ダイハツ不正問題 ターニングポイントになった「ミライース」短期開発の成功体験

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ジャーナリストの佐々木俊尚が1月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ダイハツの不正問題について解説した。

ダイハツ工業不正 ダイハツへの国交省による確認試験が報道陣に公開された。左から2~4人目の3人は立ち合いをする国交省関係者(自動車技術総合機構の職員)=2024年1月15日午後、滋賀県竜王町(柿平博文撮影) 写真提供:産経新聞社

ダイハツ工業不正 ダイハツへの国交省による確認試験が報道陣に公開された。左から2~4人目の3人は立ち合いをする国交省関係者(自動車技術総合機構の職員)=2024年1月15日午後、滋賀県竜王町(柿平博文撮影) 写真提供:産経新聞社

ダイハツ不正問題、国土交通省が是正命令

ダイハツ工業の品質不正問題で、国土交通省は1月16日、ダイハツに対し組織体制の抜本的な刷新を求める「是正命令」を出した。道路運送車両法に基づく処分で、一連の不正の背景として企業体質に問題があると判断した。

飯田)是正命令は、エンジンの排ガス規制に関してデータ不正があった日野自動車に続いて2例目です。

佐々木)予想以上に影響の範囲が広がっています。ダイハツ単体では、それほど車の市場シェアは大きくないかなと思っていましたが、意外とOEMでいろいろなところに供給しているのです。例えば、タウンエースもそうです。

飯田)トヨタのタウンエース。ブランド名は発注会社の名前ですが、実際はダイハツです。

佐々木)私は軽井沢と福井でハスラーとジムニーに乗っているのですが、軽井沢は山が多く、軽自動車だとパワー不足なのでそろそろ買い替えようと思っていたのです。スズキがEV(電気自動車)を出すというので、EVに代えようかなと。日産がサクラというEV軽自動車を出していますが、軽とは思えないぐらいパワーがあって人気なのですよ。

飯田)EVは踏むと「ヒュン」と行きますよね。パワーがあります。

佐々木)楽しみにしていたのですが、そのスズキの車もダイハツからのOEMだったのです。ダイハツ・トヨタ・スズキからOEMで同じ車を出すような形でしたが、今回の騒ぎで3月の発売予定が延期になってしまいました。

飯田)佐々木さんも影響を受けていたのですね。

佐々木)そうなのです。

ターニングポイントになった「ミライース」短期開発の成功体験

飯田)理容師で木更津にお住まいの“ルパンの忘れ物”さん(60歳)から、「私はダイハツの車に乗っています。昨日車検が無事に終わりました。ダイハツには安心・安全性を回復させて欲しいです」とご意見をいただきました。

佐々木)いろいろ話を聞くと、2011年に発売された「ミライース」がターニングポイントになったようです。もちろん、それ以前から不正はあったという話ですが、ミライースの短期開発が成功して、大ヒットしてしまった。それで味を占め、短期間での開発が標準になった結果、「そんな短い期間で開発するのは技術力的にも人員的にも無理だ」という状況を無理強いされてこうなっていった。

短期開発が標準になり、不正が激増

佐々木)典型的な平成時代のブラック労働パターンです。厳しいノルマを課せられ、死ぬような思いで社員が頑張ってノルマを達成すると、経営層は「やればできるではないか」と間違った判断をしてしまう。そして「次からこれが標準でいいだろう」となる。やっている方は「今回だけ必死に頑張ってノルマを達成すれば、次は楽になるだろう」と思って頑張ったら、達成した瞬間にそれが標準化されてしまうのです。

飯田)それがボトムの基準になる。

佐々木)その繰り返しでどんどん疲弊していき、結果的に「不正しないと数字が残せない」という形になってしまった。不正の内容も、「本当にそんなことまでやるのか」と言うくらい酷いものです。例えばエアバッグの試験では、衝突したショックで衝撃を感知し、エアバッグが開く。当たり前の話なのですが、それをクリアできないので、衝突する時間に合わせてタイマーでエアバッグが開く形にしていたそうです。そんなレベルの不正をやっていたのかと思います。

飯田)酷いですね。

佐々木)日本が誇る自動車産業の技術者が、プライドも何もかも捨てて、そんなことをやらなければならなかった。技術者自身もそれだけ追い込まれていたのですよね。これは技術者1人ひとりの問題というより、そうやって追い込んでいった20世紀終わりから21世紀にかけての異様な労働環境に問題があると感じます。

「いかに会社の殻を壊すか、外部との風通しをよくするか」が企業に求められている

飯田)国土交通省の是正命令では「企業体質に問題がある」と指摘されています。

佐々木)自動車メーカーに限らず、外の世界を知らずに閉鎖的な空間になると、みんなおかしくなっていくわけです。今回の能登半島地震でも、いろいろと文句を言っている人たちがいるではないですか。

飯田)国の対応を批判している人が。

佐々木)政府の初動が遅いとかね。外部から見ると、「政府はきちんと対応しているし、自衛隊も動いているのだからいいではないか」と思うのですが、狭い世界のなかだけで騒いでいる。そして、「そうだ、そうだ」と言われると、自分が言っていることが正しいと思えてしまう。これをインターネット用語で「エコーチェンバー」と言いますが、島宇宙の狭い空間のなかではこういう現象が必ず起きるのです。やはり閉鎖的な空間はよくないですね。

飯田)閉鎖的な空間は。

佐々木)会社も同じです。転職が多い会社であれば、「この会社の常識は外の世界と違いますよ」と指摘する人が現れる。そうすれば「そうかな」とみんなが気付いて、会社の固定的な社風が壊れていく可能性もあります。しかし、転職がない終身雇用の業界の場合、その世界のなかで異様な常識だけが当たり前になってしまう。80~90年代に談合があったではないですか。

飯田)ありましたね。

佐々木)あれなどはまさにそうです。明らかに法律違反ですが、ゼネコン世界のなかだけで「当たり前」になってしまい、誰も疑問に思わない。

飯田)むしろ一抜けしようとすると、「周りに迷惑がかかるだろう」というような雰囲気になる。

佐々木)「いかに会社の殻を壊すか、外部との風通しをよくするか」が求められていると思います。

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