先祖がつくりあげた「発酵」という技術~発酵デザイナー・小倉ヒラク
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に発酵デザイナーの小倉ヒラクが出演。発酵デザイナーという仕事について語った。
黒木)毎日さまざまなジャンルのプロフェッショナルにお話を伺う「あさナビ」、今週のゲストは発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです。この番組は本当にさまざまなプロフェッショナルの方が来てくださるのですけれども、発酵デザイナーという肩書きの方は初めてです。しかも初めて耳にするご職業でいらっしゃるのですけれども、どんな仕事をなさっているのか教えてください。
小倉)そうですよね。実は世界で僕しか名乗っていない肩書きです。一応、自分の仕事の定義は「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする仕事」としています。
黒木)発酵菌たちの働きを、デザインを通して見えるようにする。どのようにするのですか?
小倉)2019年の春から夏にかけて、渋谷ヒカリエの8階に「d47 MUSEUM」というデザイン・ミュージアムがあるのですが、そこで47都道府県各地の発酵文化をピックアップして紹介する展覧会をやりました。
黒木)アートとコラボするということですか?
小倉)物産展みたいなものではなくて、発酵文化を1つのデザインとして捉え、デザイン・ミュージアムのレギュレーションに沿ってやって行くというやり方です。子供たちに歌って踊って、発酵を楽しめるアニメをつくることもしています。
黒木)『手前みそのうた』というアニメをつくられていますね。
小倉)踊りを踊ったら、そのままお味噌が仕込めるようになるというアニメです。お味噌を仕込むということが歌と踊りになっています。
黒木)もともとは全然違う仕事をしていらっしゃいますよね、発酵デザイナーになられるまで。
小倉)大学を卒業してから、10年弱くらいデザイナーとして活動していたのですけれども、ずっと地方の小さなものづくりや、環境技術に関わることなどをやっていました。気持ちいいなとか、いい景色だなと思うところには、必ず酒蔵やお醤油蔵があるのです。「なぜだろう」と不思議に思っていたところ、たまたま縁あって醸造蔵と一緒に仕事をする機会をもらったのです。蔵のなかに入ると、そこには異次元空間が広がっています。実はその醸造蔵というのが、その土地のいちばん大事な場所にあって、その土地の農業やコミュニティ、歴史などの守り神になっていることに気づくのです。
黒木)守り神に。
小倉)その後もいろいろなところに行って、微生物や発酵の世界に魅せられるようになりました。30歳を過ぎたころに、東京農業大学醸造科というところ……漫画「もやしもん」の舞台ですね。そこに入学し直して、微生物学を学んで、そこからは微生物や発酵にまつわる仕事をしています。
黒木)その土地土地に根付いている、発酵を通しての文化があるということに、気が付かれたということでしょうか?
小倉)文化的な側面と、もう1つは少しサイエンスな、実際に微生物がどういう働きをしているのかということを、両方見ながらやっているという感じですね。
黒木)微生物が人間にとって、体にいい働きをしているということですか?
小倉)日本にはいい菌も悪い菌もたくさんいます。いろいろな生物が生きやすい環境なのです。湿気もあり、やや温かめで。発酵させないとすぐに腐ってしまうので、ご先祖様が時間をかけて、「自分たちにいいことをしてくれる菌」だけを呼び込む技術やレシピをつくりあげて来たのです。それが、僕たちがいま発酵と言っているものです。
黒木)なるほど。
小倉)どうやってそれを見つけ、どのように再現性を持たせて行ったのか、どのようにして何百年も続く仕組みをつくって行ったのか、などということを調べています。
小倉ヒラク(おぐら・ひらく)/発酵デザイナー
■1983年、東京生まれ。
■免疫不全の虚弱体質で生まれ、中学生まで毎年夏、母方の佐賀・玄界灘の実家に預けられ、自然に親しむ(このころの体験が、のちに生態系に関わる仕事へのきっかけ)。
■早稲田大学文学部に進学。当時、バックパッカー旅にはまり、ユーゴスラヴィア人の絵描きと出会い、パリで絵描きに明け暮れる生活を送る。
■卒業後、ゲストハウスを運営。
■その後、スキンケア会社に就職。デザイナーとしての仕事がスタート。
■2010年に独立するも、意に反してデザイン業とはまったく違う領域の仕事に従事。地方の一次産業や生態系に関わる研究調査に携わる。この時期に微生物や自然エネルギー、森や水などの自然のエコシステムを学ぶ。
■2011年に東日本大震災を経験し、世の中の価値観が大きく変わる。仲間とともに会社を起業し、林業再生や地場産業のリデザインに関わる仕事を多数プロデュース。アートディレクションと事業経営の腕を磨く。
■その後、2014年に再び独立。自分が本当に夢中になれて、生態系や人間の暮らしにとって本質的な領域である微生物の道を極めるため、東京農業大学の研究生として、醸造学科の穂坂教授に弟子入り。ここから「発酵デザイナー」のキャリアをスタートさせる。
■それと前後して、東京から山梨県甲州市の山の中に拠点を移す。日本中を旅しながらフィールドワークやイベント出演。山梨ではひたすら微生物の研究に励むワークスタイルを確立。
■2017年、活動の集大成である書籍『発酵文化人類学』を出版。
■以降、微生物の世界を日々探求。「発酵」を「デザイン」する仕事などを幅広く展開。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳