アメリカ軍の「カタイブ・ヒズボラ」司令官殺害はイランへのメッセージでもある

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が2月9日、ニッポン放送「小永井一歩のOK! Cozy up!」に出演。米軍によって行われたイランが支援する武装組織の司令官殺害について解説した。

2023年9月28日、米アリゾナ州テンピで演説するバイデン大統領(米アリゾナ州テンピ) AFP=時事 写真提供:時事通信

2023年9月28日、米アリゾナ州テンピで演説するバイデン大統領(米アリゾナ州テンピ) AFP=時事 写真提供:時事通信

イランが支援する武装組織の司令官をアメリカ軍が殺害

米国防総省は2月7日、イラクの首都バグダッドでドローン(無人機)による攻撃を実施し、イランが支援する武装組織の司令官を殺害したと発表した。殺害されたのは、武装組織「カタイブ・ヒズボラ」の司令官と警備員の2人。バグダッド東部で車両内にいるところを標的にされた。

小永井)今回の殺害は、ヨルダンで1月29日に米軍兵士3人が殺害された攻撃への2度目の報復と見られています。宮家さんはこの件について昨日(2月8日)、産経新聞のコラム『宮家邦彦のWorld Watch』にも寄稿されていますね。

「カタイブ・ヒズボラ」への攻撃はイランに対するメッセージでもある

宮家)いままでイランとアメリカは相互に、それなりに自制していたのです。アメリカもイランと戦争する気はないですし、イランもアメリカと直接戦う気はなかった。ですから、ある意味では代理戦争をやっていただけです。ところが今回、10月7日にガザ紛争が始まってから、初めて米兵3人が亡くなった。米兵が死亡すればアメリカの大統領は絶対に黙っていられませんから、それがいいかどうかは別として、必ず報復するのです。今回のカタイブ・ヒズボラへの攻撃は、バグダッドのシーア派地域で車両に乗っている際に行われ、車両だけが燃えている画像が出てきましたね。

小永井)ありました。

宮家)要するに、アメリカは完全にピンポイントで攻撃しているのです。つまり「お前たちがどこに居るか、俺たちは全部わかっているぞ」という意味です。これはカタイブ・ヒズボラに対するメッセージであると同時に、イランに対するメッセージでもあるのです。「これ以上やるな。間違ってもこれ以上米兵を殺すな」という話で、イラン側は基本的に困っていると思います。アメリカを怒らせすぎても、ろくなことはない。アメリカと戦争になれば勝ち目はありません。下手をすれば国内が混乱します。イランの人たちが宗教色の強いイスラム共和制にみんなハッピーなはずがなく、不満は当然あります。それに火がついてしまっては困るので、本当は静かにしたい。

イランもアメリカも直接戦う気はない

宮家)しかし、アメリカを中東から追い出したいという思いもイランにはある。どうやって追い出すかを考えると、やはり代理人を使うしかないわけです。その種の人たちはシリアにもイラクにもいるし、ヒズボラやハマスもそうですし、イエメンにいるフーシ派も含めてみんなそうです。彼らは間接的に中東からアメリカを追い出すため、いろいろなところに手を打っています。

小永井)イランは。

宮家)ところが何かの間違いか、もしくはイランが指示したとは思わないけれど、アメリカの兵隊を殺してしまった。これがおそらく新しいゲームの始まりになります。それでもアメリカは自制した形で、ピンポイントでイランの代理人を攻撃して、イランにメッセージを送り続けている。その意味では、いまアメリカはイランを直接狙わない。イランもアメリカは恐いけれど、イランにとって本当に怖いのは国内かも知れない。そのため、双方で一定の自制が働いているのだと思います。

関連組織のコントロールが効かない場合も

宮家)ただし、これがこのままうまくいくかと言ったら、そうはいきません。代理人が親分の言うことを聞くとは限らないからです。

小永井)コントロールできない可能性がある。

宮家)特にフーシ派は何をするかわからないので、その状況が続くと少しまずいと思います。

小永井)アメリカもイランも直接は戦いたいと思っていないなかで、直接攻撃せざるを得なくなる可能性があるとすれば、関連組織のコントロールが効かなくなったときですか?

宮家)そうだと思います。最新の映画『トップガン』は観ましたか? イランの地下秘密核施設をアメリカの戦闘機が山を越えてピンポイントで破壊する。その後空母にギリギリで着艦して「よかったよかった」となるのですが、よくありませんよ。あんなことをしたら大戦争になります。あれはあくまで映画ですから、現実でもああなるわけではない。映画のような状況になってはいけないと思います。

世界全体で紅海を含むシーレーンを守るべき

小永井)フーシ派の動きですが、日本としても、輸送ルートに関係していますよね。

宮家)フーシ派はイエメンですから、基本的に紅海の出口・入口に、ある程度の影響力があるわけです。だからタンカーなどにも攻撃できるのですが、もしイランとアメリカが直接戦ったら、主戦場は紅海よりもホルムズ海峡になるかも知れません。ホルムズ海峡で火花が散ったら、あっという間に日本のエネルギー価格に直結します。日本が輸入する原油の9割は、湾岸地域から来ているわけですからね。そう考えると、ますます心配になります。

小永井)海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」がアデン湾に向けて出港したというニュースがありました。日本としてもホルムズ海峡の安全確保のため、アメリカやイギリスと何らかの協力をする形になりますか?

宮家)英米との協力というよりも、現状を維持したい世界中の穏健勢力……紅海を含む海上ルートを維持することで利益を持つ国、日本もそうですが、それらの国々と一緒に動くということです。アメリカやイギリスはフーシ派を直接攻撃するけれど、我々はそんなことはしない。しかし、インド洋に出る地域はそもそも海賊がいて、既に日本はいろいろ協力しているではないですか。その枠のなかで、おそらくいろいろなオペレーションができると思います。世界全体であの地域のシーレーンを守る必要があります。

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