はやぶさ2の快挙、年が明けて……作業は順調

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「報道部畑中デスクの独り言」(第233回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2月4日に行われた探査機「はやぶさ2」の記者説明会について---

採取された「A室」の砂粒は小皿に移された これは0.79g(JAXA提供)

画像を見る(全3枚) 採取された「A室」の砂粒は小皿に移された これは0.79g(JAXA提供)

探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」からサンプル=砂粒を持ち帰った……この快挙は昨年(2020年)末、新型コロナウイルス感染下でひときわ明るいニュースとなりました。

2月4日、年が明けて初めて行われたJAXAの記者説明会。オンラインによる説明会は、あのときの高揚感から一息ついた空気ではありましたが、作業などは順調に進んでいるようです。

今回は採取された砂粒が入っている3つの「小部屋」のうち、「A室」と呼ばれる砂粒をめぐる途中経過が主な内容でした。この砂粒は小惑星への1回目の着陸で、地表から採取したとみられています。

砂粒は一部を除いて真空状態から、酸化を防ぐため窒素ガスが充てんされた環境に移され、3つの「小皿」に移されました。小皿の内径は21mm、砂粒の量はあわせて約3.1g。ゴロゴロとしている様子に、改めて今回の快挙が感じられますが、大きな粒子はこれとは別に分けられているということです。

採取された「A室」の砂粒 これは1.15g(JAXA提供)

採取された「A室」の砂粒 これは1.15g(JAXA提供)

「容易につまめたり、結構硬い物質であるのが驚きだった」

分析の責任者であるJAXAの臼井寛裕グループ長は、砂粒の“触覚”について、このように話しました。

砂粒は当初、多孔質=軽石のような細かい穴が多数あいているものと想定されていましたが、ピンセットでつまんでも崩れるようなものではなく、「(地球の)石や鉱物に近い感じだった」ということです。また、通常の隕石よりも明度が暗く、真っ黒という、見た目の様子も明らかにされました。

一方、「NIRS3(ニルス・スリー)」と呼ばれる近赤外分光計を使った、小惑星の表面分析に関する論文についても説明がありました。

近赤外分光計とは、近赤外線(目に見える光に近い赤外線)を対象物に当て、反射光や透過光で吸収される波長を観測することにより、その成分を調べるというもの。

これらはスペクトルという情報によって示されますが、それは成分によって固有のため、対象物がどんなものでできているかがわかるわけです。薬品使用や物理的な破壊がないことから、食品の成分分析や鮮度の類推、体脂肪量を測って健康増進に役立てるなど、実際の生活にも広く応用されています。

採取された「A室」の砂粒 これは1.16g(JAXA提供)

採取された「A室」の砂粒 これは1.16g(JAXA提供)

論文によると、人工クレーターがつくられた領域で水酸基を示す吸収が、クレーターではない領域と比べてわずかながら多かったとのこと。つまり、小惑星の地中が表面に比べてわずかに水分に富んでいることを示すものです。

その理由としては、太陽による加熱や風化によって、表面の水分が一部失われたのではないかと推測されています。これはあくまでも小惑星の表面を分析した結果ですが、今後、採取された砂粒でこのような水分含有量の違いがあれば、地中の物質の根拠になる可能性があるということで、期待がふくらみます。

いまはひと粒ずつ重さを測り、光学顕微鏡で観察している状況。初期分析は夏以降になりそうです。

その他、再び宇宙へ飛び立った探査機「はやぶさ2」も飛行は順調。今年(2021年)に入って、1月5日にイオンエンジンの運転を再開。拡張ミッション、いわば「宇宙への第2の旅」が本格的にスタートしました。1月26日には累積動力航行時間が1万時間を超えたそうです。

4基あるエンジンのうち、いままで使用していなかった1基も運転を開始。思えば初号機は“満身創痍”で地球に帰還して来ました。その苦難があったからこそ、現在の状況があると言えます。

ミッションマネージャの吉川真准教授は、「4基無事に順調に来ているのは喜ばしいこと」と穏やかな表情で話しました。

いまは本格的な分析を前にした「下ごしらえ」の状況。担当者はワクワクを抑えながら、慎重かつ着々と作業が進んでいるように感じます。そう感じるのは、やはりメディアのせっかちなところかも知れません。(了)

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