国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月12日に米ワシントンで開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議について解説した。
G7財務相会合、金融不安対策や対ロシア結束を確認
米ワシントンで4月12日(日本時間13日未明)、先進7ヵ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。日本からは鈴木財務大臣と、就任したばかりの日銀の植田総裁が出席。米欧でくすぶる金融不安に関して、金融システムの安定に向け「適切な行動を取る用意がある」とする共同声明を採択した。また、ロシアによるウクライナ侵略に関しては、声明に「侵略戦争を非難することへの結束を再確認する」と明記した。
飯田)経済に関する会議が中心だそうですが、ウクライナ情勢も話し合わないわけにはいかない。経済面からのアプローチをどうご覧になりますか?
神保)ウクライナ戦争が始まって1年以上が経ちます。各国が経済制裁を強め、ロシアの体力を奪って、ロシアの即時撤退を経済面からプッシュすることが重要なポイントです。
ロシアへの経済制裁に抜け道が生まれてしまっている
神保)その根本となるのが金融制裁です。特にロシアを国際銀行間通信協会(SWIFT)と呼ばれる経済システムから外し、世界市場のなかでドル決済ができないようにしていました。しかし、この1年で何が起きたかと言うと、いろいろな形で抜け道が生まれてしまった。
飯田)抜け道が生じた。
神保)人民元もあればデジタル決済というやり方もあるし、物々取引のような方法もあり、いろいろな形の取引が依然としてロシア経済を支えています。
ロシアの2022年の実質経済成長率のマイナスは、前年比2.1%減にすぎない ~再び経済制裁を強めていくために各国の協力、G7の結束が大事
神保)経済制裁が実際に効いているのかどうかですが、国際通貨基金(IMF)によると、2022年の成長率のマイナスは、2.1%減にすぎなかった。ロシアは2009年のリーマンショック当時はマイナス7.8%で、新型コロナウイルス感染拡大の影響があった2020年でもマイナス2.7%ですから。
飯田)それよりも少なかった。
神保)経済制裁・金融制裁が、あまりロシアにダメージを与えられていないということです。ウクライナはマイナス30%というような数字ですから。
飯田)ウクライナは生産手段などを直接破壊されているわけですからね。
神保)長期的に戦い抜いてロシアを追い込んでいくためには、再び経済制裁を強めるという各国の協力、特にG7内での結束の確認は大事だと思います。
ロシアへ経済制裁を行っているのは40ヵ国弱 ~国連加盟国約160ヵ国はロシアとの取引を続けている
飯田)ロシアへの経済制裁に関しては、日本も含めて西側の先進国は行っています。世界的に見るとどうなのですか?
神保)実際は40ヵ国弱です。いま私が確認しているのは38ヵ国という数字ですが、それらの国しか経済制裁に参加していません。
飯田)国連加盟国で考えると、190ヵ国あまりの国がありますよね。
神保)残りの約160ヵ国はそのスキームに参加せず、ロシアと取引を続けている。例えばエネルギーや食料などの取引を続けなければならない国もあれば、ロシアから兵器・武器を買っている国もあります。
飯田)約160ヵ国のなかには。
神保)中国のように半導体の供給も含めたさまざまな取引を支えている国もあるし、エネルギー価格が全体的に高騰するなかで、(天然ガスなどの)安くなったロシア産エネルギーを買うような国が、実はインドを含めてあるわけです。
飯田)インドを含めて。
神保)財政的な圧力をあまり与えられる構図になっていない。2023年四半期はロシアの財政が弱まっているという数値もあるのですが、それがどう推移するかをよく見ていく必要があると思います。
OPECプラスが石油を減産したため価格が上昇 ~ロシアの財政を潤すことに
飯田)エネルギーに関しても先日、OPECプラスが石油の減産を行い、そのぶん価格が上がってしまいました。逆行しているのではないかと、我々としては思うのですが。
神保)我々としては、エネルギーに関するサプライチェーンをしっかり整えてもらいたい。エネルギー価格を安定化させれば、ロシアが高止まりしたエネルギー価格のなかで財政を潤すという構造もなくなるので、「ぜひ増産してください」というところです。バイデン大統領が2022年にサウジアラビアまで行き、人権問題などの懸念がありながらも頭を下げました。
飯田)中東を訪問しましたね。
神保)ところが、サウジアラビアはこれをほぼ聞き入れませんでした。
アメリカの影響力の低下 ~同盟の結束を引き締めるためにもG7の外相会談や首脳会談が大事になる
神保)その上で何が起こったかと言うと、「対イラン」で結束しようとしていた中東諸国の新しい流れをひっくり返すような形で、サウジアラビアとイランの国交回復が中国の仲介によって進んでしまった。アメリカの影響力低下、中国の影響力拡大が同時並行的に起きていると思います。
飯田)アメリカの影響力の低下は、中東に限ったものですか?
神保)中東だけではありません。ヨーロッパにおいても、フランスのマクロンさんが中国に行って大型の取引をしてしまった。国内問題もありますし、フランスの戦略的自律性もあると思いますが、G7の結束、そして、アジアとヨーロッパの安全保障環境を互いに考慮し合う姿勢もどこへいったのかということになってしまう。いろいろなところで同盟の結束に軋みが生じやすい時期に入っています。それも含めて、G7の外相会談や首脳会談は大事だと思います。
飯田)ワシントンで財務相会合が行われていますが、近日には日本各地でいろいろな大臣会合が行われます。特に外相会合やデジタル担当大臣、環境大臣の会合も行われます。
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