老犬の死を覚悟! 涙ぐみ動物病院へ向かうとまさかの診断が
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【ペットと一緒に vol.213】by 臼井京音
約15歳半の筆者の愛犬が、ある朝突然に食事を拒否。1日中、ぐったりしていました。急に元気がなくなった愛犬を連れ、動物病院に行くと……。
今回は、前回に引き続き、筆者と老犬との変化の激しい暮らしぶりをお伝えします。
4日振りの散歩で体調不良に
筆者の愛犬(ノーリッチ・テリア)のリンリンは、2020年9月現在、15歳5ヵ月です。
昨年(2019年)のいまごろは、一緒に犬連れ旅行サイトの取材で箱根へ出かけ、ドッグランで走るなど元気にモデル役も務めてくれたのが信じられないほど、この1年で体が衰えてしまいました。
それもそのはず。小型犬は1年で、人間で言うと4歳分の肉体年齢を重ねます。
前回の記事でリンリンの行動変化なども紹介しましたが、筆者はリンリンに少しでも楽しい日々を過ごしてもらおうと、9月半ばの夕方、4日振りに散歩に連れ出しました。気温は26度。曇っていて、冷たい風が吹いていました。
「わぁ、元気に笑顔で歩いてるね! 久しぶりで楽しいよね~」と、筆者の8歳の娘も大喜び。「あれ? でも、5分も歩いてないけど疲れちゃったかな? 帰りは抱っこしようね」(筆者)。
帰路は抱っこで、まわりの景色やさまざまなにおいもリンリンに楽しんでもらいながら、自宅へ。
その後、1時間で夕食の時間を迎えました。いつもならば、リンリンと11歳半の娘犬のミィミィが揃ってダイニングテーブルの下に来るのですが、リンリンはお気に入りのドッグベッドで寝ています。
「こんなの初めてだね。久しぶりの散歩だったから、疲れたのかな」と、筆者と娘はリンリンを横目に食事を続けました。
死を覚悟して涙を流しながら……
そのままぐっすり朝まで眠っていたリンリン。翌朝、いつもの食事を出してあげたものの、クンクンとにおいを嗅いだだけで口をつけようとしません。そのため、大好物の納豆やヨーグルトに混ぜて、心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)と慢性膵炎の薬だけは何とか飲ませました。
リンリンは元気がないようで、水を飲んだあとは床にぺたんと伏してしまいました。体を触っても熱くないので、発熱はしていないようです。
筆者はその日は取材があり、昼から外出。夕方に帰宅しても、リンリンはドッグベッドのなかからチラリと筆者の顔を見ただけで、鼻先にドッグフードを持って行ってもプイと顔を背けてしまいます。
筆者はこれまで、仕事で関わった飼い主さんや多くの“犬友”から、犬は旅立つ1日前になると食欲がなくなると聞いていました。
「ちょっとー、リンリン。昨日まで食べ物が入っている段ボール箱のなかに顔を突っ込んだり、チョビチョビ歩きだけど笑顔で散歩もしたじゃない。急すぎない? ママは心の準備ができてないよ~」
布団の上のリンリンを撫でながら、筆者は涙ぐまずにはいられませんでした。いったん流れ出した涙は止まらず、気づけばおいおいと嗚咽して泣いていました。
実は筆者は、リンリンについ数週間前まで「家庭犬の平均寿命の14歳を超えて、15歳まで生きてくれたもんね。もう、無理しないでいつでも好きなときに旅立っていいからね」と話しかけていました。
グリーフケアのセミナーなども受講し、リンリンとの別れの日まで、リンリンに対して何が起きてもなるべく平静を保ち、リンリンには笑顔で接しようと心に誓っていたのに……。
入院したままサヨウナラしたくないから
泣きながら眠ってしまい目覚めると、リンリンは筆者の布団の上ではなく自分のベッドに戻っていました。その夜は少しの物音でも目覚め、朝を迎えました。
やはり何も食べなかったリンリンを連れて、筆者はかかりつけの動物病院へ。それまでの経過を説明すると、獣医師は「なるほど。念のため、血液検査をして体の状態を調べたいと思います。そして、点滴をしますね。1泊入院させましょう」と。
「え? 入院ですか? あ、いえ、もしこのまま旅立ってしまう可能性があるなら、自宅で最期を迎えさせてあげたいですぅ」
筆者は目の奥からこみ上げる涙が流れ落ちないように、診察室の天井に目を向けながら言いました。
「では、夜まで半日お預かりしましょう」ということになり、筆者はトボトボと歩きながら自宅に戻りました。
そこからはリンリンが心配で、仕事も手につきません。夕方近くに動物病院へ電話をしてみると、血液検査の結果に大きな異常は見られなかったとのこと。「少し元気になって来た様子ですよ。なので、予定通り夜にお迎えに来てください」と言われ、安心しました。
夜、動物病院の診察室に入ると、思わぬことを告げられました。
「結論から言うと、リンリンちゃんは軽い熱中症でしたね。一昨日の夕方の散歩のあとから具合が悪いということと、血液検査では心臓も膵臓も腎臓も以前と数値が変わらないこと、炎症反応が上がっていないこと、そして何より、点滴を半日行って元気を回復したことから判断すると、そうだと思います」
リンリンは診察台の上で、動物看護師が手のひらの上に出したおやつに飛びついています。「わーー! リンリーーンッ」と、娘も満開の笑顔で喜んでいます。
熱中症は湿度と老犬がハイリスク
筆者はこれまで、犬の熱中症に関する記事を20本以上は書いて来ました。
そのたびに、気温はもちろん、口呼吸でしか放熱できない犬にとって、湿度が熱中症の発症リスクを高めることを強調。さらに、体温の調節機能が衰えている高齢犬は熱中症にかかりやすいことも知っていました。
それなのに、愛犬を熱中症にさせてしまい情けない気持ちでいっぱいです。
この夏は、心臓に負担がかかるパンティング(ハァハァという口呼吸)をリンリンにさせず、低い湿度を保つために冷房を切らさずにいました。そのため、きっとリンリンの体が屋外の湿度に慣れていなかったのでしょう。筆者が完全に油断していたのは、言うまでもありません。
リンリンは退院してから、食欲と元気を取り戻しました。いったんは別れを覚悟してからの愛犬との日々は、少し重みを増したような気がしています。
「リンリン、この間はあんなにママが泣いてたから不安な気持ちになったよね? ごめんね。これからは、体に負担をかけないようにもっと気をつけるし、笑顔でいるようにするし、もう少しだけゆったりしながら一緒に過ごそうね」
愛犬の寝顔を見つめながら、筆者はいま、声に出さずにこう語りかけました。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。