誰にでもできる“手前味噌”のつくり方
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に発酵デザイナーの小倉ヒラクが出演。手前味噌のつくり方、またぬか漬けを育てるということについて語った。
黒木)今週のゲストは発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです。最近は以前にも増して、発酵食が注目されておりますけれども、お味噌やぬか漬けを自宅でつくる方も増えているそうですね。
小倉)ここ数年、若い人の間でもポピュラーになりました。
黒木)ぬか漬けやお味噌のつくり方のスクールもやっていらっしゃるのですか?
小倉)はい。いまの仕事の原点は、味噌づくりワークショップです。いまから10年ほど前の話ですが、簡単にお味噌をつくるという内容でした。お味噌づくりはやってみると簡単なのです。
黒木)本当ですか?
小倉)簡単です。発酵食品はハードルが高いイメージがあると思います。しかし、お味噌や塩麹をつくることは、難しいことではありません。
黒木)お味噌はどのような感じでつくるのですか?
小倉)煮大豆と塩と麹を混ぜて、固めて、放っておきます。
黒木)固めて放っておく。誰にでもできてしまうのですね。
小倉)誰にでもできます。昔からお味噌というのは、家族やコミュニティで一緒につくる文化も地方都市には残っています。お母さんたちが給食センターなどに集まって、何十キロもつくります。それをみんなで分けて持って帰るというようなこともします。科学的な知識や微生物のことを知らないお母さんでも、お味噌のつくり方はレシピ化されています。東日本大震災の後に、大きな変わり目がありました。いままで興味のなかった若いお母さんたちが、味噌づくりワークショップにたくさん来るようになりました。食べ物については、おいしいか、コスパがよいかということだけしか考えていませんでしたが、食べ物がどのようにできているのか、どんな原料が使われているのかを知らないことが不安になったそうです。自分でつくってみようということで訪れる方がたくさんいらっしゃいました。
黒木)やはり2011年3月は、いろいろな人の価値観が変化したのですね。
小倉)そうですね。
黒木)体にもよいし、文化も知ることができて、一石二鳥ですね。
小倉)親子でやれば仲よくもなります。
黒木)我が家でつくって、それを我が家の味にすればよいのですか?
小倉)勝手にそうなってしまうのです。
黒木)家の環境が関係しているのですか?
小倉)菌の生態系はそれぞれの家や、仕込む人によって微生物の分布が異なります。そうした微妙な違いによって、味が変わります。ワークショップを行い、解散して、皆さんの家で発酵させます。半年後にまた集まって食べ比べをすると、味がまったく違うという話になります。
黒木)何だかつくってみたくなりました。
小倉)皆さん、「ぬか漬けをつくる」とは言わずに、「ぬかを育てる」と言います。本当にペットのような感じで行うのが、発酵DIYの面白みです。
黒木)ぬか床と言うと、おばあちゃんからずっと受け継いで来て、それを絶やさずに、という話を聞きますが、その家のぬか床でなければダメなのですよね?
小倉)どこでもよいのですが、やはり味が変わってしまいます。私は自分の手で触ると、その菌が発酵食品のなかに入って味が変わる、というのは最近まで眉唾だと思っていました。いろいろな新しい研究が出て来て、私自身もさまざまなプロジェクトを行い、はっきりと関わりがあるということがわかりました。それがいちばん顕著なのが、ぬか漬けらしいです。ぬか漬けはお味噌よりも塩分が少し低いので、いろいろな菌が入ることができます。ぬか漬けは定期的に手を入れますよね?
黒木)はい。
小倉)野菜を入れるときに野菜についている菌が入って、手で混ぜるときに手についている菌が入ります。人間の常在菌で、ぬか漬けの香りを出す菌がだんだんとわかって来ています。
黒木)常在菌ですか?
小倉)常に存在する菌です。
黒木)それが人の体を守ってくれている菌でもあるのですか?
小倉)そうです。悪い常在菌もいるのですが、その一種がぬか漬けのなかに入って、うまく発酵するといい匂いになります。ぬか漬けらしい、香ばしい匂いになります。いろいろな微生物や要素が常に止まることなく、引っ越しながらバランスを取っているダイナミックな食べ物です。
黒木)やはり、「育てる」という言葉なのですね。
小倉)そうです。
黒木)お味噌をつくってみたくなりました。
小倉)ぜひ、やってみてください。手前味噌というのは、なかなかうれしいですよ。
小倉ヒラク(おぐら・ひらく)/発酵デザイナー
■1983年、東京生まれ。
■免疫不全の虚弱体質で生まれ、中学生まで毎年夏、母方の佐賀・玄界灘の実家に預けられ、自然に親しむ(このころの体験が、のちに生態系に関わる仕事へのきっかけ)。
■早稲田大学文学部に進学。当時、バックパッカー旅にはまり、ユーゴスラヴィア人の絵描きと出会い、パリで絵描きに明け暮れる生活を送る。
■卒業後、ゲストハウスを運営。
■その後、スキンケア会社に就職。デザイナーとしての仕事がスタート。
■2010年に独立するも、意に反してデザイン業とはまったく違う領域の仕事に従事。地方の一次産業や生態系に関わる研究調査に携わる。この時期に微生物や自然エネルギー、森や水などの自然のエコシステムを学ぶ。
■2011年に東日本大震災を経験し、世の中の価値観が大きく変わる。仲間とともに会社を起業し、林業再生や地場産業のリデザインに関わる仕事を多数プロデュース。アートディレクションと事業経営の腕を磨く。
■その後、2014年に再び独立。自分が本当に夢中になれて、生態系や人間の暮らしにとって本質的な領域である微生物の道を極めるため、東京農業大学の研究生として、醸造学科の穂坂教授に弟子入り。ここから「発酵デザイナー」のキャリアをスタートさせる。
■それと前後して、東京から山梨県甲州市の山の中に拠点を移す。日本中を旅しながらフィールドワークやイベント出演。山梨ではひたすら微生物の研究に励むワークスタイルを確立。
■2017年、活動の集大成である書籍『発酵文化人類学』を出版。
■以降、微生物の世界を日々探求。「発酵」を「デザイン」する仕事などを幅広く展開。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳