の3点です。緊急事態宣言を解除しても、これらを常に念頭に置いて行動してほしいということでしょう。それはわかります。しかし、私は何やら違和感を覚えていました。
それは、会見をメモ化していてわかりました。3つのお願いとは何ですか? と問い返してみましょう。
「えーっと、それは…少しずつ…」「あれ? 何だっけ」「これまでどおり?」
いかがですか? 覚えていないと感じた方も多いのではないでしょうか。
人に何かを伝える際に、“3”という数字はとても重要です。3つのポイントに絞って話すことが効果的だからです。“安倍総理のお願い”は手法自体はまちがっていないのですが、ぼやっとした抽象的な言葉で、文章が長くさっぱり明確ではありません。
インターネットテレビのABEMA NEWSの画面では3つのお願いを、(1)段階的に日常生活に (2)前向きな変化の継続を (3)日常でウイルス警戒を――とテロップでフォローしていましたが、これ以上は短くしにくい内容だったことがわかります。お願いは国民のみなさんには、印象に残らず覚えられない状況になってしまいました。
【新型コロナウイルスと戦う条件】
そういえば、コロナ禍での対策で最も意識しなければならないのは“3密”でした。密閉、密集、密接です。
ご存知の通り、密閉された空間で人が集まったり、少人数でも近い距離で、相互に手が届く空間で会話したり、発声、運動することなどが当てはまります。この3つの密を避けることが感染症への基礎的な対応として、私たちの頭に残っています。
これは小池東京都知事が3月30日の記者会見で、ナイトクラブやバー、ライブハウスなどの3密の場所を控えるよう呼びかけたことで、一気に意識に植え付けられました。小池知事はこのようなコミュニケーションで大事なポイントをよくおさえられて、それを基に会見を開き、意思表示をしています。
その他ではStay Home、Stay in Tokyo、Save Livesなど、英語であることは賛否両論ありますが、こちらも3つであり、会見で必ずコメントするスローガンです(しかし“3月30日”は単なる偶然だと思います)。
3という数字の重要性は、まず覚えやすいことが挙げられます。私たちは3つならば暗記できそうですし、意識して覚えようかと思えます。またゴロがよいということも挙げられます。音で表すとド、ミ、ドのように、座りがよく頭に残りやすい音程を形作っています。
また、私たちは三次元(縦、横、高さ)の世界に生きていることから、感覚的に自然だとも考えられます。いずれにしても簡単に口に出せるほど短く、覚えやすいフレーズであることが大事で、3つは丁度いいということなのです。
【コミュニケーションで意識する数字】
コミュニケーションの世界では、第一印象が大切であることは言うまでもありません。顔を合わせて3秒。たったの3秒で一定の印象を相手に植え付けてしまうのです。
まず、笑顔でにこにこと「こんにちは」あるいは「よろしくお願いします」と言われて、嫌な気はしません。まさにきょうエレベーター内で見知らぬ小学生の男の子に「こんにちは」と言われ、つい「えっ、あ、こんにちは」と狼狽えたのは大人のわたしの方でした。
コロナ禍の後、再び対面の世界が戻って来るでしょう。その際に“3秒で決まる第一印象”をいちばんに思い出したいところです。
その上で、会話のなかで大事にしたいのが順番です。いちばん話したいこと、その理由や根拠、そしてたとえ話という展開です。この順序を心がけると、話はとてもスムーズに進みます。
「私は最近、餃子づくりに凝っています。何と言ってもおいしい、安い、楽しい。このことに偶然気が付いたのです。きっかけは友人の家の餃子パーティーでした。生地作りからはじまり、餡を作り、みんなで包んで250個! 生地が破れたとか、餡がはみ出したとか、形がいびつだとか、もうワイワイ、がやがや大騒ぎです。
そしてさらに盛り上がったのが、口に入れた瞬間です。あちこちから『もちもち! ツルツル! 何個でもいける!』と声が上がりました。材料費は小麦粉やひき肉、葉野菜などで高いものは何もありません。久しぶりに本当に楽しいひとときを友人たちと過ごすことができました。これをきっかけに餃子づくりにはまってしまったのです」
いかがでしょう。このなかにいくつの3を見つけられますか?
【津軽人の特徴“さんふり”】
実は方言にもあるのでご紹介しておきます。津軽の“さんふり”という言葉があります。「えふり」「あるふり」「おんべだふり」と、青森県の津軽の人の特徴を3つの言葉で表しています。
順番に「見栄っ張り」「あるふり」「知ったかぶり」のことで、いい恰好しいでお金やモノをたくさん持っているふりをする、知ったかぶりの人という意味なのです。あれ? 私は青森生まれですが、多分にそういう性格ですね…。
新型コロナウイルスとの闘いはこれからが本番です。「石の上にも三年」にはならないでほしいと思う一方で、緊急事態宣言は「二度あることは三度ある」と言い聞かせる気持ちもあります。それでも最後には「三度目の正直」で感染症に打ち勝つ。そう自分に言い聞かせています。(了)
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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