ワークマンにおける「しない経営」の3原則
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に「株式会社ワークマン」専務取締役の土屋哲雄が出演。ワークマン式「しない経営」における3つの秘訣について語った。
黒木)今週のゲストは「株式会社ワークマン」専務取締役の土屋哲雄さんです。2020年10月にワークマンの経営のノウハウを記した『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』という本をダイヤモンド社から発売されました。面白いところに付箋を貼ったら、こんなにたくさんになってしまって。
土屋)すごくたくさん貼ってありますね。
黒木)なるほど、「しない経営」というのはこういうことなのかと思いました。最初に「どの会社でも実施できる」と書いてあるではないですか。ワークマン式「しない経営」を土屋さんから教えていただけますか?
土屋)「しない経営」には大きく分けて3つほどありまして、いちばん重要なのは、「社員にストレスをかけることをしない」ということです。日本の会社は、目標を立てて、個人にまで数字を与えて後ろから押す経営です。しかも納期も厳しい。そのようなことをしないで、「社員が自発的に走ったらどうなのだろう」という実験をしたくて、この「しない経営」をしています。
黒木)ストレスになることはしない。
土屋)そうですね。期限やノルマや、「頑張れ」など。自分が自主的に活躍するのはいいのですが、会社が後ろから押して、そのようなことをするのはかえってマイナスなのではないかと思ったのです。
黒木)次に重要なことは?
土屋)「ワークマンらしくないことはしない」ということです。自分の強みでしか活動しない。機能と価格にこだわりがありますので、それ以外のところには絶対に行かない。一般のアパレルや下着メーカーなどと同じようにやりますと、売れなくて在庫の山になってしまいますので、自分の強い分野である雨の日や暑さ寒さ、大風などの世界で勝負をする。かなり小さなマーケットなのですが、ワークマンらしくないことはしない。逆に言うと、値引き販売をせず、高いものを売らない、付加価値を付けないなど、アパレルがやるようなことはしないということです。
黒木)最近、日本では夏でも豪雨が多いですし、レインウェアも多く売られていますよね。
土屋)そうですね。雨でも霧雨小雨、中くらいの雨から豪雨、また、何年かに1度の集中豪雨など、それぞれ着るものが違います。日本人は1年のうちの3分の1が雨なのに、その区別がわからないのです。1時間に10ミリというような雨で何を着るべきか知りません。小雨なのに豪雨用のものを着て暑くて蒸れてしまったり、大雨なのに機能の足りないものを着てしまい、大変な目に遭うことがよくあります。その辺りで将来的には「雨ごとの売り場をつくろうか」という話も出ています。
黒木)つまりワークマンらしくないことはしないという。
土屋)そうなのです。雨の世界はうちの世界です。
黒木)3番目は何ですか?
土屋)「価値を生まない無駄なことはしない」ということです。もともと無駄なことはしない経営だったのですが、私が来て、もっとしない方がいいのではないかと。新業態で行きますから、その前に資金を貯めなければいけません。そのために無駄をすべて排除する。例えば、社内行事を全廃して仕事以外では集まらない。もともと300人くらいの会社で作業服ばかりを40年間やって来た会社なので、1つのことをみんなが議論して来ていて、コミュニケーションはもう十分なのですよ。そこにあえて飲み会を年何回やるとか、お正月になるとだるまの目入れ式をするなど、そのようなものはいらないのではないかと思ったのです。そしてやらないことにしたら、それが大反響を呼びました。パートさんの募集広告に「社内行事ゼロ」と書いた途端に応募者が5倍増えたのです。
黒木)いい目に出たのですね。
土屋)はい。そんなに効果があるのかと。当時はなかなかパートさんが集まらなかったのですが、「社内行事はありません、でも皆さん仲がいいです」というようにフォローしながらやったら、たくさんのパートさんが来てくれました。
黒木)読めば読むほど、いろいろなところで「なるほど」と思います。だからこそ、この空白市場を切り拓かれたわけですね。
土屋)「しない経営」というのは、実は私の立場からすると逆で、昔は「する経営」だったのです。何でもしたがるという。
黒木)商社でいらっしゃったときはそうだったのですね。
土屋)そうなのです。人に任せないで自分ですべて動いていました。販売も、加盟店や再販ではなくて、直接売るというようなことばかりやっていました。
黒木)その当時とは、真逆のことをいまやっているということなのですね。
土屋)いまは偉そうなことを言っていますが、昔の部下には、「迷惑をかけられたのに、いまさら逆のことを言っている」とよく言われています。
土屋哲雄(つちや・てつお)/株式会社ワークマン専務取締役
■1952年、埼玉県深谷市生まれ。
■東京大学経済学部を卒業後、三井物産株式会社に入社。
■1988年、社内ベンチャー制度を利用して三井物産デジタル株式会社を起業。
■その後、三井物産経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司董事兼総経理、三井情報開発株式会社の取締役執行役員などを歴任。
■2012年、株式会社ワークマンに入社。常務取締役として情報システム部・ロジスティクス部を担当。2017年から経営企画部も担当し、2018年出店の新業態「WORKMAN Plus」を仕掛けた。
■2019年からは専務取締役として開発本部と情報システム部・ロジスティクス部を担当。
■2020年10月に初の著書『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』を出版。
<株式会社ワークマン>
■1982年8月設立。本社は群馬県伊勢崎市。日本全国800店舗以上。
■主に現場作業・工場作業など働く人に向けた作業服や関連商品を取り扱う専門店。
■ブルーワーカー向けの高機能で低価格な商品が数多く揃っていることもあり、仕事だけでなく、バイクの運転手やアウトドア愛好家の間でも人気。滑りにくい靴底の靴が、安全性に着目した妊婦さんに売れるなど話題となった。
■2018年にはカジュアル性を加えた「ワークマンプラス」を開店。2020年には作業着ではない女性向けの商品を扱う「#ワークマン女子」を開店。圧倒的な知名度と機能性でアパレル業界を席巻している。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳