張りつめた空気を変える~場を暖めるには~

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は「人前で話すときにやって欲しいこと」について---

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【髪を切った思わぬ成果】

最近、髪を切ってショートにしました。耳の部分にマスクのゴムがあたり、毛先が中途半端にハネ、まるで寝ぐせのついた子どものようです。

そこで、耳が見えるぐらいに短くしました。これで「いま起きたの?」という寝ぐせ感はなくなりました。ところが、予期せぬ効果ももたらしてくれたのです。

私は民間の保育園で、2~3歳のお子さんに遊びのなかで正しい、きれいな発音の日本語で話しかける活動をしています。言葉を覚えて行く過程をサポートするのですが、耳が見えることで、耳を使った遊びがしやすくなりました。

具体的にはこんなことです。保育園ではハロウィンを前に、おばけの話題が多くなっていました。私は子どもたちに話しかけました。

「きょうは、おばけに電話して遊びに来てもらおうと思います。いいかな?」

お昼寝から起きて来た子どもたちは無反応です。ポツリ、ポツリと「うーん」とか、「でんわ?」と言う声が聞こえますが、あまり乗り気ではありません。まだ眠そうです。

私はバナナの積み木を手にとり、「もしもし? おばけさんですか?」と、おばけに電話をかけるお芝居をしてみました。耳に当てているのはバナナです。

「あ、おばけさん、こんにちは。もとこ先生です」

はじめはポカーンとしていた子どもたちですが、すぐに「ちがうよ、それはバナナだよ」と言うようになりました。「あれ? ほんとだ。ごめん、ごめん」と言って、今度は食パンの積み木を取り出します。

「もしもし、おばけさんですか?」「えー! ちがう、ちがう、それは食パン!」……こんな調子で次々と積み木を耳にあて、電話をかけるしぐさをするのです。

だんだん子供たちは、「それはパン」「それはチョコ」と先を争って発言するようになり、いつの間にか15人全員が参加、笑いがいっぱいの楽しい雰囲気が形成されました。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【場を暖めて巻き込む】

子どもは誰かに気を遣うことなどはできません。空気も読みません。楽しくなければ笑いませんし、飽きてしまえば違うことに関心を示します。突然やって来て振り向かせようとしても、なかなか注目してくれないのです。そこで考えたのが、冒頭の漫才です。

これは、いくつかのコミュニケーションの要素を含んでいます。場を暖める、相手にアウトプットさせる、予測を裏切って期待を裏切らない……などです。1つずつ解説します。

まず、いきなり走り出そうとしても体や頭がついて行かないので、ウォーミングアップする意味で場を暖める。大勢の前に出て行って、唐突に話し始めても、ピリピリしているときがあります。聴衆も身構えていて緊張感が漂っているので、これを緩める必要があります。

“空気を読む”というより、自分のペースに巻き込んで空気をつくるのです。例えば公開生放送など、イベントの際には「前座」や「前説」というものを行います。どちらも本番前にリラックスしてもらい、会場に集まった人たちに気持ちよく楽しんでもらうためのものです。

このときに心がけて欲しいのは、相手にアウトプットさせることです。近くにいる人に話しかけて、返事をもらうのが最も有効です。

私は前述の“おばけに電話”で、子どもたちに「ちがう」と言わせ、「それは○○だよ」と返答させました。しかも何度も繰り返すことで、いままで口を開かなかった子もみんなと一緒に「ちーがーうー!」と言うようになるのです。

声を出させるのが難しければ、頷く、手を挙げるなどでもいいと思います。聞いている人に質問し、手を挙げてもらえば参加している感があります。

聴衆にアウトプットさせるには、“書かせる”ことも有効です。「これから10秒で魚の絵を描いてください」というアイスブレイクは、私が大学の講義でよくやる手法です。急いで魚を描くので、絵心に関係なく「魚らしきもの」を描いてくれます。

これは上手、下手が問題なのではなく、「どんな魚を描いたか」に面白さがあります。正面から見た魚、左向きの魚、上向きの魚……など。オチもいろいろできますが、「多様な考え方がありますね」や、「固定観念で描くとみんな左向きですね」など、場の盛り上げに使っています。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【漫才の流れをまねる】

話は保育園に戻ります。子どもたちは“おばけに電話”を楽しんだことで、次も「何か楽しいことをしてくれる」と期待するようになります。そこで私は、今度は恐竜のミニチュア人形を手に、「もしもし?」とやるのです。子どもたちはスマートフォン型の四角いものを耳に当てていると思うので、「えーー!」と反応しました。

「あれ? 電話がかからない……何だこれ?」と私が手元を見ると、「きょうりゅうーっ」という声が聞こえて来ます。「ふふふ、失敗したみたい。これはどうかな?」と、次はおままごとグッズのフライパンを取り出します。

もちろん子どもたちは「ちがう、ちがう」と言います。パンやバナナを取り出すと思っている子どもたちの予想に反して、まったく違うものを取り出す。そして、同じように否定してもらう。これを何度か繰り返します。

場を形づくるための3つめの要素、「予測を裏切って期待を裏切らない」が実現されます。こうしたやりとりは、漫才のネタではよくある手法ですね。ボケを自分がやって相手に突っ込んでもらい、間違いを修正することで話題をニュートラルに戻すという構成です。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【同じ空間を共有する】

日本人には、注目されるとかしこまってしまい、急に恥ずかしい気持ちになり、うまく行動できないという悩みをもつ人が多くいます。みんなと同じでなければ、なかなか一歩が踏み出せないのです。

人前だと頭が真っ白になる、面白い話ができない、会議で発言できないなどは、聴衆がシーンとしていることで話しにくい状態になっています。このようなときには、こちらのペースに巻き込むしかありません。

その方法として、「予想を裏切っても期待を裏切らず、相手にうまくアウトプットさせる。そのことで冷えた場が暖まって行く」を実践してみましょう。

自分も緊張していますが、相手も緊張しています。同じ空間を共有することで安心感が生まれ、人前で話すことが気楽に感じると思います。さて、今週はどんな“おばけに電話”を展開しましょうか……。 (了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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