医師で医療ジャーナリストの森田豊氏が8月19日、ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」に出演。自身の母の認知症について解説した。
認知症患者には「病識」がない
飯田浩司アナウンサー)森田先生は認知症を患ったお母さまと23年間過ごし、『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社刊)を上梓されました。今回は認知症患者のご家族としての経験から、認知症の予防、対策について伺います。
森田)認知症の大きな特徴である「病識がない」ということをお話ししたいと思います。病識というのは、自分が病気であるということを意識することです。病気を治療する上で、自分が病気であると認識できなければ、治療に積極的になれません。人は「病気かも知れない」と思ったときに初めて検査を受けるわけです。
「軽度認知障害」の時点で治療を始めれば元の状態に戻すこともできる
森田)母の場合は、認知症になってからまったく病識がなかったので、検査も受けず、治療も受けませんでした。認知症になる一歩手前に、「軽度認知障害」という状態があります。この軽度認知障害の状態であれば、病識があるのです。「最近、物忘れが激しくなったなあ。危ないなあ」というような症状が出てきます。
飯田)軽度認知障害のときには。
森田)病院に行き、診断を下して治療を開始するタイミングは、この時点なのではないかと思います。
飯田)治療を始めるタイミングであると。
森田)軽度認知障害のことを英語ではMCIと言いますが、この段階で適切な対策や治療を行えば、認知症の発症を遅らせることもできますし、場合によっては元の状態に戻すこともできると考えられています。
こんな症状の場合は軽度認知障害を疑う
新行市佳アナウンサー)軽度認知障害かどうかをチェックする場合のポイントは何ですか?
森田)物忘れが目立つようになってきた。また、物忘れとは関係なく、仕事や家事の効率が悪くなってきた。何となく元気や意欲がなくなってきた。普段と違う出来事を嫌がるようになってきた。趣味から遠ざかるようになってきた。付き合いの範囲が狭くなってきた。このように認知症とはかけ離れていても、普段の自分の性格とは違うような行動パターンを示したときに、軽度認知障害の可能性があります。
飯田)なるほど。
森田)母の場合を振り返ってみると、23年前に私たちがアメリカから帰って来たときが、軽度認知障害の始まりだったのかなと思います。
介護によって起こる「精神的負担」は家族みんなで共有する
飯田)最後に、この本を先生が纏められた理由をお聞かせください。
森田)認知症と介護は、それぞれの家族の事情があります。私の本が1つの体験記として参考になればと思います。なかなか自分の家族を客観的に見ることはできません。介護に関しても、私の場合は母の希望通り、姉にお願いする形になってしまいました。結果的に、肉体的、精神的に姉に負担を掛けてしまいました。姉が母の介護のことで、よく涙を流していたということも耳にしました。
飯田)お姉さまが。
森田)肉体的に、時間的に介護の負担が多い人ができても、これは仕方がないと思うのです。ただ、精神的な負担は、できるだけみんなで共有しなければならないのだなと痛感しました。
飯田)精神的な負担はみんなで共有する。
森田)生きていると、いろいろなトラブルが起こります。誰しも介護にはどこかで直面します。そのときに「何が正解か」ということはどの本にも書いていません。この本を読んでいただくことで、1つのヒントになればと思いましたし、このヒントでは足りない方は、家族で十分に情報を共有していただく。場合によっては介護のプロに聞いていただいて、これからの高齢化社会を何とか乗り切っていただきたいと思います。それが私の願いです。
番組情報
医師が週替わりで登場。
飯田浩司アナウンサーと新行市佳アナウンサーが、健康に関する疑問や予防法、症状、治療法などを聞きます