『離島の本屋』取材で気づいた「本以外に売られる何か」とは?
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
島国の日本には、6852もの島があるそうです。北海道、本州、四国、九州も含めて、308島に人が暮らしています。そのなかに、離島の本屋さんを訪ね歩いているフリーライターがいます。
朴順梨(ぼく・じゅんり)さん、48歳。群馬県生まれの在日韓国人3世です。まず、彼女の生い立ちからご紹介します。
朴順梨さんは幼稚園のころ、「少女マンガで漢字を覚えた」というほど漫画が大好きな少女でした。しかし、漫画家になる夢は絵が下手という理由で断念。
小・中学生時代は、ラジオから聞こえて来るレベッカ、BOOWY、尾崎豊、佐野元春、渡辺美里などの歌に夢中になり、音楽雑誌が愛読書でした。高校生のとき、音楽雑誌に投稿した短編小説がみごと掲載され、「ああ、自分には文才があるんだ」と気づいたそうです。
早稲田大学を卒業後、就職難のなかでテレビ制作会社に入ります。しかし、憧れと現実は大きく違って、ADの激務に耐えきれず1年で退職。その後、契約社員で雑誌編集者になったものの、1年でリストラ。あとは、自分の文才を信じてフリーライターに……。
「私の世代は、いわゆるロスジェネ世代。バブル崩壊後の就職氷河期で、そんな社会の荒波に放り出され、がむしゃらに生きて来た世代なんです」と言う順梨さん。行動力が求められるフリーライターに向いていたのかも知れません。
離島の本屋さんを取材するきっかけは、本屋大賞を応援するために発行されたフリーペーパー「LOVE書店!」。この創刊のために集まったメンバーの1人が言ったそうです。
「小さな島にある本屋さんの軒下で、日がな1日、お店のおばあちゃんと話したりできたら楽しそうだよね」
それを聞いた編集長が、「いいね! じゃあ朴さん、行って来て」……たった1分で企画が決まり、離島の本屋さんをめぐる旅が始まりました。
何のあてもなく、取材が2005年にスタート。当時はタウンページで離島の本屋さんを探し出しました。電話をすると決まって返って来る言葉が、「うちに来ても何もないよ」でした。
飛行機やフェリーを乗り継いで島を訪ね、お店に足を踏み入れて「確かに何もない……」と落胆したことは、いままでに一度もありません。「離島の本屋さんは驚きと発見に満ちていた」と順梨さんは言います。
取材で最初に訪ねたのは、伊豆大島の成瀬書店。「これはすごい!」と驚いたのが、お店のレジでした。
「もう壊れて、金額のボタンを押しても動かない、ただのお金を入れる箱になっても大事に使っているんです。どこの本屋さんも、まるで時間が止まったような“昭和の本屋さん”ばかりでしたね」
店主の生い立ちなどを伺い、お客さんがどんな本を買っているのか、その島ならではのベストセラーや郷土本などを取材するうちに、「島の本屋さんは本を買うだけにあらず」ということが見えて来ます。
「離島の本屋さんには、『本プラス何か』があるんです。野菜や雑貨を売っていたり、自転車の修理やOA機器のメンテナンスを請け負っていたり。どうやら、島の住民の小さな声や要望を耳にして、プラス『何か』がある本屋さんになって行ったようです」
2005年から8年にわたり、北は北海道の礼文島から、南は沖縄県の与那国島まで、22の島々をめぐった連載をまとめ、2013年に「ころから」という出版社より『離島の本屋』を出しました。
この本が3刷まで売り上げを伸ばして話題の本になったこともあり、第2弾『離島の本屋ふたたび』が、このほど出版されました。
本を出す前、「あれからお変わりありませんか?」と電話をすると、「店も私も生きてます!」と闊達な声で電話に出るご主人もいれば、「おかけになった電話番号は現在使われておりません」というアナウンスが流れることもありました。
「足掛け15年、離島の本屋さんを訪ね歩いて来ましたが、どの離島も人口が減って、経営が厳しいお店ばかりでした。すぐにでも出かけて取材したい本屋さんが何軒もあるんですけれど、コロナのこともあるので、いまは離島への取材を踏み止まっています」
「この取材はライフワークにして行きたい」というロスジェネ世代のフリーライター・朴順梨さん。離島の本屋さんをめぐる旅は、どんな荒波をも乗り越えて、これからも続きます。
■出版社「ころから」(『離島の本屋』/『離島の本屋ふたたび』の出版社)
住所:東京都北区赤羽1-19-7-603
電話:03-5939-7950
http://korocolor.com
■朴順梨 プロフィール
・1972年、群馬県生まれ。フリーライター。
・早稲田大学卒業後、テレビ番組制作会社、雑誌編集者を経てフリーランスに。
・主な著書に『離島の本屋』『太陽のひと』(いずれも「ころから」出版)、『奥さまは愛国』(河出文庫・共著)がある。
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