国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏が4月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2022年版の「外交青書」について解説した。
北方領土を「ロシアに不法占拠されている」と明記 ~2022年版「外交青書」
2022年版「外交青書」の原案が3月31日、判明した。北方領土について「日本固有の領土であるが、現在ロシアに不法占拠されている」と明記した。「不法占拠」の表現は2003年版以来、「日本固有の領土」は2011年版以来の復活となる。
飯田)「不法占拠」は2003年以来なのですね。
神保)ロシアのウクライナ侵略がいかに重大だったかということを示していると思います。日本政府は「ロシアの暴挙には高い代償を支払わせる」と言い、ウクライナ侵攻を「侵略」という非常に強い表現を用いて非難しているわけです。そのあとで、日露平和条約交渉については「現段階では進める環境にない」という発言があり、3月21日にロシア側から丁寧に「日露平和条約交渉は中断する」と宣言されました。
飯田)そうですね。
神保)環境的には躊躇なく、北方領土問題についても、原則論に戻るということだと思います。日露平和条約交渉は安倍元総理のもと、頑張って進められたのだと思うのですが、そこで培われた基盤がウクライナ侵攻で残念ながら崩れてしまったということだと思います。
ロシアのウクライナ侵攻で ~中露、北朝鮮との3正面の備えが必要となる
飯田)ロシアとの向き合い方をかなり変えなければならないですね。今年(2022年)で「国家安全保障戦略」も改定になります。2013年版だとそこまで明記されてはいませんが、「ロシアとの経済協力を含めて関係をつくることにより、中露が強く組み合うことがないようにする。日本は中国の方に集中する」というニュアンスだったと思います。ここも変えていかなければなりませんか?
神保)私も同じように解釈していて、いまの国家安保戦略は2013年度バージョンですが、「ロシアとの関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要」と書かれています。むしろ協力を推進するパートナーとして位置付けているわけです。
飯田)パートナーとして。
神保)飯田さんがおっしゃられた通り、深読みすると、日本の安全保障戦略の本丸は中国であり、日本はロシア・中国の両方と二正面で対峙することは難しい。そのため、まずは日露関係を安定化させて、その戦略資源を中国に集中させる。その結果、ロシアの経済的な利益が中国だけでなく、日本を含めたアジアのさまざまなところに広がれば、ロシアと中国の連携が常にある形ではなく、そこに楔を打ち込めるかも知れない。それによって、利益を複雑化させることを狙う戦略だったと思います。
飯田)なるほど。
神保)この戦略の効力が(2022年)2月24日に終わったのだと思います。ですから、ロシアに関する記述はこれから間違いなく大幅に変更されます。問題はロシアが今後、躊躇なく極東で軍事的な挑発行動を活発化させたり、中露連携が深まって行く懸念があるということです。この流れを止めるのはもはや難しいのですが、日本の安全保障戦略にとっては当然、本丸は中国に変わりないのですが、それに加えてロシアと、核開発をしている北朝鮮の3正面になると思います。もともと3正面なのですが、今後はより明示的な3正面になっていくと思います。
飯田)そこが変わると、南西諸島を含めて、全体が変わっていきますね。
神保)冷戦期、北海道に陸上自衛隊を張り付けて、大規模な部隊を置くという構想から、徐々に南西にシフトして、機動力を中心とした統合防衛力に変えていくという考え方ですが、なかなか一筋縄ではいかないでしょうね。
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