東武博物館・写真展『会社に運動会があった頃』で蘇る昭和の風景
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
東武鉄道・浅草駅から伊勢崎線に乗って、とうきょうスカイツリー駅、曳舟駅、そして3つ目の駅となる東向島駅の高架下に、「東武博物館」があります。
東武鉄道の創立90周年を記念して、1989年(平成元年)5月20日に開館しました。
館内には明治32年の開業当時、イギリスから購入した蒸気機関車や電気機関車、電車、バスの展示をはじめ、運転シミュレータや「ウォッチングプロムナード」という、小窓から列車の車輪が間近に見られる、子供に大人気のコーナーもあります。
ときたま、ガタンゴトン! ガタンゴトン! と、特急電車の通過する大きな音が頭上に響くので、「おおッ」と驚きます。「長年勤務していると、この音がまったく気にならなくなるんですよ」と微笑むのは、学芸員の山田貴子さん。
山田さんは千葉県船橋市の生まれで、地元の郷土博物館の展示物を飽きもせず、じっと見ているのが好きな子どもでした。大学では「西洋史」……ヨーロッパの歴史を学びました。
「学芸員の資格は取ったものの、博物館に勤めるのは難しいだろうと思っていたら、東武線沿線に住んでいた親戚が、『今度オープンする東武博物館で学芸員を募集しているよ』と教えてくれました。それがきっかけで、この博物館の1期生の学芸員となったんですよ」
東武博物館では、いま、山田貴子さんが中心となって、企画写真展『会社に運動会があった頃~一企業が捉えた昭和30年代の街・ひと・くらし』が開催中です。
東武鉄道の社内報のために撮影された写真のなかから、沿線の風景や人々の暮らしに焦点を当てた写真展です。
写真展のなかで特に目を引くのが、東武鉄道の社内運動会の『たばこ火つけ競争』です。
「タバコをくわえてスタートし、竹竿に吊るされた蚊取り線香から火をつけ、煙を吐きながらゴールをするという競技でした。竹竿を持っている人が大笑いしているので、社員の家族が応援している会場も笑いの渦だったと思います。いまだったら危険だと言われそうですが、当時はまだ個人で娯楽にたくさんお金をかけられませんでしたから、社内運動会は社員の家族も一緒に楽しめる、一大イベントだったと思います」
展示されている写真は60点。それぞれのキャプションは、解説文のように読み応えがあります。これも山田さんが書きました。
「保管されている写真は、撮影日の記録はあったものの、撮影場所など詳しいことがわからないものが多かったんです。そこで、写真に小さく写っているものを手がかりに、いろいろ調べて、面白い情報を加えてみました」
例えば、昭和34年、栃木県の佐野市駅に水飲み場ができて、水を飲む子どもの写真。そのキャプションの最後に、「清涼飲料の自販機が本格的に登場するのは昭和37年のことです」と、追加情報を書き込みました。
同じく昭和34年、駅務員のお宅を取材した写真のなかで、山田さんが注目したのは、お茶の間の火鉢に乗ったやかん。キャプションには、「ちなみに、魔法ビンの量産が始まるのは昭和39年のことです」と、ひと口情報を加えました。
山田さんは「キャプションの文字数がちょっと多かったかな……」と、お客さんの反応が気になりました。そこで、コロナ対策のために手すりを消毒しながら、お客さんの会話に耳を澄ますこともあったそうです。すると……。
「そうだった、そうだった!」と笑みがこぼれる年配のお客さん。
「この子、よそ行きの服でおめかしをしているね。可愛い子だね!」
「この男の子、ランニング姿だよ。みんなそうだったなぁ」
そんな言葉が聞こえて、山田さんは心のなかでガッツポーズをしたそうです。
「鉄道系の博物館というと、“お子様のもの”というイメージがあるかも知れませんが、歴史を重ねた蒸気機関車や電車、バスなどは中高年の方にこそ見ていただきたいですね。懐かしくもあり切なくもあり、昔に心を飛ばして、ホッと一息つく時間を味わいに来ていただきたいし、そんな企画展をこれからも続けて行きたいと思っています」
■東武博物館 企画写真展
『会社に運動会があった頃~一企業が捉えた昭和30年代の街・ひと・くらし』
開催期間:2020年9月2日(水)~11月29日(日)
休館日:月曜日
入館料:大人(交通系電子マネー:200円/現金:210円)、子ども:100円
営業時間:10時~15時(最終入館は14時)
※新型コロナウイルス対策のため、短縮して開館しています。
番組情報
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