国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理のフィリピン・マレーシア訪問について解説した。
岸田総理がフィリピン・マレーシア訪問へ
飯田)ウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ情勢などもありますが、昨日(10月30日)の自民党役員会では岸田総理のフィリピン・マレーシア訪問が明らかになりました。東アジアに関して、日本は「自分たちで守らなければならない」というフェーズに入ってきていますか?
フィリピン・マレーシア訪問ではFOIPのプランである「包摂性」が強調される
神保)日本は昨年(2022年)12月に「安保3文書」をまとめて防衛費を事実上2倍にし、さらに反撃能力(敵基地攻撃能力)を含む長距離打撃能力という新しいシステムも導入するとして、大きな決断をしました。厳しい安全保障環境のなかで自衛能力を増やしていく方針です。
飯田)自衛能力を増やす。
神保)同時に今年(2023年)3月のインドでの演説で、「世界の分断はよくない。この分断を埋めるため、より包摂的なアプローチが大事だ」という「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たなプランを示しています。安保3文書は非常に厳しく、まさに現実主義です。一方、FOIPにおけるインド太平洋の新たなプランは、どちらかと言うと優しく包摂性のあるものです。そして今回のフィリピン・マレーシア訪問は、私の予想ですけれど、後者の「包摂性」が強調されると思います。
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力50周年で12月に特別首脳会議が開催 ~キーワードは包摂性
神保)今年は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力50周年で、12月中旬に特別首脳会議が行われます。その前に、もう1度しっかりと「日ASEAN」を再定義するための原則において、キーワードは「包摂性」だと思います。
飯田)包摂性。
神保)もし日本が「いまは危ないから一緒に対抗しよう」と言うと、フィリピンはOKでしょうし、シンガポールもそこそこ理解を示すと思います。しかし、多くの他のASEAN諸国は「いや、少し待ってくれ。そんな厳しい認識に日本と一緒に乗るのは難しい」となり、むしろ分断を煽るようであれば、しっかりと包摂性でまとめていく。これが演説の基調になるのではないかと思います。
かつて「福田ドクトリン」を発表した場所でもあるフィリピン ~その場所でFOIPの「包摂性」という概念が盛り込まれる
飯田)確かにフィリピンに関しては、かつてイスラム過激派の武装勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」などとの衝突を日本が仲介したことがありました。マレーシアは穏健なイスラム国家でもあり、中華系の人たちとのいろいろな軋轢もありますが、「アジアはそういうところをうまくやってきた」という側面があるのでしょうか?
神保)フィリピンはアメリカとの関係を深めており、拡大安全保障協定を中心に新しいアクセス基地をつくります。しかも、日本も一枚噛むことになっていて、安全保障を語るにふさわしい場所です。実はフィリピンは、1977年に福田ドクトリンを発表した場所でもあるのです。
飯田)そうですね。
神保)福田ドクトリンは、その後のASEANとの関係を定める重要な演説でした。ASEANとASEANが対等な目線で、心と心のふれあいを持ち、戦後を乗り越えていこうという意味を持った場所でもあります。ですので、おそらく2つの意味を込めてフィリピンという場所が大事であり、かつFOIPの新しいプランで言う「包摂性」の概念がふんだんに盛り込まれるのではないかと思います。
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