「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁の代名詞と言ってもいい、北海道の函館本線・森駅の「いかめし」。80年あまりの歴史を誇るロングセラー駅弁です。この「いかめし」の新作が、現在開催中の京王百貨店新宿店「第57回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」に登場して、話題を呼んでいます。その名も、「3代目のいかめし de 丼!!」。いったい、この新作はどのようにしてできたのか、関係者の皆さんにお話を伺いました。
京王百貨店新宿店「第57回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」見て歩き(前編/全2回)
東京・新宿と京王八王子・高尾山口などを結ぶ京王線。新春は、一部の列車が「迎春」などのヘッドマークを掲げて運行するのが、毎年の恒例です。始発・新宿駅の真上に建つ京王百貨店新宿店の新春恒例催事と言えば、「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」。57回目を迎えた今回は、1月7日(金)~20日(木)まで、「いざ駅弁!!」をテーマに44都道府県の駅弁約300種類と、全国の「うまいもの」が一堂に会しています。
「駅弁膝栗毛」でも新春恒例となっている京王の駅弁大会レポート。今回も、駅弁大会の堀江英喜統括マネージャーのインタビューをお届けします。コロナ禍ではとくに運輸、観光、飲食、イベントの4業界が厳しい状況にあります。そのすべてに関わっているのが「駅弁」。この厳しい状況下で駅弁大会を開催するにあたって、どんなところに骨を折られたのか? 2回に渡ってお届けしてまいります。
●森の「いかめし」を作る、いかめし阿部商店から新作登場!
―今回の目玉企画「人気駅弁屋 新作弁当の競演」は、力が入ってますね?
堀江:なかでも「3代目のいかめし de 丼!!」は注目です。北海道・森駅の駅弁を手掛ける「いかめし阿部商店」さんは、2020年に社長様が3代目に代替わりされ、名物駅弁の「いかめし」が50回連続販売1位となって、前回「殿堂入り」を果たしました。これを受けて、新作の記念弁当を作りたいとおっしゃっていただくことができました。京王百貨店としましても、できる限りの応援をいたしましょうということで、昨年(2021年)夏から共同開発が始まりました。
―いかめし阿部商店さんの「新作」……歴史的なことではありませんか?
堀江:いかめし阿部商店さんでは、先代・先々代の社長様が、「いかめし一本で!」という方針を貫かれてきました。インターネットの通信販売もなく、催事と駅売りにこだわっていらっしゃいました。しかし、時代の変化に伴って、3代目の社長様が、伝統は大切にしながら、変えるべきところは変えて、違うチャレンジもしていきたいということで、そのきっかけとして、今回の“記念弁当”の開発となったわけです。
●こだわりの記念どんぶりと北海道らしさ!
―なぜ、いかめし“丼”になったのですか?
堀江:最初はマグカップ入りのいかめしなど、いろいろなアイディアが出てきました。そのなかで、手ごろさと特別感を両立できるものとして「丼」で話がまとまりました。デザインも「いかめし阿部商店」の屋号を目立たせながら「殿堂入り」を金文字にして、京王百貨店のロゴも内側に入れました。じつは「金文字」の部分は、通常の金色ですと電子レンジに対応できませんが、素材を探しましてレンジでも色が飛ばない「金色」を使っているんです。
―弁当の構成は、どのように決まっていったのですか?
堀江:「いかめし」は殿堂入りするほど味に定評がありますので、このご飯は外せません。カギになるのは「付け合わせ」です。当初はおめでたいので赤かぶと白かぶなどの漬物を考えましたが、試作品でご飯を炊いたところ、かなり濃いめの味になることがわかりました。そのなかで、(駅弁はご当地性が大事ですので、)北海道らしい食材として、じゃがいもやアスパラガスを使おうとなりました。
●3代目社長のユニークなアイデアが光る!
―上に載ったチーズがユニークで、いい味わいなんですよね!
堀江:いかめし阿部商店の今井社長が、「チーズをかけてみたい」というアイデアを提案されました。乳製品は北海道らしいですし、イタリアンでは温野菜とチーズの相性はバッチリです。試行錯誤の末、チーズフォンデュ用のチーズを使って、いかめしと温野菜の上にとろ~りとかけることになりました。そのなかで、今井社長から「(彩りの美しさとして)赤い色が欲しい」となりまして、ミニトマトが加わっていったんです。
―お客さまの反響はいかがですか?
堀江:いかめし阿部商店がいままでに「丼」を出すと企画が発表されると、さまざまなところから反響がありました。今回もインターネット予約を行っていますが、ネット枠では開幕までに、ほぼ完売となりました。開幕後も、平日から多くのお客さまが行列にお並びいただいて、お求めいただく盛況となっています。普段は、全国を飛び回られている今井社長ですが、開幕初日から朝6時に会場入りされて、陣頭指揮で仕込みをされています。
【おしながき】
・いかめしと同じ秘伝のタレで炊いたいかと、炊き込みご飯
・じゃがいも
・アスパラガス
・ミニトマト
・チーズ
―今回は、「いかめし阿部商店」を含め3社で「新作弁当の競演」と銘打っていますが、各社さん、それぞれに開発のご苦労があったんでしょうね?
堀江:コロナ禍で人員を絞り、人手も厳しいなかで、「じっとしていても何も始まらない」と、新作を開発して下さった駅弁屋さんもあると思います。新作を作るには、中身だけでなく、パッケージや折箱なども考える必要があります。それでもしも当たらなければ、包材などは在庫として余ってしまう……そんなリスクを背負ってでも、新たな挑戦をされているんです。この駅弁屋さんの心意気も一緒に味わっていただけたら、とても嬉しいです。
北海道新幹線・新函館北斗駅から、特急「北斗」で25分あまり。駒ヶ岳の麓、噴火湾に面した森駅で販売されて80年あまりの歴史を誇る、定番駅弁「いかめし」。販売ブースで、接客の合間に、いかめし阿部商店の3代目・今井麻椰社長にお話を伺うと、開口一番、「(新作開発は)本当に大変でした!」。開幕ギリギリまで細かい調整があったそうですが、その笑顔からは、しっかりとした手応えも感じている様子。3代目の歩むレールは、山道を突っ切っていくのか、それとも時間をかけて穏やかな海辺へ続いていくのか? 伝統の味の新たな一歩、まずは、自ら味わってみてはいかがでしょうか。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/