辺野古工事 対中戦略において米海兵隊の機能を万全にするためにも重要

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。辺野古工事の承認をめぐる「代執行裁判」について解説した。

【沖縄県民投票】県民投票から一夜明け、埋め立て工事の進む名護市辺野古の沿岸部=2019年2月25日午前、沖縄県名護市 写真提供:産経新聞社

【沖縄県民投票】県民投票から一夜明け、埋め立て工事の進む名護市辺野古の沿岸部=2019年2月25日午前、沖縄県名護市 写真提供:産経新聞社

辺野古工事の承認をめぐる「代執行裁判」平行線

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古に移設する工事をめぐり、斉藤国土交通大臣が玉城知事に設計変更の承認を命じるよう求めた「代執行訴訟」の第1回口頭弁論が10月30日に行われた。国側は、承認を拒む違法な事務遂行の是正は代執行以外では困難と主張。一方、県側は移設反対の民意を無視した代執行は許されないと反論。即日結審し、判決期日は後日指定される。

飯田)次回判決で国が勝訴して県が判決に従わない場合は、代執行を行って工事を再開する可能性が出てきます。法廷での闘争がずっと続いているようにも見えますね。

神保)今回の件に関しては、国が勝つ方が堅いと思います。この工事はいろいろな事案で止まったり進んだりを繰り返していて、結果的に辺野古への移転が遅れに遅れている印象ですね。

今回の判断で代執行が行える方向へ

神保)そもそも埋め立て工事に着手したのは、2018年12月です。キャンプ・シュワブという米軍基地が辺野古岬にありますが、その南側に関しては、既に陸地化されています。しかし、東側に地盤が緩いところがあって、ここを埋め立てないとV字型の滑走路ができないのです。着手するためには軟弱地盤の改良工事をしなければいけない。当然、設計変更になるので、知事が承認する必要があるのです。

飯田)計画を変更しなければならないので。

神保)これを玉城知事が拒否しており、乗り越えるためには代執行しなければならず、訴訟になっています。延々とその状況が続いてきたのですが、いよいよ今回の判断によって、代執行が行えるようになるのではないかと思います。

中国との関係において、南西諸島での海兵隊の役割が大きくなっている ~機能を万全にするためにも工事を進める必要がある

飯田)普天間飛行場の周辺には住宅もたくさん建っていて、危険性に関しては20年以上言われています。これが続くと「事実上、固定化してしまうのではないか」ということも以前から言われています。

神保)90年代からの話ですが、普天間飛行場に関する危険性があまりにも大きい。それを辺野古沖に移転させ、かつ現代化された海兵隊の機能を発揮できるような形の基地機能が重要だと、ずっと言われ続けているわけです。

飯田)そうですね。

神保)その間、国際情勢は激しく変わっています。沖縄県の方には大変な負担かも知れませんが、南西諸島の重要性は戦略的にますます高まっている状態です。新しい中国との関係で言うと、海兵隊も改良されて、この戦域における役割が大きくなっている。その意味からも、海兵隊の基地の役割は増している状況です。機能を万全にするためには、工事を一刻も早く進めなければいけないと思います。

辺野古移設を巡る代執行訴訟の第1回口頭弁論の開廷を待つ県側=2023年10月30日午後1時58分、沖縄県那覇市の福岡高裁那覇支部(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

辺野古移設を巡る代執行訴訟の第1回口頭弁論の開廷を待つ県側=2023年10月30日午後1時58分、沖縄県那覇市の福岡高裁那覇支部(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

対艦ミサイルを徹底的に配備することは、現代の対中戦略において重要な要素

飯田)アメリカ軍は戦い方も変えていて、機動的な部隊を入れて編成を新しくするという話も出ているようです。

神保)機動化・分散化し、中国と近くで戦う「インサイドフォース」と、それを外から支援する「アウトサイドフォース」を組み合わせることによって、戦闘を行えるようにする。アウトサイドフォースは、長距離の支援攻撃が行えるような対艦ミサイルを中心とした部隊です。インサイドフォースは即応する実働部隊。その戦略を担うのが海兵隊になるので、「2つの機能をしっかりと整備できるか」がこれからの対中戦略では鍵になると思います。

飯田)いまウクライナでは、対戦車砲を持って陽動的に動く部隊がありますが、同様に島々で対艦ミサイルを使う。似たような動きをするイメージでしょうか?

神保)ヨーロッパと違って、アジア正面は海と空の戦域になります。空は戦闘機・輸送機・電子戦・サイバー戦の世界ですが、海の船は動きが遅く、穴を開けられると航行できないので、対艦ミサイルに対して脆弱なわけです。中国軍の力がどんなに強くなっても、その状況は乗り越えることができない。つまり対艦ミサイルの徹底的な配備は、現代の対中戦略において決定的に重要な要素なのです。

飯田)対中戦略において。

神保)海兵隊も、そして日本もですが、長距離・長射程ミサイルの鍵となるのは対艦ミサイルなので、どれだけ整備できるかで抑止力の形が決まってくると思います。

「我々の軍事行動は利益をもたらさないのだな」と中国側に常に思わせるコミュニケーションが必要

飯田)よく言われることですが、北京を中心として「グルッ」と南北をひっくり返した地図を見ると、日本列島から南西諸島が蓋になっている。そして出口はいくつかしかない。そこを固めるようなイメージですか?

神保)その通りです。もちろん台湾は正面にあるので、台湾海峡をどう防衛するのかも大事ですが、その先にあるのは宮古水道・バシー海峡という、中国軍にとってのチョークポイントです。それらの場所をどれだけしっかり抑えられるか。数の勝負というよりは、集中させる能力の勝負なので、迅速に対応できるような部隊編成や装備を整理していくことが重要です。

飯田)統合幕僚監部などの発表を見ると、中国艦艇が宮古島、あるいはもう少し上の奄美辺りを抜けるような動きを見せていますね。

神保)国際水域で無害通航する分には国際法上、合法なのですが、明らかに威圧的ですよね。当然、我々もそういう行動を取られた場合、平時から共同演習のなかで「どのような形で対応するのか」をデモンストレーションすることが重要です。

飯田)どのような形で対応するか。

神保)これはシミュレーションなのですが、もし先方が「行動A」を取った場合、我々は「行動B」を取る。「あなたの目的は達成できないだろう」というコミュニケーションを取らなければならないのです。それによって「なるほど、我々の軍事行動は利益をもたらさないのだな」と中国側に常に思わせる。現代の抑止力の示し方としては、それが重要だと思います。

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