【ライター望月の駅弁膝栗毛】
広大な水田のなかを走る上越線。
昭和57(1982)年夏、新幹線開業直前の上越線を、ボンネットの181系電車「とき」で、初めて旅したときも、一面の田んぼが広がっていた私の幼き日の記憶がよみがえります。
上越国境から流れ出した雪解け水が、その美味しさを育むという魚沼の米。
なかでも、南魚沼産のコシヒカリは別格で、全国のトップブランドとなっています。
そんな南魚沼産のコシヒカリをたっぷり使って作られる、越後湯沢駅「川岳軒」の駅弁。
駅弁ライター望月が全国の駅弁屋さんを巡ってお話を伺うシリーズ、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第23弾は、川岳軒の牧野晶(まきの・あきら)社長にお話を訊いています。
今年(2020年)はコロナ禍で取材が厳しい時期が続きましたが、昨年から続く新潟シリーズのトリ。
4回目の今回は駅弁の要、南魚沼の「米」の話を伺いました。
●地元、南魚沼・塩沢産コシヒカリにこだわる川岳軒の駅弁!
―川岳軒の駅弁と云えば、やっぱり「お米」ですよね?
ご当地ですので、全て「魚沼産コシヒカリ」を使用しています。
魚沼産のなかでも、とくに上質な、南魚沼・塩沢産のコシヒカリですね。
冷めても美味しい、まさに駅弁向きの米だと思います。
パサつくことが絶対になく、コクがあって、モチモチっとした食感は、「当たり前」ですね。
炊き方、水加減は“ナイショ“です!
―お米の仕入れは、どうしているんですか?
我が家の近所にも、「食味コンテスト」で6年連続金賞を受賞している農家さんがいます。
そんな農家さんのご家族が川岳軒で働いて下さっていたりした“ご縁”を大事にしながら、駅弁に適した価格帯で仕入れることができる、地元農家さんから仕入れています。
その意味でも、駅弁を沢山作ることができなかったコロナ禍の2020年は、農家さんからあまりお米を買うことができなくて、申し訳なかったなぁという気持ちがいっぱいです。
―「南魚沼産」と魚沼産は、やっぱり違うんですよね?
南魚沼産を名乗れるのは、「南魚沼市、南魚沼郡」のエリアです。
魚沼産ですと、魚沼市や十日町市、長岡市(川口地区)などのお米が入ってきます。
「南魚沼産」のお米は、おかげさまで日本トップクラスの評価をいただいています。
なので、川岳軒の駅弁は、“日本一美味しい”と評価されている米を使って作っていると言っても、過言ではないと思います。
―でも、最高級ブランドと言ってもいい塩沢産を使うとなると、大変ではありませんか?
とにかく、農家さんと仲よくしています。
そのおかげで、常識の範疇での“わがまま”も聞いてもらうこともあります。
高価格帯のブランド米を製造されている農家さんには、川岳軒の土産物店を紹介して、販路の開拓にも役立っているかと思います。
その意味でも、農家さんとはウィンウィンの関係を築くことができていると自負しています。
―そんな魚沼産コシヒカリをたっぷり使った川岳軒の駅弁、何人で作っているんですか?
いまは、最大で6人です。
でも、コロナ禍で、その6人がフル稼働することはまずない状況が続いています。
以前、400個売れ残りを出したときも10人くらいでした。
当時は朝4時くらいから作り始め、夕方5時までかかっていましたが、いまは朝7時から始めて、昼1時くらいで明日の仕込みを終えておしまいという日々です。
―例えば、新作駅弁を出すときは、どうやって開発されているんですか?
いまある駅弁は、ほとんど私が開発しています。
正直に申し上げて、「私が食べたい」駅弁を作っています。
おかずも、「南魚沼・塩沢産コシヒカリによく合う」食材を追求して、組み合わせています。
そのなかで「越後 林道かまめし」は、歌手として活躍された香田晋さんが「越後湯沢駅」という新曲を出される際に、コラボしたいというオファーをいただいて開発しました。
(川岳軒・牧野晶社長インタビュー、つづく)
【おしながき】
・炊き込みご飯(南魚沼塩沢産コシヒカリ、わらび、筍)
・豚肉(つなんポーク)
・鶏肉
・煮物(舞茸、蓮根)
・うずらの玉子
・紅生姜
平成19(2007)年7月9日、新曲「越後湯沢駅」をリリースした歌手・香田晋さん(当時)のプロデュースを受けて、発売された「越後 林道かまめし」(1100円)。
銀シャリが多い越後湯沢駅弁では、希少な炊き込みご飯となっているのが特徴です。
また、釜形の容器は、紐を引き抜いて蒸気で温める加熱式駅弁となっており、真冬の凍てつく寒さのなかでも、美味しくいただくことができるのが有難いですね。
米どころとして知られる南魚沼市塩沢には、美しい街並みで知られる三国街道塩沢宿の「牧之(ぼくし)通り」があり、美味しい米と共にまち歩きが楽しめます。
次回は川岳軒・牧野晶社長のインタビュー、完結編!
駅弁135年で最も厳しかったとされるコロナ禍と、これからの駅弁について伺います。
来たる令和3(2021)年も、駅弁と共によいお年をお迎えください。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/