広島・三原の老舗駅弁屋さんが、お米1粒1粒に込める愛情とは?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁屋さんの取材で楽しいことの1つは、それぞれの駅弁屋さんの「米」へのこだわりを伺うこと。それぞれの駅弁屋さんには、それぞれのこだわりがあり、その違いを感じると、駅弁がまた一段と美味しく感じられるものです。今回は、広島・三原駅と福山駅の駅弁を手掛ける「株式会社浜吉」のお米と食材へのこだわりを伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第35弾・浜吉編(第5回/全6回)
山陽本線の尾道駅から路線バスで10分あまり、山陽新幹線の「新尾道駅」があります。昭和63(1988)年、東広島駅と同時に開業した新幹線単独駅で、基本は、毎時1本の「こだま」のみが停車。「のぞみ」「みずほ」「さくら」などの速達列車は通過していきます。三原までは約10km、約6分の距離で、山陽新幹線では、最も短い駅間となっています。尾道市の内陸部へのアクセスには、重宝な場所にある駅です。
そんな尾道をルーツに持つ駅弁業者「株式会社浜吉」。6代目の赤枝俊郎(しゅんろう)代表取締役は、学生時代から飲食業界に携わり、縁あって駅弁業者の社長となりました。その食べ物好きの原点は、母親の作ってくれた「玉子焼き」なのだそう。とりわけ、大きな玉子焼きを作ってくれた記憶が、いまもよみがえると言います。今回は、玉子焼きを含め、浜吉の食材へのこだわりを伺いました。
●お客様のために、お米1粒1粒を「優しく」炊き上げたい!
―浜吉の駅弁では、どんなお米を使っていますか?
赤枝:(2021年産米の食味ランキングで初めて最高ランクの「特A」を獲得した)広島県産の「恋の予感」というお米を使用しています。基本的に固くなりすぎず、冷めてもふっくらやわらかい食感が楽しめます。基本的にお米は、その時々で良いものを選択しています。かつては、お米の問屋さんにブレンドしてもらっていた時期もありましたが、現在は一種類のお米のみを使うようにしています。
―ごはんの炊き方のこだわりはありますか?
赤枝:お米は「優しく」扱うことに尽きると思います。最初にお水を入れるときもそっと入れて、お米が割れてしまわないように丁寧に扱います。米粒が割れてしまうと、ご飯の粒が小さくなってしまうので、お客様にご満足いただけないんです。もしもお米を荒っぽく扱っていると、あとで(それに応じた)結果が出ると思います。自動炊飯システムを導入してはいますが、需要に応じて、丸いガス釜を使用するときもあります。
●鯛の駅弁文化を復活させタイ!
―「元祖珍辨たこめし」をはじめ、瀬戸内の駅弁は魚介類が基本ですが、近年は価格の高騰で大変ですね?
赤枝:たこはすっかり高級魚となってしまいました。駅弁としてお求めいただく価格帯では、まず地元産を使うことはできません。一方、浜吉には戦前から戦後にかけて、鞆の浦の名物にちなんだ「鯛の浜焼き」がありました。もともとは、都ホテルの列車食堂から、依頼を受けたもので、山陽本線の優等列車の車内で予約を受け付けて、浜吉に連絡が入り、糸崎で列車に積み込んでいました。
―そういえば昔、「鯛の浜焼弁当」という駅弁がありましたね!
赤枝:「鯛の浜焼」は、とても美味しくご好評をいただいていましたので、私が経営に関わるようになって、新たに駅弁として「鯛の浜焼弁当」を出したんです。ただ、鯛の駅弁は、いろいろな工夫を試みてみるのですが、いまの時代は、なかなかお客様に響かないんです。味わいも淡白で、(魚の)匂いが気になるお客様も多いんですね。でも、鞆の浦といえば、「鯛」ですので、またいつか、鯛の駅弁を出したいとは考えています。
●浜吉こだわり、オーダーメイドの「玉子焼き」!
―昔、糸崎に住んでいたというラジオ番組のパーソナリティも絶賛していたのが、浜吉の「錦糸玉子(玉子焼き)」なんですが、改めていただくと、本当にユニークですよね?
赤枝:「元祖珍辨たこめし」などに使っている錦糸玉子は、昔から自社生産していました。もちろん、だし巻き玉子も自社で焼いていたんです。でも、いまは、安全基準が高くなってしまったため、専門の業者さんに製造を委託し、オーダーメイドで焼いてもらっています。おかげで、いまもたこめしなどでは、焼き目が入った少し太めの、昔ながらの錦糸玉子を実現しています。ふつうの玉子焼きは、レシピをお渡しして地元の業者に委託しています。
―調味料をはじめ、ご当地性へのこだわりは?
赤枝:調味料のこだわりは、やっぱり出汁ですね。出汁の舌ざわりだと思います。備後のご当地性のある駅弁としては、三原ゆかりのたこめしはもちろんですが、福山に進出したときに開発した「松茸すき焼き弁当」もその1つですね。牛肉には、広島・なかやま牧場の「なかやま牛」を使っています。松茸シーズンではない春は、「春彩すき焼き弁当」として、販売しています。現在のお客様の好みは、どうしても肉駅弁が主力なんですよね。
毎月29日は「肉の日」だけに、肉駅弁を選びたいという方もいるかも知れません。例年、12月~6月までの間、浜吉の牛肉駅弁は、「春彩すき焼き弁当」(1250円)となります。その意味では、今年(2022年)のうちに「春彩すき焼き弁当」をいただくことができるのは、きょう(6月29日)・明日の2日間を逃すと、次は年末の12月となります。今年上半期の牛肉駅弁の食べ納めには、ちょうどいいチョイスかも知れませんね。
【おしながき】
・味付けご飯
・牛肉旨煮(なかやま牛使用)
ごぼう しめじ 菜の花 人参 筍 桜花塩漬け
・玉子焼き
・ガリ
味付けご飯の上には、広島のブランド牛・なかやま牛の旨煮がたっぷりと載せられていて、一緒に煮付けられたごぼうとしめじが、いいアクセントとなっています。これに筍と菜の花、人参と桜の花が彩りを添えて、季節感を演出しています。おかずには浜吉自慢の玉子焼きもしっかり入っていて、満足度も高いもの。牛肉駅弁と聞くと、ガッツリしたイメージがありますが、季節感を添えることで気持ちあっさり、上品に仕上げているのが嬉しいですね。
130年前の夏に開業した、山陽本線の尾道~糸崎間を、最新鋭のステンレスの電車が、潮風を浴びながら、軽快に走り抜けていきます。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第35弾・浜吉編、次回はいよいよ、赤枝社長インタビューの完結編。これからの三原・福山駅弁、そして。日本の駅弁について、じっくりとお話しいただきます。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/