それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
「ポップ広告」とは、「購買時点広告」を略したものだそうです。スーパーの野菜売り場などで見かけるような、「朝もぎ」「採れたて」や産地を書いたもの、「私が精魂込めてつくりました」という顔写真入りのポップ広告などもあります。
香川県高松市の中心街にあるビルの1階で、八百屋さんを営む鹿庭大智さんが書くポップ広告は、なかなか優れています。まず、鹿庭さん自作の野菜の絵があり、それに続く文章がいいのです。
『この「きんときいも」が、香川でつくられていることを知って欲しい。味の追求に力を抜かず、30年以上もつくり続けています。「おいしいものをつくらなければ、生き残れない。認めてもらえるものをつくり続けることが、本物」』
このように、モノづくりの神髄が書きつけてあります。また、「アスパラガス」のポップはこのような具合です。
『良質の有機肥料だけを使って、青臭さを消したアスパラガスです。何種類もの有機肥料を使い、味の深みを出しています。おいしいモノをつくるために、人の何倍もの努力を積み重ねて、いまでは県外からの注文も入り、手に入りにくいものになりました。このアスパラガスは、料理人さんからも大絶賛を浴びています。下の方は皮をむかなくても大丈夫です』
鹿庭さんがなぜ、こんなに魅力的なポップ広告を書けるのか……今回はそれをご紹介いたします。
「うちのポップ広告には、生産者の顔写真よりも農作業や収穫のスナップが多いんです。文章では生産者の想いの強さ、栽培法を正直に伝え、そして本人の言葉や僕が感じたことをストレートに書いています。有機農法や無農薬栽培には特にこだわっていませんね」
こう語る鹿庭さんが、自信に満ちたポップ広告を書ける理由がもう1つ。100軒以上もある生産農家を1軒1軒訪ねて、おしゃべりをしたり、一緒に収穫したり、直接取引をしているということです。
「うちの野菜は、市場で仕入れるということはありません。農家を直接訪ねるために、毎朝80キロ~120キロは走ります。ですから、1日に5~6時間はかかります。ときには大根を仕入れるために、往復9時間かけることもあるんです。野菜の鮮度のためでもありますが、野菜を仕入れに行くというよりも、つくっている人に会いに行くんですね。いい野菜を手に入れるための、いちばんいい方法なんです。採算と手間ひまは度外視。他の人には、あんまりマネできないでしょうね」
こう言って笑う鹿庭さんの店の名前は、『畑に行く八百屋 SANUKIS(サヌキス)』。「サヌキ」とは香川県地域の古い言い方。これを屋号に選びました。
「まずは県内のいいものを県内の人に届けたいんです。そのためには、商品を実際に目にできるリアルな店舗を大切にしたいと思います。あの店へ行けばいいものが手に入る、という面白さがいいんですよね。ですから、ネットによる通販はしていません」
現在のところ『畑に行く八百屋 SANUKIS(サヌキス)』の野菜を手にするためには、香川県まで飛ばなければならないようです。
鹿庭さんは1980年、香川県さぬき市生まれの41歳。香川大学の教育学部を卒業間際、担当の教授に「お前、仕事は何するんや?」と訊かれたそうです。即答できない鹿庭さんに、教授は言いました。
「農業でもしてみるか。これからの農業はいいぞ~!」
教授が勧めてくれたのは、県内のアスパラ生産農家でした。そこで3年半、アスパラガスづくりに専念するうちに、鹿庭さんの胸のなかには1つの疑問がふくらんで行ったと言います。
毎日市場に出荷するだけで、自分たちのこだわりやアスパラガスの魅力が、お客様にしっかりと伝わっているのだろうか?
店頭で売れ残り、半額になっているアスパラガスを見た際、「もう時間が経って味が落ちている。もう売って欲しくない」と思ったこともあると言います。
この経験がベースになり『畑に行く八百屋 SANUKIS(サヌキス)』が誕生しました。いい野菜とつくった人との出会いを求め、鹿庭さんの車は今朝も走ります。
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