「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
今年(2022年)1~3月の間、大阪~下関間で運行されている観光列車「WEST EXPRESS銀河」。下り列車は、広島・山口エリアが夕方時間帯の走行となります。もしも天候に恵まれれば、山陽本線随一の絶景区間で見事な夕日が見られることもあります。そして12時間あまりをかけて、たどり着いた本州最西端・下関のまちで感じたこととは? 3回シリーズでお届けしてきた「WEST EXPRESS銀河」山陽コースの旅、完結編です。
「WEST EXPRESS銀河」山陽コースの旅(第3回/全3回)
大阪~下関間を12時間あまりかけて結ぶ、「WEST EXPRESS銀河」山陽コースの旅。下り列車は大阪を7:19に発車すると、三ノ宮、神戸、西明石、姫路、岡山、倉敷、福山、三原、西条、広島、宮島口、岩国、徳山、新山口、新下関の順に停車し、終点・下関には19:45に到着します。平日は広島で4分、宮島口で4分の停車が終わると、あとは、各駅ともに2分程度の停車時間で速やかに発車して行きます。
●大畠瀬戸の夕日を眺めながら、スイーツタイム!
広島駅を出たところで、尾道市瀬戸田町生まれの人気スイーツ「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」を1人1個、バウチャー券と引き換えて受け取りました。レモンの島として知られる瀬戸田ですが、10年ほど前までは国産レモンの商品はほとんどなく、洋菓子店を開いた地元の方が、このケーキを開発したそう。レモンの果肉を感じながら、甘酸っぱい香りに包まれていただけば、あと3時間あまりの旅路も、元気に過ごすことができそうです。
列車はいよいよ山口県へ。山陽本線は、岩国から柳井にかけて、再び瀬戸内海沿いを走って行きます。目の前に大きな島が見えてきたら周防大島(屋代島)。潮流がうず巻く大畠瀬戸には、昭和51(1976)年に開通した大島大橋が架かっています。開通までは、国鉄の大島航路が、島の小松港と山陽本線大畠駅を結んでいました。山陽本線随一の絶景区間で「WEST EXPRESS銀河」の下り列車は、夕焼けを迎えます。
大島大橋をくぐると、思い切り夕日が列車に差し込んできました。太陽が沈んでいくのは、周防灘に突き出した室津半島の方でしょうか。10時間近く列車に乗り続けたご褒美のような美しさです。神戸・須磨の海で眺めた朝日の光の道が、同じ列車の同じ席にいながら、山口・大畠瀬戸で夕日の光の道に変わりました。これぞ、長距離列車「WEST EXPRESS銀河」ならではの旅の醍醐味ですね!
●徳山の工場夜景を横目に、本州最西端・下関へラストスパート!
「WEST EXPRESS銀河」は夕方6時過ぎ、徳山を発車。新幹線の高架下から一瞬だけ、工場夜景を望むことができます。なお、徳山で宿泊するコースを選択すると、日本夜景遺産に認定されている「晴海親水公園」などを見て回ることができる「周南工場夜景観光タクシーツアー」(2名利用時1人3500円)や、「周南工場夜景ディナープラン」(2500円、2名~)といったオプションツアーの設定もあります。
ある程度、お客様の動きが止まったところで、4号車のフリースペースで記念写真を1枚。日が暮れてしまい、夜行列車に乗ったような記念写真となりました。添乗員さんによると、これまで運行された「WEST EXPRESS銀河」でも、“夜行列車”の人気が高いとのこと。定期夜行列車としては「サンライズ瀬戸・出雲」が孤軍奮闘するなか、夜行列車が持つ非日常の旅に憧れる方が多いのも納得。早くもリピーターのお客様も増えているそうです。
「WEST EXPRESS銀河」は、定刻通り午後7時45分、終点の下関駅に到着しました。私自身も平成13(2001)年に乗車した特急「白鳥」(大阪~青森間)以来となる12時間超えの昼行特急の旅となりましたが、ところどころで見える瀬戸内海の美しい風景を楽しんで、あっという間の1日でした。普通車指定席でも、シートは通常のグリーン車並みに快適で、フリースペースと電源、無料Wi-Fiが充実しているのも、とても重宝だったと感じます。
12時間あまりの旅を終えた「WEST EXPRESS銀河」が、下関の車庫へと引き上げます。暗闇に浮かぶ「銀河」の文字に、昔、携わったラジオ番組で漫画家の松本零士さんが「銀河鉄道999」の汽車が夜空へ上がって行くシーンは、夢を叶えるため上京するときに、関門トンネルから、下関へ登って行く記憶をもとにしたとおっしゃっていたのを思い出しました。「銀河」と名乗る列車が下関にやって来たことに、何となく、心がじんわりとなりました。
●上り列車の食事も、チョットだけ体験!
ちなみに「WEST EXPRESS銀河」山陽コースの上り列車は、下関を10:38に発車します。途中、新下関、宇部、新山口、防府、徳山、柳井、岩国、宮島口、広島、西条、三原、福山、倉敷、岡山、姫路、西明石、神戸、三ノ宮の順に停車し、終点の大阪には、22:02に到着します。上り列車は、柳井で31分、倉敷で36分の長時間停車とおもてなしがあり、他の駅では、概ね1~2分の停車時間となっています。
日曜日に運行される上り列車の夕食として積み込まれるのが、「銀河しまなみ物語」です。福山市の伊呂波が製造している「WEST EXPRESS銀河」の乗客向けの弁当で、じつは、下り列車の福山駅におけるおもてなしの間に、下り限定販売のおつまみセットと一緒に、少数ですが販売があり(1500円)、下り列車の乗客でも、プチ“上り”気分が楽しめます。下関到着が夜8時前となりますので、夕ご飯代わりに仕入れておくのも十分にアリです。
【おしながき】
・広島牛の焼き肉
・鞆の浦保命酒味噌のなす田楽
・小魚ネブトの南蛮漬け
・鯛ちくわ、ガス天
・薔薇の花びらを漬けた大根生酢とママカリ
・福山名産 くわいの煮物
・鯛めし、じゃこめし
伊呂波の「銀河しまなみ物語」は2段重ねのボリュームあるお弁当。瀬戸内、しまなみ、広島県東部の食材を使い、備後地方の名物・名産を取り揃えたと言います。鯛めしとじゃこめしの2つの味が楽しめるご飯に、鞆の浦ゆかりの保命酒味噌のなす田楽や、福山が全国の7割を生産するという野菜・くわいの煮物なども入っています。手作り感あふれる、素朴な食事がいただきたくなるときも、きっとあることでしょう。
大畠瀬戸を上りの「WEST EXPRESS銀河」が大阪を目指します。山陽本線の前身・山陽鉄道は、日本で初の寝台車、食堂車、長距離急行列車を生みました。そんな歴史に思いを馳せて、この列車で山陽本線を旅することは、鉄道150年の今年、大いに意義のあることだと感じました。既に山陽コースの予約受付は終わりましたが、新年度は山陰コース(5~9月)、紀南コース(10~翌3月)の運行が予定されており、山陰コースは先着順で販売されることも発表されました。ツアーの人気はやや高めですが、ちょっと大きめのモーターの音に懐かしさを感じながら、アナタも「WEST EXPRESS銀河」の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/