国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアの偽情報を非難するというG7外相会合の共同声明原案について解説した。
「ロシアの偽情報を非難」G7外相会合の共同声明原案
飯田)ロシアによるウクライナ侵略に関して、「ロシアの偽情報を非難する」というG7外相会合の共同声明原案が出ています。
神保)アメリカの機密情報がインターネット上に流出していることが報じられています。流出したのは米国防総省のブリーフィング資料などで、ウクライナ軍の情勢や兵器供給の状況、実際にウクライナ軍をドイツ国内でどうトレーニングしているかなど、作戦計画も含めたものがリーク情報で出てしまったのだと思います。
流出した情報に偽情報を混ぜて流し、世界の世論をロシアに有利な方向に
神保)流出した情報が真実だとすると、ロシアはそのなかに偽情報を混ぜて、明らかに偽だけれど真実のように見せているのです。インターネット上の情報ですから、いくらでも加工できてしまいます。
飯田)偽情報を混ぜて流す。
神保)いま情報戦が行われているのは間違いありません。西側の情報はウクライナ側にかなり有利な形で、ニュース情報も制御できているのですが、ここへ来てロシアがかなり激しく巻き返していると思います。
飯田)ロシアが巻き返している。
神保)偽情報によって世界の世論が「あれ? ロシアはそんなに悪くないのか」、「ウクライナ軍は実は腐敗している」という方向になってしまうと、世界のウクライナに対する支援の形さえも大きく変わってしまう。しっかりと偽情報対策は行わなければなりません。偽情報は世論に大きな影響を与えます。
ウクライナが侵略された領土を取り戻した段階で停戦するのが1つの正義の形
飯田)即時停戦論などが日本国内でも出てくるようになりました。ただ、「いろいろな問題がある」と言う国際政治学者の方がたくさんいらっしゃいます。
神保)議論はたくさんあっていいと思います。戦争がどう終わるのかということは、まさに世界中で議論しなくてはいけない。当然、今回のロシアによる侵略は国際法を完全に踏みにじる行為ですから、原状回復させるべきだという議論があります。そのためには、ウクライナが侵略された領土を取り戻すという軍事オペレーションを支持し、取り戻した段階で停戦するというのが、1つの正義の形だと思います。
戦争によって失われる被害をどこまでコストとして考えることができるか ~ウクライナの指導者・国民の考え、ロシアの行動を正確に知ることが必要
神保)しかし、それを取り戻すまでには、戦争によって失われる多くの命や物的被害を、どこまでコストとして考えられるのかという、いわゆるヒューマニズムと倫理の問題があります。これも議論の俎上に載せるべきだと思います。
飯田)戦争によって生まれる被害を、どこまでコストとして考えられるか。
神保)情報において大事なのは、ウクライナの指導者・国民がいまどのように考えていて、ロシアがいま一体何をしているのか、できるだけ正確に知ることです。その上で議論を深めることが大事だと思います。
「ロシアによるウクライナ侵略はなぜ起こったのか」「ウクライナ軍はどのように戦っているか」「この戦争がどのように終わるのか」 ~それぞれの教訓によって次の戦争の起こりやすさが決まる
飯田)神保さんも含めて、専門家の皆さんがネット上でさまざまな論考を出しています。「API地経学ブリーフィング」に最新で上がっているところでは、戦争の終わらせ方、また次の大きな侵略をどう防ぐのかという視点も含めて議論されています。
神保)ロシアによるウクライナ侵攻がなぜ起こったのか、ウクライナ軍がどのように戦っているのか、この戦争がどのように終わるのか。この3つのフェーズがあって、それぞれに多くの教訓がある。その教訓によって、次の時代の戦争の起こりやすさが決まってくると考えています。
侵略者に「これほど多くのコストが掛かる」という教訓を与えてこの戦争を終わらせることができるのか
神保)最初は「どうして抑止に失敗したのだろうか」と反省し、立て直さなければいけません。ウクライナ軍がなぜここまで戦えているのかという理由が証明されれば、「戦争を起こすとこれほど多くのコストが掛かり、そう簡単には終わらないのだ」というメッセージを侵略者に与えられるので、非常に重要です。
飯田)ウクライナ軍がここまで戦えている理由が証明されれば。
神保)この戦争がどう終わるのか。「結局、侵略した方が得だったではないか」ということになると、秩序が崩れてしまいます。侵略者に対し、「これほど多くのコストが掛かる」という教訓を与えてこの戦争を終わらせられるかどうかが、国際社会に問われている。「まだ国際社会は結論に達していない」という自覚が必要なのだと思います。
「戦争の終わらせ方」に失敗した第一次世界大戦
飯田)まさに第一次世界大戦の終結後、第二次世界大戦は「その続きだったのではないか」という議論もあります。結局、収束のさせ方を失敗してしまった。そういう反省もありますか?
神保)その通りですね。第一次世界大戦が終わったあと、「こんな大戦を世界で繰り返すことはないだろう」と多くの人が思っていた。しかし国際連盟をつくったり、ドイツに賠償金を支払わせたりしたら、パワーバランスが崩れてしまった。ドイツは陸軍を解体されたにも関わらず、わずか20年で最大の陸軍国になってポーランドを侵攻したのです。こういう歴史があることを忘れてはいけません。終わらせ方は重要だと思います。
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