地元密着で長く愛される駅弁づくり~岡山駅弁・三好野本店
公開: 更新:
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
誰もが迷う駅弁選び。私は新顔の駅弁を見つけると思わず手に取ってしまいます。じつは誰でも知っているようなロングセラーになる駅弁は、ほんのひと握り。全国の駅弁屋さんは、さまざまな形で新作の開発を日々行っています。岡山駅弁・三好野本店は、5代目若林昭吾社長の豊かな人脈を活かした駅弁開発が十八番。多くの地元の人を巻き込んだ新作駅弁を作ることで、1つ1つを長く愛される駅弁へとつなげています。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第26弾・三好野本店編(第5回/全6回)
岡山から伯備線経由で米子・松江・出雲市を結ぶ特急「やくも」。昭和47(1972)年の山陽新幹線岡山開業とともに運転を開始した特急列車です。昭和57(1982)年7月からは、伯備線の電化に伴って、カーブで車体を傾けることができる振り子式の381系電車での運行がスタート。2000年代に入って「ゆったりやくも」仕様にリニューアルされながら、いまも国鉄生まれの車両が長く愛されています。
(参考)JR西日本ニュースリリース・2012年8月28日分
江戸時代、津山藩・松平家の御用商人として苗字帯刀も許されていたという三好野本店の先祖の方々。当時は伊原という姓を名乗っていたそうですが、明治維新によって旧幕府方の関係者は、新政府から睨まれる存在となってしまい、家に入ってきた奥さんの姓・若林を名乗ることになったと言います。米問屋の創業から240年・16代目の若林社長、岡山県各地域の皆さんとのパイプも太いようです。
●行政とのタイアップから生まれる新作駅弁
―三好野本店は新作も積極的に作られていますが、どのように開発されていますか?
若林:行政の方に助けていただいているところが大きいと思います。例えば、昭和52(1977)年から販売した「備前米弁当」は、当時の長野(士郎)岡山県知事に考案いただきました。長野知事は、「岡山のお米が(米どころの自治体と比べて)不当な扱いを受けている」と言って、駅弁に注目して下さいました。パッケージ(掛け紙)が出来上がったときは、知事に見せに行ったものです。
―岡山のさまざまな地域に注目した駅弁を多く出されていますね。
若林:行政の方も岡山駅に地元食材を使った駅弁を置くことがPRにつながることを分かっておられて、岡山県内の市長さん町長さん自ら、「うちのこんな食材を使った駅弁を作ってくれないか?」と打診を受けることもしょっちゅうあります。恐らく、駅弁店のなかでも行政とのタイアップで駅弁を作っている割合は、全国でも圧倒的に多いと思います。これまで岡山、倉敷、玉野、津山、新見、総社、高梁、井原、美作、真庭の各市をはじめとした自治体とタイアップして、多くの駅弁を作りました。
●学校との積極的な連携
―タイアップといえば、2019年に岡山南高校と開発した駅弁が記憶に新しいですね?
若林:岡山南高校とはこの駅弁がご縁でお付き合いが続いています。コロナ禍で食材が余ってしまったため、弊社ではひとり親家庭に弁当の寄付を行いました。いまは南高校がある地域で行われている「岡輝みんな食堂」を運営する団体が500円程度の弁当を購入していただき、それを南高の生徒さんが一緒にお手伝いでひとり親の家庭に配って(100円で販売)下さっています。学校が休みの日でも、わざわざ出てきて下さるんですよ。
―「岡山名物大集合」は、レギュラー駅弁になったそうですね?
若林:岡山駅でも売れ筋の駅弁の1つになっています。駅ではいろいろな種類のおかずを一度に楽しめる幕の内系の駅弁が好評なんです。比較的低価格でちょこちょこおかずが入った駅弁ですね。一方で、駅弁大会や都市部への輸送駅弁では、一点集中型の駅弁が、人気を集めています。例えば、この冬の駅弁大会では、牛カツ弁当やサーロインステーキ弁当、あとはキャラクター系の弁当をたくさんお買い求めいただきました。
●地元の方に愛される「栗おこわ弁当」
―とくに地元の皆さんに愛されていると感じる駅弁はありますか?
若林:昭和49(1974)年発売の「栗おこわ弁当」(900円)ですね。例えば、長年、岡山大の付属学校の運動会のバザーでお弁当を売っていただいていますが、栗おこわ弁当は外さないでくれと言われています。一度、栗おこわには辛子マヨネーズで和えた蓮根が入っているので、児童に配慮して、栗おこわをラインアップから外したところ、お母様方から激しい抗議とお叱りを受けてしまいました。栗おこわは、地元に根強いファンが物凄く多い駅弁だと思います。
―栗おこわ弁当のこだわりは?
若林:栗おこわの製造方法は長年変えていません。栗おこわは冷めると固くなってしまうので、盛り付けもしにくいんですが、できるだけ作りたての美味しさを届けられるように、工夫をしています。あと、栗はあまり味付けをしないで、蒸したものをそのまま使うことで、栗そのものの甘みを活かすようにしています。「おこわに栗が載っているだけ」というお声もありましたが、地元の方からは「そのままで!」というお声をたくさんいただいています。
【おしながき】
・赤飯 栗 ごま塩
・鮭の塩焼き
・鶏肉の胡麻南蛮漬け
・肉団子
・玉子焼き
・れんこんの辛子マヨネーズ和え
・さつま揚げ
・きんぴらごぼう
栗型の経木の折の半分が、赤飯に栗が載った栗おこわ。別に添えられたごま塩をふっていただきます。残り半分には、多彩なおかずがぎっしり詰まっていて食べ応えのある駅弁。1つ1つ手作りされており、確かに蓮根の辛子マヨネーズ和えはクセになる味。岡山駅改札内にある三好野本店の駅弁売場でも、名物駅弁・桃太郎の祭ずしと並んでよく目立つ場所にサンプルが陳列されており、地元の人気が伺えます。
岡山駅弁・栗おこわ弁当と、ほぼ同世代の車両といえば、岡山地区の普通列車として活躍する115系電車。多くの車両が黄色一色となるなか、昭和51(1976)年生まれの2編成は、伝統の湘南色をまとって、車内の座席配列も、登場時のものを残しながら運行されています。駅弁と同じように、地元密着で長く愛される国鉄生まれの車両。岡山の鉄道旅で、めぐり会えたらラッキーな車両の1つです。
(参考)JR西日本ニュースリリース・2017年4月17日分
この記事の画像(全11枚)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/