ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月16日放送)に国際政治学者・慶應義塾大学教授の神保謙が出演。日本時間4月17日に行われる菅総理とバイデン大統領の日米首脳会談について解説した。
菅総理がワシントンに到着~バイデン大統領の初の首脳会談
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菅総理大臣は日本時間4月16日午前9時ごろ、ワシントンに到着した。バイデン大統領との会談は日本時間17日未明、ホワイトハウスで行われる。台湾海峡情勢など、アメリカ側と対決姿勢を強める中国との向き合い方が主な議題になるとみられている。
注目する3つのテーマ~「台湾」「サプライチェーン」「人権問題」
飯田)出発前の記者団との取材のやり取りの一部をお聴きいただきましたけれども、「台湾海峡」というキーワードが出ています。これがメインになるのでしょうか?
神保)台湾も重要なテーマになると思いますが、個人的に注目していることが3点あります。1つは「台湾」。もう1つは、「サプライチェーンの見直しがどう扱われるか」ということ。最後は「人権問題」です。
飯田)3点。
神保)なぜこの3つかというと、今回、初の対面での首脳会談なのですが、すでにバイデン政権が発足してから、いろいろなことを日米でやって来ています。菅=バイデンの電話会談、2プラス2の外務・防衛閣僚協議、日米豪印のクアッドの首脳会談などで、すでに政策会議を何度もしています。その上で日本側は、同盟関係のチェックポイントが常にある。例えば尖閣諸島に対する安保条約5条適用や、北朝鮮の拉致問題での日米協力、あとは「自由で開かれたインド太平洋」をバイデン政権でも継続して欲しいと。これらにフルコミットしているわけです。日本側は取るべきものを早々に取っていて、これからどう積み上げを狙って行くかというのが、日本側の大きな焦点なのですが、アメリカとしては、同盟国とともに協力したいという分野が、いま申し上げた3つくらいの点で特にある。もちろん、気候変動などもあるのですが、特に焦点となるのはこの3つではないかと思います。
バイデン政権が中国から切り離したい半導体、大容量バッテリー、医薬品、レアアース
飯田)サプライチェーンの話というのは、半導体をどこでつくるのかという話ですが、先日、アメリカの半導体の業界団体が「台湾への依存度が高過ぎないか」というレポートを出しました。台湾が1年間止まってしまったら、50兆円くらいの利益が吹き飛んでしまうという。この辺りも、「日本は技術があるでしょう?」と求められるということですか?
神保)半導体はいろいろな工程があって、完成品ができるまでのさまざまな工程に、いろいろな企業が入り込んでいるという複合体としてあるのですが、それを取り扱っている最大手が台湾のTSMCと、ヨーロッパのいくつかの企業ということです。これがもし止まってしまうと、いまの先端的な技術がほとんど動かなくなってしまうというくらい、依存度としては高いわけです。
飯田)動かなくなってしまう。
神保)いま、バイデン政権は「100日レビュー」というものをやっていて、半導体と、特に電気自動車などで使うような大容量バッテリー。あとはコロナでも問題となった医薬品。最後は、レアアース。これは2010年の漁船衝突事件でだいぶ日本も痛い目を見たのですが、どのくらいアメリカの産業が中国に依存しているかということを1つ1つチェックしているのです。できるだけ中国から調達を切り離して国内生産を強化する、という合わせ技を目指していると思われますが、これにアメリカだけではなく、日本を含めた同盟国を組み込みたいということだと思います。
飯田)なるほど。
神保)ところが、日本は日本独自のサプライチェーンがあって、名だたる企業はアメリカでも中国でも創業していて、その上、中国の市場で相当な利益を上げているという構図があるわけです。そこで、「先端産業を中国から切り離して新しい独自のサプライチェーンをつくりましょう」ということに、どのくらい日本が乗れるかが未知数です。
アメリカの企業が取引してはいけない企業~エンティティ・リスト
神保)もう1つはアメリカもまた、アメリカの国防総省や商務省が、よく「エンティティ・リスト」と言いますが、「アメリカの企業が取引してはいけない企業」というものをリストアップして、さらに域外適用をするわけです。最終製品に中国の部品が含まれているものに関しては、他の国の企業もそれに対して「取引を自粛せよ」と。それに違反するとアメリカに制裁を科せられる可能性がある。こういうことを、一方的にリストアップしてしまいます。バイデン政権は、「同盟国重視」と言うのならば、こういう機微な経済政策に関しても、もう少し事前に協議をするような、2プラス2を外務・防衛だけではなくて、経済を含めた形で意思決定できるようにするべきではないかと思います。
飯田)いま、「経済安全保障」という言葉が飛び交うようになっています。ここも切り離せないと。ところが、ここに関してアメリカはかなり強権的にやってしまう。ドルが使えなくなってしまうと商売が成り立たなくなってしまいますよね。
取引の多い中国を切り離してでもサプライチェーンを民主主義国同士でやる価値があるのか~それとも日本は米中の双方との間で生きて行くのか
神保)アメリカは「中国への依存をどう管理するか」ということで相当厳しいモードに入って来ています。トランプ政権のときは貿易戦争で関税を上げて、輸出品目を管理して、気になる中国企業には投資をさせないという投資規制をしました。あとは先端技術をしっかりとリストアップする。こういう4分野でやりました。しかし、これはアメリカだけがやっても効果はないので、できれば同盟国間で基準をできるだけ強調させたいということなのです。しかし、日本企業が将来、自動運転やドローンなどの技術とサービスを伸ばして行くにあたって、誰が特許を持っているのかと言うと、中国企業が積極的に取っているわけです。そこと切り離して、本当に日本企業が成長できるのか。日本のGDP成長率で見ると、中国向けの輸出が多くを占めていることは皆さんご存知だと思いますが、それを切り離してでも取る価値があるのかという決断をして、サプライチェーンを民主主義国同士でやって行くという方向に行くのか。それとも、日本を橋渡し的に、アメリカと中国の双方との間で生きて行くのかという、その辺りのニュアンスが日米首脳会談でどのように表現されるのかということが気になります。
飯田)それこそ20年、30年先の大戦略にまで発展する話になりますよね。
神保)リスナーの皆さんのなかには、「何を言っているんだ。同盟国が大事でしょう」と思っている方と、他方で中国と仕事をしている方もたくさんいて、「リアリティとして、日本は中国とのサプライチェーンのなかにいるのですよ」ということを現実として仕事をされている方もたくさんいると思います。これがいまの実態なので、ここで先ほど言った4分野の問題をどうして行くのかということが大事だと思います。
飯田)この辺り、今回はわかりませんが、今後、アメリカ側は踏み絵を迫るような形になって行く流れになりますか?
中国と業務提携をしようとしている日本企業はやりにくくなる
神保)まずは、半導体、バッテリー、医薬品、レアアースの4分野なのですが、これから「1年レビュー」がまた別にあるのです。そうすると、防衛関連製品と、いわゆるITと、ECRAと呼ばれる新興技術14分野というものがあるのですが、これに関連する投資、部品設計、それから流通ということを、どのように同盟国間で管理して行くかというような話に発展すると思います。そうすると、企業にとっては、いま中国と業務提携をして、「新たな投資をして一緒に技術開発をして行きましょう」というスキームが、いつ取引の規制を受けるかわからない。こういうなかでビジネスをしなければならないということだと思います。これは日本企業にとってはやりにくくて仕方がない。だから、きちんと協議する枠組みをむしろ経済でつくらなければいけないという思いを強く持ちます。
アメリカが「いつのまにか中国と握っている」という状況にはならない
飯田)他方、バイデン政権は「親中ではないか」ということが言われていました。いまのところは強硬な姿勢を国全体として示していることが見えていますが、どうですか。例えばかつてあったキッシンジャー訪中のように、強硬な顔をして「台湾を守るのだ」と言っておきながら、「あれ? 気がついたら中国と握っているではないか」ということにはなりませんか?
神保)そういう懸念をみんな持っていたと思います。どこかで手を握って、梯子を外されてしまうのではないかと思うのですが、キッシンジャーさんのときと大きく違うのは、キッシンジャーさんのときの最大の戦略目標はソ連だったわけです。ソ連に戦略的なポジションを確保するために、敵である中国とも握る。「敵の敵は味方」という関係で中国をみなすことができたのですが、いまは、最大の戦略目標自体が中国なので、そこが揺らぐことは、なかなか考えづらいと思います。その上、トランプ政権から引き継いだ経済的な対立関係と軍事的な対立関係だけではなくて、ここに人権が加わっているわけです。さらに手を握るのが難しい状況になって来たというのが、いまのアメリカの対中政策の動向ではないかと思います。
日本はこの先「中国とどう付き合って行くのか」~いまが戦略の定めどき
飯田)そうすると、日本は当然、安全保障面ではアメリカと。そして経済面もいきなりやると摩擦も激しいけれども、そちら側に徐々に移るという形に持って行くことになるのでしょうか?
神保)日本としてはまずは橋頭堡(きょうとうほ)を固める上で、日米同盟をしっかりさせて、クアッドを中心とするパートナー国との関係をしっかりさせるということは、順序としては大事なのですが、「では中国とどう付き合って行くのか」ということに対して、「日本がどう考えているのか」がまだ見えて来ません。競争するのはいいけれど、競争の先に何を求めるのか。最終的には中国とデカップリングするという方向でそれをやるのか、それともどこかで中国が妥協してこちらの方向に折れて来ることを狙ってやるのかで、落としどころは違うわけです。
飯田)「自由で開かれたインド太平洋」という旗は、そちらが変えてくれれば、こちらは対話へのドアは常に開いているのですよという意味で、どちらにも行ける政策なのですね。
神保)特に、安倍政権後期の2018年~2020年というのは、アメリカと中国双方の共存路線だったのです。同盟関係も強化されたし、日中関係も改善したという意味で言うと、日本外交にとっての黄金時代だったのですが、この両輪がそのまま真っすぐには行かないわけです。徐々に狭まって来るなかで、いまは対中関係で目立った動きが見えないわけです。むしろ中国は対日関係を厳しくして来る方向なので、どうするのかということは、いまが戦略の定めどきだと思います。
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