「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁の取材をしていると、「望月さんはもう、全部駅弁食べましたか?」とよく聞かれます。私は決まって、「永遠に無理です」とお答えしています。それというのも、駅弁は毎日のように新作の発売や、リニューアルが行われているからです。なかでも、神戸を拠点に駅弁を製造する「淡路屋」は、コロナ禍でも数々の新作を送り出している老舗駅弁業者です。今回は、淡路屋の駅弁開発の裏側をお店の方に伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第31弾・淡路屋編(第6回/全7回)
稲刈りが終わり、すっかり冬の景色となった兵庫・播磨地方の田園地帯を、山陽・九州新幹線直通のN700系新幹線電車の「さくら」号が、颯爽と駆け抜けて行きます。「ひかりは西へ」のキャッチフレーズとともに、山陽新幹線が岡山まで開業してから間もなく半世紀。さらに西へ、九州新幹線・鹿児島中央までの相互直通運転が始まり10年が経ちました。鉄道の高速化が進むなか、いまも「駅弁」文化は受け継がれています。
明治36(1903)年創業、いまは神戸を拠点に駅弁を製造する「株式会社淡路屋」。創業家出身の寺本督(てらもと・ただし)社長とともに、駅弁部門を統括しているのは、柳本雄基(やなぎもと・ゆうき)副社長です。今回からは、柳本副社長にも加わっていただいて、淡路屋の駅弁づくりについて、注目していきたいと思います。
●できるだけ地元産にこだわりながら、安定供給を実現する淡路屋の駅弁!
―淡路屋では、駅弁の基本・お米はどのようなものを使っていますか?
柳本:兵庫県、とくに神戸から西宮にかけては酒どころのため、酒米の生産が多いのが実情です。酒米で駅弁のご飯を炊いても正直厳しいものがあります。そこで兵庫県産米と他の地域の米をブレンドして使っています。年によって米の品質や価格帯は変わる点も勘案しながら、その年のベストなブレンドで作っています。炊飯は環境に配慮し無洗米を使い、自動炊飯装置によって安定した品質を確保しつつ、ほぼ無人化も実現しています。
―こだわりの食材も多いですが、大量の食材をどのように調達していますか?
柳本:食材の確保には苦労しています。とくに明石だこはいままでにない不漁に見舞われ、「ひっぱりだこ飯」は10月以降、国産たこに切り替えました。ただ、少数生産の特別なひっぱりだこ飯はストックした明石だこを使っています。駅弁は食材のPRにつながりますので、たこを優先的にご提供いただくこともあります。この他、業界団体に加盟するなどして、できるだけ安定的に食材を確保しています。11月に明石観光協会さんとタイアップして1000個限定で販売した「パパたこ版ひっぱりだこ飯」もその1つです。売り上げの一部は、「明石だこ」の保全に使われることになっています。
●新作駅弁は「クオリティとタイミング」が、ヒットのカギ!
―淡路屋ではコロナ禍でも常に新作を出されていますが、アイデアはどこから湧いてくるのでしょうか?
柳本:常に新作弁当のサンプルが社内から上がってきます。毎日が試食会のようです。商品化のカギは「クオリティとタイミング」です。社長が「止めとけ」と言ったものでも、会社としてイケるのではないかという判断になれば、商品化してヒットにつながったこともあります。ゴジラとタイアップした「ゴジラ対ひっぱりだこ飯」もその1つです。社長は「絶対売れない」とおっしゃっていましたが、私は「絶対売れる!」という確信があったので、販売できました。
寺本:新作駅弁の開発は「独りよがりではダメ」なんです。私が絶対ダメと言ったものでも、社員がイケると言うのであれば「まずはやってみる」ことにしています。「六甲山縦走弁当」もその1つです。最初は日本山岳会の方から山歩きに欲しいおかずなど、助言を受けて「ハイキング弁当」という名称で売り出しましたが、売れませんでした。でも、中身は変えず、名前を「六甲山縦走弁当」としたところ、何と、一気に4倍の売れ行きとなったんです。新作は何が売れるのか、本当にわかりません。
●地元・兵庫のさまざまな食材にスポットを!
―今後、「駅弁」のテーマとして注目していることはありますか?
柳本:兵庫県内のローカル食材を1つ1つ拾っていきたいと考えています。神戸ビーフ、但馬牛といったようなメインの食材ではなくて、もっと、地域に密着した食材があります。例えば、11月23日から新神戸駅コンコースの売店で、但馬名産の「岩津ねぎ」を使った「エキナカスープ」を発売しました。今後も地元のJAさんと話をして、県内を巡りながら、いろいろな食材を引き上げていきたいと考えています。
寺本:いまはブランドの時代ではありますが、例えば、神戸ビーフは本当に高い食材です。これで駅弁を作りますと3000~4000円の価格帯でないと、満足のいく商品はできません。やっぱり駅弁はせいぜい2000円までです。でも、いたずらに「神戸ビーフ」を名乗りますと、頭から足まで神戸ビーフですから、あまり美味しくない部位でも使わざるを得なくなります。価格を度外視してブランドにこだわりすぎるのは、(長い目で見たとき、駅弁にも、ブランドにとっても)よくないのかなと思います。
【おしながき】
・おにぎり(麦飯、十穀米)
・焼き鮭
・かまぼこ
・玉子焼き
・牛肉煮 糸こんにゃく 茹できぬさや 人参煮
・鶏肉煮
・昆布巻き
・蛸煮
・いかなごのくぎ煮
・奈良漬け
食べやすさと持ち運びのしやすさにこだわったコンパクトサイズの駅弁「六甲山縦走弁当」(680円)。ご飯も麦飯と十穀米の2種類がおにぎりで楽しめる他、焼き鮭、蒲鉾、玉子焼きと幕の内・三種の神器も入って、牛肉・たこと、淡路屋自慢の食材も入っています。それでいて3桁の価格帯に抑えられ、お値打ち感もいっぱいです。その意味でも「六甲山」と、地名を盛り込んだ名前になったことで、旅情を感じられる駅弁に仕上がっていますね。
六甲の山並みと神戸の街並みを背景に、国鉄生まれの103系電車が、兵庫運河をゆっくりと渡っていきます。この「和田旋回橋」は、日本の鉄道用可動橋として最も古いものと言われていて、もともとは運河を通る船のために、可動橋の役割を果たしていたとされます。令和3(2021)年度には、土木学会の土木遺産に選ばれました。この橋とほぼ同じくらいの歴史を誇る神戸駅弁・淡路屋。次回は完結編、これからの駅弁の展望を伺います。
(参考)JR西日本、土木学会ホームページ
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/