リーダーに備わっていて欲しい「力」とは ~自民総裁選候補をコミュニケーションの観点から観る

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、「リーダーに備わっていて欲しい力」について---

【自民党総裁選2021】立候補者討論会に臨む(左から)河野太郎ワクチン担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=2021年9月18日午後、東京都千代田区の日本記者クラブ 写真提供:産経新聞社

発信力を意識する総裁選

自民党総裁選、現職の総裁が「イチ抜けた!」と不出馬を表明したことで、誰が出るのか、メディアは一斉に「総裁選モード」となりました。

メディアのお祭り騒ぎを冷ややかに見ている人たちも多いようですが、テレビ番組を見てもらう要素に「対立軸をつくる」があります。何でも対立させると面白くなるという方程式です。今回は4つの対立軸があるわけですから、血が騒ぎます。発信を得意とするメディアが、これを逃す手はありません。

一方、派閥のゴタゴタは脇に置いて、4候補をシンプルに観ると全然タイプが違っていることも興味がそそられます。皮肉なことに、菅総裁が出馬しないことで面白みが増してしまった形です。

さて、その菅さんは発信力がない、伝わらない総理と評されました。4人の総裁候補はこの点をことさらに意識していて、連日メディアに出演し、SNSを更新、発信しようと必死に見えます。

世論調査とSNSの投稿数、メディアへの出演時間。誰が多くの支持を集め、誰が泡沫なのか。蓋を開けてみないとわからないのが選挙の面白さです。未来の日本のリーダーの発信を、皆さんはどうとらえているでしょうか。

インターネット動画中継サイト「ニコニコ動画」主催の自民党総裁選候補者による討論会を終え、ポーズをとる(左から)河野行革相、岸田前政調会長、高市前総務相、野田幹事長代行=2021年9月18日午後、東京・銀座 写真提供:共同通信社

子どもっぽく聞こえる発音

それぞれの候補の対話力について、気が付いたことを挙げてみます。まず、いち早く出馬を表明した高市早苗さんです。野田氏が出るまでは紅一点でした。それを利用してか、とにかく笑顔を振りまき、会見の前には“練習”をする姿も見られました。

笑顔はコミュニケーションの基本中の基本。また、自民党の“顔”という効果を考えると大事なポイントです。また、高市さんはこれまでと話し方が変わりました。コロナ禍においてリスクや危機を訴えることは、「守らなければ!」と聞く側の気持ちを駆り立てます。また、笑顔をたたえた優しい雰囲気は“頼りなさ”や“弱さ”を醸し出す面もありますが、語調を強め、力強く話すことで補っていました。

少し専門的な話になりますが、高市さんは“無声化”が苦手です。無声化とは、声帯を振動させないで出す音。「ワクチン」の「ク」や「くすり」の「く」、「ヒット曲」の「ヒ」などを指します。

西日本方面では無声化ができない人も多いのですが、これができないと言葉がぎこちなく、たどたどしくなり、子どもっぽく聞こえるデメリットがあります。今後、リーダーとして標準語を話す機会が増えるのであれば、無声化を会得することをお勧めします。

菅首相の退陣意向表明を受け、取材に応じる自民党の岸田前政調会長(左)と河野行革相=2021年9月3日、東京都内 写真提供:共同通信社

声を変えることは不可能ではない

河野太郎さんの特徴はボディランゲージです。日本人は直立不動で話す人が多く、話しながら手を使うことが苦手です。河野さんは両手を使い、前へ前へと言葉を押し出そうと体で表現します。伝えたい気持ちが全面に出ていて、これほど体で話す政治家を他に知りません。

ただ、“発信”するのだから何でも前に出せばよいというものではありません。河野さんは声にも力があります。口から出る空気が全て音になってしまうため、押しが強く聞こえるのです。“ガンガン話す”と言われる理由のひとつです。コミュニケーションは押したり引いたりしながら、バランスよく展開して行くことが理想です。

人を動かすには、いわゆるリーダーシップが必要ですが、しっかり話を聞く技術もリーダーには必要です。人の話をよく聞くと言われる岸田文雄さんは、穏やかに言葉が流れて行きます。貴公子と言われているのは、柳のようにしなやかな言葉の流れにあると思われます。

そこで気になるのは母音です。「こうしたぁ」「それがぁ」「こくみんのぉ」「さくねんのぉ」と、母音が延びることで会話が構成されています。よく言えば“流れて行く”のですが、母音に引っ張られて本当に強調したい部分が変わっているのです。話がいまいち印象に残らない原因のひとつと推測しています。

声を出す、言葉を話す行為は小さいときに身に付くもので、育った環境にも左右されます。親と骨格が似ていると、声も似て来ます。しかし、声を後天的に変えることは不可能ではありません。

野田聖子さんは喉を閉めた声の出し方です。高音があまり出ないため、話す音域が狭くなっています。喉を閉めてしまうのには何か理由があるのかも知れませんが、声帯を鍛えることはできそうです。呼吸や発声を見直して声に高低をつけ、広がりを持たせることで、話し方に抑揚をつけるのです。声で演じるイメージは、お子さんに絵本を読んであげるとよいと思います。

2021年8月27日、発言する菅総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202108/27hakurankai.html)

リーダーらしからぬ言葉の使い方

発信力がないと言われた菅総理。リーダーらしからぬ言葉の使い方にもその要因はありました。菅さんの話し方のクセは指示語を多用することです。

「そうしたことにはあたらないと思います」「こうしたことを進めて行きたいと思います」……これは、官房長官時代にメディアの前で使っていた方式でした。メディアに言質をとらせないようにしていたのです。補佐役の官房長官が失言するわけにはいかないからです。

しかし、「これ」「それ」「あれ」という言葉は、総理大臣が明言を避ける、コメントをぼかす、何かを隠すというロジックで国民に捉えられました。うつろな目でカメラを見る、原稿は棒読みする、何を聞いても同じ答えとなる人の話を聞こうとする人はいないと思います。つまり、リーダーは発信する前に、見た目や声の出し方など、身につけておく要素が多くあると考えています。

その上で、メディアなどのツールを利用して考えを伝えて行くことが重要だと思います。発信力の意味はたくさんツイートすることではありません。「自身の言葉で語る」ことです。心の声を発するときに、人は感情を動かされ、行動を変えて行こうと思うのです。

私たちが本当にリーダーに備わっていて欲しい力は、「自分の言葉で語る力」なのだと思います。次のリーダーは自らの言葉で発信できる人であって欲しいと願っています。(了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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