それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
九州・福岡県北部の街、中間市。北九州市の隣、かつては炭鉱で栄えた人口約4万人の街です。街の真ん中を流れる「遠賀川」は、石炭産業を支えたことから「母なる川」と呼ばれ、いまも地元の皆さんに愛されています。
中間市にある福岡県立中間高等学校は、今年(2023年)で創立40周年を迎えた、全校生徒約600人が通う普通科のみの公立高校です。素直で純朴な生徒が多いぶん、先生方は「自分の意志で人生を切り拓いていくことができる」生徒を育てたいと、長年、試行錯誤を続けてきました。
そんな取り組みのなかで2017年から始まったのが、学校のゴミ箱の撤去です。各教室のゴミ箱をなくし、それぞれの階で1個~2個に減らしました。
実は、中間市は自前のごみ処理施設がなく、隣の北九州市に処理を委託しています。そこで、ゴミ処理費用の節約を兼ね、「ゴミ箱をなくしてゴミを減らそう」という方針になったのです。ゴミ箱撤去は思いのほか、生徒たちにも受け入れられていきます。
「教室だと、そもそもゴミはあまり出ないし。出たって消しゴムのカスくらいでしょう?」
幸い、生徒にお弁当を持たせてくれる保護者の方も多く、お昼時にゴミ箱がコンビニ弁当の空き容器で溢れかえることもありませんでした。
「ゴミ減量は、SDGsの目標の12番『つくる責任・つかう責任』に該当する……。SDGsは生徒たちの成長にも通じるものがあるのではないか?」
中間高校では、2019年から校内に「SDGs委員会」を発足。高校3年間を通じて、「SDGsをふまえた自己表現力の育成」を目指した取り組みが始まりました。
中間高校の「SDGs委員会」は各クラス2名が選出され、1学年10名、全校では30名で構成されています。しかし、約600人の生徒と数十人の教職員の学校だけでできることには、おのずと限界がありました。
そんな折、隣の北九州市と大手精密機械メーカーが一緒に取り組んでいる「古紙再生プロジェクト」を紹介されます。訊けば、ボタン1つで使用済みの紙を細長い繊維に分解し、さまざまな厚さや色の再生紙を生成できる、世界最新の機械があると言います。中間高校の「SDGs委員会」の生徒たちや先生方は、目を丸くしました。
「その機械を使わせてもらって、学校の授業で使ったプリントを再生した卒業証書をつくりたい!」
「SDGs委員会」は、さっそく学校に「古紙回収ボックス」を設置しました。2年生が中心となり、先輩である3年生のために卒業証書をつくることも決まります。また、再生紙の色も選べることから、証書の色は委員の話し合いで、当時の3年生の学年カラーだった「青」に決めました。
ところが、肝心の古紙が集まりません。大事なプリントは生徒たちが持ち帰り、裏が白い紙はメモとして活用されていました。委員会の生徒たちはこまめに声を掛け、古紙回収ボックスもより目立つように工夫します。もちろん、先生方もできる限り協力しました。
「SDGs委員会」の発足から3年目を迎えた2021年夏、約6000枚を超える古紙が集まり、証書がつくられることになりました。書き込みがあったり、蛍光ペンが引かれたり、1人1人の高校生活が詰まった古紙。委員立ち会いのもと、古紙が再生紙をつくる機械に投入されます。
数分で青い再生紙が機械から飛び出してくると、生徒の皆さんが歓声を上げました。しかも、出来上がった証書には再生紙特有の1枚1枚違った模様が入っています。
「私たちの努力の結晶ですね!」
委員のリーダーを務めた生徒さんがそう語ってできた卒業証書は、2022年春、無事に卒業生へと手渡されました。
それから1年、初めて古紙を使った卒業証書づくりに取り組んだ生徒たちが、卒業のときを迎えました。今年の卒業証書も、後輩たちが一生懸命集めてくれた古紙でできています。
3月1日は中間高校の卒業式。卒業生1人1人がそれぞれの思い出を胸に、今年の学年カラー・桜色の卒業証書を手にします。
番組情報
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