黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に発酵デザイナーの小倉ヒラクが出演。日本各地にある珍しい発酵調味料について語った。
黒木)今週のゲストは発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです。世界唯一の肩書の発酵デザイナーとして活躍なさっている小倉さんですが、発酵調味料について教えていただけますか?
小倉)では、私が日本全国を旅して見つけた、おいしい調味料や発酵食品をいくつかお話しします。
黒木)はい。
小倉)最初に新潟県妙高市というところにある、「かんずり」という唐辛子の調味料があるのですが、ご存じでしょうか?
黒木)知りませんでした。
小倉)これは非常に珍しいもので、香辛料を発酵させてつくる発酵食品です。つくり方もなかなかロマンティックです。1年のいちばん寒い大寒の日、雪原の上に妙高でとれる大きな唐辛子を撒きます。
黒木)雪の上にですか?
小倉)そうです。放っておくと、雪のなかに埋もれてしまいます。しばらく、そのまま埋もれさせておきます。そうすると唐辛子がしんなりして来ます。その唐辛子を麹や柚子、お塩につけて4年~6年ほど発酵させ、酵素でドロドロにして、最後は赤いお味噌のようなものになります。
黒木)やはり辛いのですか?
小倉)はい。
黒木)この「かんずり」というものは、何に入れて食べるのがおいしいのですか?
小倉)地元の方は、ラーメンやお味噌汁に使っています。
黒木)おいしそうですね。それは新潟県にしかないのですか?
小倉)新潟県の妙高というところにしかありません。妙高の人たちは知っていますが、新潟の他の地方に行くと、ほとんど知りません。
黒木)新潟のなかでも知らないのですね。
小倉)発酵食品というのは、このようにその地方では知られていても、他の地域にはないようなものがたくさんあります。
黒木)妙高ですね。
小倉)豪雪地帯で、とてもきれいな場所です。雪の日に真っ白な雪原のなかで、もこもこに着ぶくれした女の人やお母さんなどが真っ赤な唐辛子を撒くのですが、ロマンのある景色で素晴らしいです。もう1つ、宮崎県の日南海岸の海岸沿いに、「むかでのり」という発酵食品があります。
黒木)むかでのり。のりのことですか?
小倉)名前からは想像がつかないと思いますが、キリンサイという海藻をゼリー状にして、それを味噌漬けにしたものです。
黒木)海藻をゼリー状にして味噌漬け。
小倉)海藻を天日干しにして、水を使ってまた戻す。戻したものを四角いプルプルの寒天や、ゼリーのように成形します。それをしばらく、九州の麦の甘いお味噌に付け込んでつくります。すごくプルプルしておもしろい食べ物です。
黒木)プリンプリンしている感じですか?
小倉)はい。すごくおいしかったです。焼酎によく合いますね。
黒木)あと、「みのび」というものもありますね。
小倉)たまり醤油というものがあります。東海独自の豆みそというものがあるのですが、八丁味噌のようなお味噌をつくっているときに、液体がたまります。そのお味噌のなかにたまった液体だけを抜き取った調味料です。
黒木)だから、たまり醤油と言うのですね。それをみのびと呼ぶ。
小倉)みのびという、たまり醤油屋さんのブランドの名前です。私はその、みのびのたまり醤油が大好きです。お醤油はいろいろな種類があるのですが、このたまり醤油は他のお醤油とはまったく異なった味をしています。もともとがお味噌ということも関係していますが、味がシャープでモッツァレラチーズにかけるとおいしいです。
黒木)チーズにですか。
小倉)たまり醤油というのは、醤油と書いてありますが、和食という感じではないのです。アンチョビソースのような面白さがあって、日本各地にいろいろな発酵調味料がありますが、そのなかでもサプライズ度が強いのは、このたまり醤油ですね。
黒木)その土地ならではの発酵調味料があって、それぞれ特色があり、歴史や文化とつながっているということですね。発酵食品も奥深いですね。
小倉)そうですね。そうしたものを1つ1つ調べているうちに、10年くらい経ってしまいました。
小倉ヒラク(おぐら・ひらく)/発酵デザイナー
■1983年、東京生まれ。
■免疫不全の虚弱体質で生まれ、中学生まで毎年夏、母方の佐賀・玄界灘の実家に預けられ、自然に親しむ(このころの体験が、のちに生態系に関わる仕事へのきっかけ)。
■早稲田大学文学部に進学。当時、バックパッカー旅にはまり、ユーゴスラヴィア人の絵描きと出会い、パリで絵描きに明け暮れる生活を送る。
■卒業後、ゲストハウスを運営。
■その後、スキンケア会社に就職。デザイナーとしての仕事がスタート。
■2010年に独立するも、意に反してデザイン業とはまったく違う領域の仕事に従事。地方の一次産業や生態系に関わる研究調査に携わる。この時期に微生物や自然エネルギー、森や水などの自然のエコシステムを学ぶ。
■2011年に東日本大震災を経験し、世の中の価値観が大きく変わる。仲間とともに会社を起業し、林業再生や地場産業のリデザインに関わる仕事を多数プロデュース。アートディレクションと事業経営の腕を磨く。
■その後、2014年に再び独立。自分が本当に夢中になれて、生態系や人間の暮らしにとって本質的な領域である微生物の道を極めるため、東京農業大学の研究生として、醸造学科の穂坂教授に弟子入り。ここから「発酵デザイナー」のキャリアをスタートさせる。
■それと前後して、東京から山梨県甲州市の山の中に拠点を移す。日本中を旅しながらフィールドワークやイベント出演。山梨ではひたすら微生物の研究に励むワークスタイルを確立。
■2017年、活動の集大成である書籍『発酵文化人類学』を出版。
■以降、微生物の世界を日々探求。「発酵」を「デザイン」する仕事などを幅広く展開。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳