追い込まれ「破れかぶれ」のプーチン 予備役動員の大統領令に署名
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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が9月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。露プーチン大統領が署名した予備役を動員する大統領令について解説した。
ロシア・プーチン大統領が予備役を動員する大統領令に署名
ロシアのプーチン大統領は9月21日、国民向けのビデオ演説で軍隊経験のある一部の予備役を動員する大統領令に署名したと明らかにした。また24日には、動員や戒厳令の期間中、あるいは戦時中に兵役を拒否したり脱走したりした者に厳罰を科すことを規定した刑法の改正案を承認した。
飯田)この発表後、ロシア各地ではデモが起こっており、拘束者もかなり出ているということです。国外に脱出しようとする男性の若者が増加していることも、週末にかけて報じられています。こういう判断をするということは、プーチン大統領は追い詰められているのですか?
破れかぶれのプーチン大統領 ~疑問を持つロシア国民は少なくない
兼原)破れかぶれだと思います。20万人対20万人で戦争を始めたのですが、ウクライナに全力で反撃され、困ってしまっているわけです。ロシアの方では、この戦争はまったく人気がありません。
飯田)ロシア国内では。
兼原)ロシアが勝とうと思ったら、核を使うか総動員するしかないのです。核は簡単に使えないので動員をかけようと思うと、人口は1億5000万人対4000万人なので勝てるのですけれども、国民がついていかなければ戦争には勝てません。
飯田)国民がついてこなければ。
兼原)「これはプーチン大統領の戦争でしょう」とみんな思っているわけです。ロシア軍は兵隊の使い方が乱暴なのです。
飯田)戦場に放り出すような状態になってしまう。
兼原)攻め込まれると強い人たちなのですけれども、攻め込むと案外、ロシア軍は弱いのです。大義がない戦争には弱い。アフガンでも負けましたし、今回も「なぜまた」という感じになっているのではないでしょうか。
「戦争へ行け」と言われたら「冗談ではない」と思っているモスクワの若者
兼原)プーチン大統領の言う「大ロシア復活」が心に響いている人もいますけれども、「お前が死ぬのだ」と言われたら、「冗談ではない」というような若い人が都市部にはたくさんいると思います。
飯田)これまでウクライナ侵略に関して、動員されていたのは極東方面の住民だという報道もあります。
兼原)ここ10年くらい情報がコントロールされているので、田舎の人たちはプーチン大統領の言い分しか聞いていないのです。可哀想ですけれども、「お国のために」という人もいると思います。
飯田)田舎の人には。
兼原)しかしモスクワにいる若者たちは、フェイスブックなどを見ていたわけです。「ウクライナ情勢は自分の問題ではない」と思っていたのです。
戦闘で亡くなって帰って来た我が子を見て激昂するロシアの母親たち ~消耗率の高い今回の戦争
飯田)動員もとりあえずは30万人であって、「人口の1%くらいだから大したことはない」ということを、SNSで一生懸命プロパガンダしようとしています。ロシア国民からしても、そろそろ疑問が出てきますか?
兼原)そうだと思います。亡くなってビニール袋に入った我が子が帰ってきた母親は、「こんな話は聞いていない」と激昂するわけです。戦争の仕方が乱暴な人たちなので、多くの人が亡くなります。20万人を動かして、8万人くらいの死傷者が出たと言われていますから、かなりの消耗率です。ウクライナ側もそうですが、激しい戦争なのです。
ウクライナとの戦いに勝つためには動員か核使用しかないロシア ~そこで動員に踏み込んできた
兼原)さらに30万人を動員したら、国民は「何のためにやっているのだ」と思うでしょう。攻め込まれたときはみんな頑張りますけれども、攻めていると「何をやっているのだ」となると思うのです。
飯田)攻めているときには。
兼原)そうするとプーチン大統領は足元から崩れます。ただ、負けるわけにはいかないので、勝とうと思ったら動員か核しかありません。数で勝つか、核を使うしかないのです。そこで動員に踏み込んできたということは、切羽詰まっているのだと思います。
士気がまったく違うロシア軍とウクライナ軍の兵士 ~義勇軍として自ら参加するウクライナ国民
飯田)他方、核の部分と関連して言われるのが、ウクライナ東部や南部、ドネツク、ルガンスクなどの4州で「住民投票とされるもの」を行い、ロシアのなかに併合してしまおうという話が出ています。そうすると自分たちの領土を守るために、核を使うような方向になってくるのですか?
兼原)共産革命は輸出型の戦争ですから、入ったら反対する人は殺すか、牢屋に入れてしまうわけです。「99%が賛成しました」と言って併合するのです。
飯田)住民投票をしたとして。
兼原)しかしインチキなので、うまくいかないと思います。実施したあとで今度は「自分のものだ」と言い始めます。そして、敵軍が入ってくると核を使う。結局、ウクライナに対して核を使うわけです。
飯田)ウクライナ軍が入ってくると。
兼原)現場にいる人たちは堪らないと思いますよ。ロシア軍が入ってきて、「きょうからロシア人だ」と言われ、学校に行ったらロシア語を教えられる。そしてウクライナ軍が解放に入ってきたら、核を使われるわけです。それは堪りません。
獲るところを早く獲って終わりにしたいプーチン大統領 ~取り返しにきたら「核を使う」と脅す
兼原)「核を使う」と脅さなければ、ウクライナが取り返しにくるのではないかと思っているのでしょう。ウクライナは人口4000万人の国で、軍隊は20万人ですけれども、国民は怒っているから、どんどん義勇兵として入ってくるわけです。士気が全然違います。ウクライナ軍は士気がとても高いのです。
飯田)ウクライナ軍は。
兼原)後ろにNATOがついていますが、NATOの経済力はロシアの30倍です。お金と武器があるわけです。プーチン大統領からすると、「どうやって終わりにするのか」と思っているでしょう。早く獲るところを獲って、住民投票を行い、取り返しにきたら「核を使うぞ」と脅して終わりたいと思っているのではないでしょうか。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領はそうは思っておらず、取り返しに行くと思います。
クリミアまで取り返そうと止まらないウクライナ
飯田)ウクライナ側は世論調査などを見ても、国民が一致団結して取り返すのだと。クリミアまで取り返すという方向になっています。
兼原)逆に今度は、ウクライナがどこで止まるのかということです。そこは西側も「徹底的にやるのではないか」という感じになっています。冬になれば少し戦闘が収まり、やや頭が冷えると思いますけれども。
飯田)冬になれば。
兼原)そして、この冬のヨーロッパのエネルギー危機を越えれば、何か動きがあるかも知れません。とりあえず「冬がくる前に1回勝負をつけよう」ということで、いまゼレンスキー大統領の方は進めているのだと思います。
飯田)ウクライナ側は。
侵攻されたウクライナに「諦めろ」とは言えないNATO
飯田)ロシアが核をちらつかせることによってNATO側が怯み、支援などが滞るような可能性はありますか?
兼原)アメリカは核戦争にエスカレートするのが嫌なのです。戦略核の撃ち合いになるのは避けたい。ですから慎重に動くと思いますけれど、核を使ったら、NATOが介入するなど局面が変わると思います。NATO軍はNATO軍で怯みませんから、負けて終わるということはあり得ません。そうなると、かなり悲惨な戦争になります。
飯田)アメリカとしては何とか避けたい。
兼原)そうですね。ジリジリと押してもらって停戦したいと思っているのでしょうが、ウクライナが「全部取り返すまでは終わらない」と言い始めているので、どこで線引きするかが難しいのだと思います。ウクライナに対して「そちらがやめろ」とは言えないわけです。
飯田)大義がどちらにあるかと言えば、ウクライナ側にある。
兼原)侵攻された国に「諦めろ」とは言えないですよね。「取り返しに行く」と言われたら、「頑張って」ということになります。
飯田)「諦めろ」とは言えないですね。
兼原)ロシアがエネルギーを占めているので、ヨーロッパはつらいですよね。ヨーロッパも「どこまでやるのだろうか」と思っているのではないでしょうか。アメリカはシェールガスがあるからいいのですけれども。
飯田)ヨーロッパの国は。
兼原)アメリカはゼレンスキーさんが頑張っている以上、バイデンさんは「やめろ」とは言えないと思います。ズルズル引っ張っているような感じです。20万人対20万人で戦争をしているので、両方の死傷者が10万人を超えてくると、そろそろ「疲れたかな」という感じになると思います。しかし、この冬を越すくらいまではウクライナ軍は元気そうですよね。
米英とドイツやフランスとでは温度差も ~ロシアが本当に怖い旧ワルシャワ条約機構の国
飯田)エネルギーの話ですけれども、ヨーロッパのなかでも大陸ヨーロッパとイギリスでは温度差がありそうです。
兼原)イギリスはロシアがあまり好きではないので、アメリカと一緒に頑張って応援しようと思っているのでしょう。
飯田)イギリスは。
兼原)ドイツとフランスは、もともとミンスク合意というものをつくって、「ウクライナが泣いたらいい」というところがあるのです。「弱い奴が泣いたら収まるのだ」という考え方が少しある。戦国武将のような発想をするのです。
飯田)ドイツやフランスは。
兼原)アメリカはそんな発想がなく、ドメスティックバイオレンスで離婚するようなものだと思っているから、「本人が嫌だと言っているではないか」という考え方をします。「暴力をふるうな」ということで入ってきているのです。
飯田)アメリカは。
兼原)大陸ヨーロッパとイギリス、アメリカでは少し捉え方が違います。あとは旧ワルシャワ条約機構の国はロシアが本当に怖いので、ウクライナに「思いきりやってください」という気持ちがあるのです。
飯田)ここで叩いておかなかったら。
兼原)次は自分だと思っている。ハンガリー動乱やプラハの春など、戦車が入ってきた経験もあります。国が小さいから、当時はみんなすぐ降参してしまっているのです。ウクライナは大きいから戦っていますけれども、「あれを再びやられたらおしまいだ」と思っているのです。
ロシアに勝ち目がなくなれば、中国はロシアを捨てる
飯田)中国はどのように動くと思いますか?
兼原)中国の立ち位置は賢いので、若干アメリカに気を遣ってプーチン大統領から少し距離を置いています。安い石油も次々に買ってはいないし、進んで武器を渡すこともしていません。「モラルサポート」のような感じではないでしょうか。「ここで一緒にプーチン大統領と沈んで堪るか」と思っているのでしょう。
飯田)間合いを考えている。
兼原)彼らも戦国武将なので、負ける方にはつきません。「豊臣勢は不利でござるな」というようなことです。
飯田)いまは様子見、高みの見物という。
兼原)「豊臣恩顧の問題がござるが、関ヶ原まで来ては付き合えませんな」というようなことです。残酷なものですよね。
飯田)一気に寝返るという。
兼原)寝返りはしませんけれども、1回見捨てますよね。
飯田)インドもそういうところがありますか?
兼原)インドはもともと米中国交正常化のときに、いやいやロシアにくっついたのです。武器を買わなくてはいけなかったので、いま乗り換えている最中です。
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