日本一硬いうどん「吉田のうどん」を、東京で出そうと思った「覚悟」
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
富士山のふもと、山梨県富士吉田市の周辺に伝わる「吉田のうどん」。特徴は、何と言っても「日本一硬いうどん」とも云われる、コシの強い麺です。この歯ごたえのある麺に、甘辛く煮た馬肉や茹でキャベツを載せて、醤油と味噌をベースにしたこだわりの出汁でいただきます。
讃岐や稲庭といった有名なうどんに比べると、知名度はまだまだですが、一度ハマるとヤミツキになる方も多く、根強いファンが多い「吉田のうどん」。東京・練馬区、西武池袋線・富士見台駅近くの商店街でうどん店を営む高原操さんも、その独特の味わいに魅せられた1人です。
高原さんは、広島・福山の出身で53歳。都内の大学を卒業後、大手電機メーカーやIT企業の勤務を経て、およそ1年前に「吉田のうどん」のお店、「手打ちうどん力丸」をオープンさせました。
高原さんは会社員時代、仕事で山梨・富士吉田市の辺りをよく訪れていました。取引先の方と「一緒にお昼でも」となると、必ず連れて行かれたのがうどん屋さん。瀬戸内出身の高原さんにとって、それまでうどんと言えば讃岐うどんが定番でした。しかし、「吉田のうどん」に出逢った高原さんは、その味わいに感銘を受けます。
「このコシは、讃岐の美味しさを超えている」
人口およそ5万人の富士吉田市には、およそ50軒のうどん屋さんがあると言います。高原さんは、ふと思いました。
「この美味しさが東京でウケないはずがない。富士吉田市に50軒のお店があるなら、数百万人の方が暮らす東京23区で、1軒くらい本物の『吉田のうどん』を出すお店があればイケるんじゃないか?」
高原さんは、思い切って会社に辞表を出しました。
高原さんは早速、本場のうどんを学ぶため、吉田の名店「くれちうどん」を訪ねました。「東京に本物の吉田のうどんのお店を出したいんです!」と伝えると、お店のご主人は快く仕込みの様子を見せてくれました。
仕込みが始まるのは午前3時。粉と塩水を混ぜ、全体重をかけて足で踏むのを繰り返しながら、丁寧にうどんをつくり、2日間かけて熟成させていきます。高原さんはその様子を映像に収め、何度も再生して、つくり方を体で覚えていきました。
いよいよお客様にお出ししても恥ずかしくない「うどん」がつくれるようになってきた矢先、突然のコロナ禍で街から人が消えました。高原さんもやむなく出店を見合わせて、腕を磨きながらその機会を伺うことにします。しかし、1年近く経っても状況はあまり変わらず、経済的にも苦しくなっていきました。
「もう、覚悟を決めて行くしかない!」
高原さんが肚をくくると、自然と風向きも変わり始めます。自治体や金融機関の支援もどんどん決まっていきました。お店の看板や内装などは奥様の助けを借りながら、ほぼ自前で準備。そして2021年5月24日、「手打ちうどん力丸」は開店にこぎつけました。
高原さんが自ら足で踏みながら打つうどんは、現地の「吉田のうどん」と同じ粉を使用。うどんのつゆも毎朝、現地と同じように煮干しなどで出汁をとり、醤油や味噌で「素朴な味」に仕上げていきます。「吉田のうどん」には欠かせない、「すりだね」という唐辛子をベースにした調味料も、もちろん自家製です。
ただ、最初は「吉田のうどん」独特の硬さに、「これ、生ですよね?」と聞いてくるお客様もいたそうです。しかし、地元の商店街の皆さんに支えてもらいながら続けるうちに、うれしい声が聞こえてくるようになりました。
「ご主人、このお店、ガチで吉田やってるじゃないですか!」
本物の「吉田のうどん」の美味しさが、自然とクチコミで広がって、リピーターになってくれる人も増えてきました。開店から間もなく1年。高原さんは、きょうもうどんを打ちながら手ごたえを感じ始めています。
「手打ちで自家製麺という『吉田のうどん』の当たり前を、東京でも当たり前にしたい。そして、もっともっと一緒に『吉田のうどん』を広めてくれる仲間を増やしていきたい」
高原さんの夢は「吉田のうどん」の如く、硬くコシのあるものへと広がっています。
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