それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
「北海道・小樽」というと、皆さんは何を連想するでしょうか?
小樽駅から歩いて7分の場所に、「ジーンズショップロッキ」というお店があります。平山秀朋さん・三起子さんご夫妻が営む「ロッキ」は、2007年オープン。最初はジーンズやカジュアルウェア、雑貨の店としてスタートしたそうです。
2013年、店の移転にともない、メンズや子ども用品、家具など、取り扱う商品の幅を広げて成長して来ました。さらに2017年からは、発展途上国の生産者の生活支援のために、直接買い付け利潤を抑えた価格で販売する「フェアトレード製品」やオーガニック食品を手がけました。
ここからがいよいよ「ロッキ」の真骨頂です。2018年には、店のなかに本を並べたと言います。平山さん夫妻は2人とも音楽と読書が大好きで、その趣味と実益を活かし、自分たちが読んだ本のなかから好きな作家の作品を並べて行ったそうです。
そして4年前、店のオープン10周年を記念して、平山さんはさらに大胆な試みに着手しました。
平山さんの大胆プランとは、作家の顔と文章をプリントするという、文学Tシャツの製作です。平山さんはこのアイデアを振り返ります。
「僕は昔、音楽をやっていたんです。ロックアーティストはTシャツに自分が好きなスーパースターの顔や、歌詞を入れるではないですか。あれがヒントになったんです」
とは言え、思いつくまま作家の顔を入れるわけにはいきません。ここは小樽文学館を支援するボランティア団体「小樽文学舎」の協力を仰いで、小樽にゆかりの深い3人の作家を選んだそうです。
■1900年代初頭、「小樽日報」の記者として活躍した歌人・石川啄木
■1901年、小樽に生まれた詩人・小説家・画家でもあった小熊秀雄
■1907年、4歳のころから小樽に移り住んだ小説家・小林多喜二
それぞれのTシャツには、その人の根底を貫いていたであろう熱い想いを選んでプリントしました。胸がすくように激しく、そして研ぎ澄まされた言葉をご紹介しましょう。
『我々はいっせいに起ってまずこの時代閉塞の現状に宣戦しなければならぬ』(石川啄木)
『真綿でくるんだ君の心臓に風邪をひかせろ、歯をもって雷管を噛め、そして思想を爆発させろ』(小熊秀雄)
『底の底のことになれば、うそでない、あっちの方が俺たちをおっかながってるんだ。ビクビクすんな』(小林多喜二)
多喜二は1929年の『蟹工船』でプロレタリア文学の旗手と呼ばれましたが、1933年に特高警察に逮捕され、その拷問により死亡しました。「ジーンズショップロッキ」では今年(2021年)、3種類のTシャツの復刻版を出しました。いちばん人気があったのは小林多喜二だったそうです。
平山さんは言います。
「モノを言えば誰かから睨まれ、SNSで発言すれば袋叩きに合う。だから何も言わないで、へらへら笑っていようとする人が増えています。こんな時代の閉塞感に、多喜二の言葉が響いたのではないでしょうか? 香港ではいま、モノを言う自由が弾圧されていますが、あれは対岸の火事ではありません。もし私たちが完全に口をつぐんでしまえば、あっという間に自由は奪われてしまうでしょう」
「ビクビクすんな」……小林多喜二が鳴らしたこの警鐘は、2021年の私たちにも確実に届いているようです。
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