参議院選挙「憲法改正・安全保障問題」が1つの争点に
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ジャーナリストの須田慎一郎が6月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。6月22日に公示される参議院選挙について解説した。
参議院選挙6月22日公示、事実上の選挙戦がスタート
参議院選挙の公示を6月22日に控え、各党は事実上の選挙戦に入っている。各党の党首らは街頭演説に加えてテレビやインターネットの討論会に参加。参議院選挙は125議席をめぐって争われ、7月10日に投開票が行われる。
飯田)6月15日に通常国会が閉会し、夜のニュース番組などに党首が集合するような試みが始まっています。週末の討論番組などでも、そういう顔ぶれになっていました。
須田)「事実上の選挙戦がスタート」という言い方をしていますが、厳密に言うと公職選挙法に違反しているのではないかと、私は思います。投票を呼び掛けるような行為に関して言うと。
飯田)厳密に言えば事前運動という形になります。
焦点は景気対策へフォーカスされつつある ~苦しい展開になる可能性もある自民党
須田)私も19日に事実上の選挙戦を取材しました。いろいろなテーマが出てきていますが、「経済問題、景気、物価上昇」という辺りにフォーカスされつつあるのかなと思います。世論調査を見ると、岸田政権は若干の下落傾向にあります。このまま参議院選挙に突入してしまうと、景気対策において取り戻すようなものを持っているわけではありませんから、少し苦しい展開になるかも知れません。
補正予算が花火となるか
飯田)20日には、政府が物価等々の会議を開催予定です。どのようなものが出てきますか?
須田)選挙戦を強く意識してということなのでしょう。ただ、「物価上昇」と言っても、根本的にはエネルギー、原油や天然ガスの値上がりによる物価上昇です。何か手を打つとしても、補助金を出すくらいしかないのです。それも即効性があるわけではありません。
飯田)補助金を出しても。
須田)花火を打ち上げて、選挙後に本格的に行うことになるでしょう。加えて「補正予算」が1つ、大きな花火になるのかなと思います。「こういう方向でやります」ということを言うしかないでしょう。
大規模な1次補正を行わなかったツケが回ってきている岸田政権
飯田)補正予算に関しては、1次補正を国会の最後にやりましたけれども、2兆7000億円余りという。
須田)小さすぎて、やっているのかやっていないのかわからないような規模ですから、経済的なセンスがないなと思いますね。景気動向や物価上昇について国民、有権者の立場で考えれば、そこがビビッドに選挙戦の結果に影響を及ぼすはずなのに、有効な手立てを何も講じられなかった。
飯田)そうですね。
須田)問題意識がないのか、あるいは財務省との関係で、なかなか大型の補正が組めなかったのか……。そもそも党内外から通常国会のなかで「大規模な1次補正を打つべきではないのか」という要求や指摘はあったわけですから。そこに対して背を向けてきた岸田政権の「ツケ」が、いま回ってきているのだと思います。
飯田)選挙前ということを考えると、補正を大きく打って、「やりました」というところがあるのではないかと、みんな国会の最初のころは言っていましたよね。
須田)私もそう思っていました。補正をやったからといって、すぐにお金が出回るわけではありません。効果が出るまで2ヵ月弱くらいかかるので、選挙には間に合わないけれども、政権として対策を行うことによって、国民の歓心を買うこともできるわけです。なぜそれをやらなかったのか。
自民党の受け皿になっているのは日本維新の会 ~立憲民主党などの対立野党が受け皿になっていない
須田)ただし、与党の支持率が下がっていると言っても、受け皿になっているのは日本維新の会なのです。要するに「自民党には投票できないから、維新だね」というトレンドになっている。立憲民主党などの政権与党に対立する野党が受け皿になっていないのが、弱いところなのかなと思います。
飯田)立憲民主党は物価上昇に関して、消費税の時限的な減税の必要性と、金融緩和をやめるべきだということを訴えています。
野党4党の「時限的消費税減税法案」にも腰が引けている立憲民主党の弱さ
須田)加えて立憲、れいわなどの野党4党は国会の最終盤で「時限的消費税減税法案」を提出しています。ただ、これに関しても立憲は腰が引けていたのです。もともと消費税の増税は、民主党政権時代に打ち出したものですから。
飯田)3党合意がありました。
須田)その整合性に欠けるということです。その辺りで柔軟な発想ができないところも立憲の弱さかなと思います。
飯田)「消費増税は間違っていたから、今回は減税するのだ」という意見を出せばいいけれども、そういうわけにはいかない。
須田)れいわや共産党は「消費税を廃止」と言っているのですが、立憲が入ったことで「5%」になっているわけです。明らかに腰が引けているからなのですよね。
50兆円規模の強制貯蓄 ~使ってもらうためにも経済対策を行うべき
飯田)官邸の周りを取材すると、コロナ禍で使えなくなったお金が貯蓄されて積み上がっている。それに政権は期待していて、「強制貯蓄があるから財政出動しなくても景気は回復する」くらいの感じでいますか?
須田)「文藝春秋」の2021年11月号で、財務省の矢野康治事務次官の論文が出ました。そこでは大規模な財政出動などに後ろ向きな見解を示したのだけれども、そのときの根拠がまさにそこなのです。
飯田)根拠が。
須田)日銀が言うところの強制貯蓄が50兆円規模で積み上がっている、という試算が出ていますけれども、それを使えば大規模な財政出動をしなくてもいいのではないかというのが、財務省の発想なのです。それにいまの政権が完全に押さえ付けられているのではないでしょうか。
飯田)その辺りも、本来であれば議論の1つとして使ってもらえると、政策も変わってくるかなと思うのですけれども。
須田)消費者のマインドを考えると、「将来的にここで使っても大丈夫だ」という状況にならないと、お金は出てこないのです。だからきちんと景気経済対策を行うことが「50兆円の強制貯蓄を使ってもらう」という意味でも、大事なのではないかと思います。
「憲法改正・安全保障問題」が参院選の大きな争点に
飯田)各紙で世論調査等々も出してきていますけれども、経済と並んで安全保障についても関心が高まっています。
須田)「自民党には期待できないけれども、日本維新の会ならということで、若干の層が流れている」と申し上げましたけれども、やはり安全保障、場合によっては憲法改正も含めて、それについては必要だと考えられています。
飯田)憲法改正も含めて。
須田)野党第一党である立憲民主党は、その辺りについて後ろ向きなのではないかという意識が、有権者の間にあるのではないかと思います。今回の参議院選挙でもう1つの大きな争点は、憲法改正問題、あるいは防衛の問題、安全保障の問題に対してどう向き合っていくのかというものになると思います。
飯田)防衛費は最近、議論の中心になってきています。立憲民主党は「金額ありきではない、2%ありきではない。下から積み上げていって必要な額になる」という主張をしています。
須田)それについては、自民党の高市早苗政調会長が「積み上げていけば10兆円規模になる」と断言しています。金額もさることながら、憲法審査会はかなりのテンポで、いまの国会で進みました。これを受けて秋の臨時国会以降にどうなっていくのかということも、1つの大きなポイントになると思います。憲法審査会がこれだけ進んでいくと、「具体的にどの憲法の条文を変えるのか」ということになります。その条文をどういう形で変えていくのかというところで、1つの方向性を打ち出すことが、有権者の選択の幅を広げるという点で必要なのではないかと思います。
飯田)憲法審査会は毎週木曜日に行われていました。国民投票法の改正等々も議論されたところですが、最後は内閣不信任案の審議で流れてしまいました。
須田)一方で、立憲民主党は予算委員会の審議と並行して、憲法審査会を開くことを認めました。これをひっくり返すわけにはいかないと思います。
飯田)次の臨時国会、あるいは次の通常国会でもですか。
「いまの憲法では日本の安全保障は維持できない」という意識が強くなっている有権者
飯田)選挙前であまりに後ろ向きだと、それはそれで見栄えが悪いということで、今回の国会では限定的に応じたのではないかという指摘もあります。
須田)おっしゃる通りなのですけれども、そこで手のひらを返してしまうと、立憲民主党に対して国民世論が見限るという局面も出てくるのではないかと思います。
飯田)国の形そのものを考えるという大きな話ですものね。
須田)ロシアのウクライナ侵略や、中国の尖閣を含めた東アジアでの圧力を考えると、局面は大きく変わっています。有権者としても、「いまのままの憲法で本当にいいのか」というところです。護憲だけではとてもではないけれど、日本の安全保障を維持できないという意識の方が強くなってきているのではないかと思います。
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