ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月29日放送)に慶應義塾大学・総合政策学部長の土屋大洋が出演。新型コロナワクチンの確保と国際政治のバランスについて解説した。
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米製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスワクチン(アメリカ)=2020年12月30日 AFP=時事 写真提供:時事通信社
100%安全なものはないワクチン そのリスクとメリットの天秤
政府は緊急時の対応として、未承認のワクチンや治療薬を一時的に使用できる制度の検討に入った。海外で使用した実績があれば、国内の治験が終わっていなくても使用を認める仕組みを新たに設ける考えだ。
飯田)海外で使われている物がどうして国内で使えないのだ、というような批判も出ているなかで、このようなことも出てきたということでしょうか?
土屋)そうですね。日本の場合はワクチンに対していろいろなトラブルが過去にあったものですから、やはり慎重姿勢を取ろうということなのだと思います。しかし海外でそれなりの成果が出ているものですから、なぜ海外でこれだけ普及しているのに我々は使えないのか、という思いはあると思います。そこに応えるべく政府が動いているのだと思うのですが、ワクチンに100%安全なものはありませんので、そこのリスクをどのように受け止めるかというところにかかってくるのではないでしょうか。
飯田)副反応というものは必ずどのようなものでも出ます。血栓というものが出ると一部では言われていますが、やはりこれはメリットとの見合いということになりますか?
土屋)勿論そうですね。私はいま学部長という立場にあると、早く大学をもとに戻したいという思いがありますから、そのような面では早くやっていただきたいと思いつつ、それで健康被害が出ると困る方というのも当然出てくると思うので難しいですよね。
飯田)その辺のサポートをしつつ、全体のことも考えなければいけなくなっている。
かなりのスパイ合戦が行われたコロナワクチン開発
土屋)そうですね。特に今回のワクチンはいままでとは違う新しいタイプのワクチンですから、これはサイバーセキュリティの世界でも話題になりました。
飯田)そうなのですか。
土屋)開発が始まるというときに、各国の情報を盗み合うという、ものすごいスパイ合戦が行われました。特に中国はマスク外交に失敗してしまったわけですよね。つまり、中国ウイルスだ、武漢ウイルスだ、と言われたことを払拭するためにマスクを配ることによって中国の名前を良くしようと思ったわけですが、そこが各国からすると、あなたたちが発生源でしょうということで批判をされた。そうすると、今度はマスクではなくて中国製のワクチンを世界に提供することで汚名をそそぎたかったのですが、他の国がどのようなワクチンをつくっているのか、ということに関してすごいスパイ合戦が行われたようなのです。日本の製薬会社も治療薬・ワクチン開発に関してそれなりに頑張っていますから、かなり狙われましたね。
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包装工場で新型コロナ不活化ワクチンを示す北京科興中維生物技術のスタッフ。(2020年12月23日撮影)配信日:2021年2月6日、新華社/共同通信イメージズ 提供元: 新華社
中国製・ロシア製ワクチンには慎重になるべき“地経学”観点
飯田)そうなのですね。このような制度が報道されるとまず頭に浮かぶのは、アメリカや西側諸国のワクチンを日本にいま入れなければ、ということなのですが、中国製のものも入ってくるのでは、と心配する向きもあります。
土屋)中国製のものやロシア製のものでもある程度の効果はあるのだと思いますが、そこに国際政治的な思惑というのはどうも働いてしまいます。逆に我々がそれに依存してしまうようなことになってしまうと、悪用されるというか、いま“地経学”ということを言いますが、地政学的な目的を達成するために経済を使う、社会的な物品を使うというようなことが行われてしまうと、我々にとって非常に不利なことになってしまうので、そこは慎重な立場を取らなければいけないのだと思います。
飯田)それは突き詰めると、我が国も自分たちでつくるということが遅れたとしても、必要(な立場)だということですか?
土屋)そうですね。新しいワクチンのつくり方で日本は少し出遅れてしまったので、ファイザーやその他の会社のようにはすぐには出てこなかったのですが、我々(日本)の製薬会社がサイバー攻撃をしてファイザーなどの会社から情報を盗むようなことはしないので、正当で安全なものをつくるというときには、どうしても時間がかかってしまったということだと思います。
騙し合いの状況に置かれているのが企業
飯田)しかしサイバー攻撃というと、大イベントだったり政府機関というのが思い浮かびますが、私企業だってまったく例外ではないということが分かりますね。
土屋)おっしゃる通りですね。企業というのは本当に最前線に立たされていて、自分たちはそのようなものは持っていないという会社も狙われてしまいます。ネットワーク社会ですから、重要な情報を持っている会社そのものはそれを一生懸命守っているのですが、その取引先がやられてしまうのです。取引先のセキュリティが甘いと、そこにつけ込まれて本物そっくりのメールが本丸に送られて、本丸の人があの取引先から来た添付ファイルだから大丈夫だろうと思って開けてしまうのです。そうすると、ばっと広がってしまうということがあるので、この騙し合いの難しい状況に企業の方々は置かれていると思います。