『スルミ presents トップジャム』は、ビジネスのトップシーンで活躍する方や、気になる時事問題を読み解くスペシャリストを迎えてお話を伺う番組です。
本日のゲストは、映画監督の深川栄洋(ふかがわ・よしひろ)さん。映画好きという石塚さんは、幼い頃に観た深川監督の作品で思い出に残っている作品が多くあるとか。
映画製作を通して見えてくるビジネスや目指すところは、一体どんなものなのでしょうか。じっくり聞いていきましょう。
福田:映画監督の深川栄洋さんです。プロフィールをご紹介します。深川栄洋さんは千葉県出身。2005年に『狼少女』で劇場用長編映画監督デビューを果たし、2009年に『60歳のラブレター』がスマッシュヒット。その後、『白夜行』『神様のカルテ』シリーズ、『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』などでメガホンを取り、現在は、映画『あなたの息子ひき出します』の制作などもされています。
石塚:映画大好きなんでめちゃくちゃ楽しみにしてました。まず監督になった経緯を伺いたいです。
深川:周りには子供の頃から映画が大好きで、っていう監督さんが多いんですけど、僕はテレビっ子であまり映画に触れてなかったんです。だけど、高校のときの彼女が映画が好きで。でもハリウッド映画とか日本の映画とかじゃなくて、ヨーロッパ映画が好きな子だったんですね。
でも自分が住んでいるところには、そういう映画をやる映画館がなかったので、彼女が好きな映画を観に日比谷とか上野に行ったりとかしていました。彼女に気に入ってもらいたくて、彼女よりも先に話題のヨーロッパ映画とかを観に行ってたみたいな感じです。その研究が、監督をやりたいっていう最初のきっかけだったのかなと思います。
石塚:深川さんの作品って、女性が「かわいいな」とか「綺麗だな」って感じるやさしげな映像作品が多い印象があるんですけど、あえてそういう作品にしているんですか?
深川:そういうつもりもないんですけど、20代のときに映画作りを始めて悩んでたことがあったんです。その悩みっていうのが「普通」っていうことでした。僕の周りの自主映画を作ってる仲間たちは面白いことを考えて尖っている人たちが多かったんですね。でも自分はそうではなくて、見てるものも触れてるものも、他の人とはあまり変わってなかったんですね。「自分らしさって何かな」って、それがコンプレックスだったんですけど、でもそれが強みでもあるだろうっていうふうに思い始めてから、(コンプレックスも)許せるようになってきました。
年の離れた姉が2人いるんですけど、だから女性を見つめて作品を撮るということが得意だったのか、女優さんに対して怖さがなかったというか。それで、そういうオファーが多く来るようになりました。
福田:私も周りに比べて普通っていう悩みを持ってます。それでも自分を受け入れられるようにはなったんですけど、深川監督は変わってきたなみたいな出来事はあったんですか。
深川:商業デビューした映画『狼少女』を撮るときに、なりふり構ってられなくなったんですね、切羽詰まって。僕は自主映画出身で、そういうプロフェッショナルに囲まれて映画作りをしてきた。でも彼らにとっては、それがプロだろうがアマチュアだろうが、どういう経緯で監督になったのかあまり気にしてなくて、ちゃんとした「普通」の監督として求められたんです。
悩むことも多いけど自分のコンプレックスと向き合うんじゃなくて、目の前の役者、目の前のスタッフと響き合って作品を作ってどうにかしていかなきゃ、って追い込まれてから自分の方に目が向かなくなって。それで他者に目が向くようになったっていうことかなと思います。
福田:内向きの矢印をようやく外に向けることができるようになった瞬間なんですね。おっしゃってること、すごく共感する部分があります。
石塚:映画を自主制作された後、監督としてすぐ商業作品を撮られて。それって監督の中で超エリートなんですよ。下積みも一切なく、助監督もなく。それって全然、普通の人じゃないと思うんですよね。
深川:でも自分のコアな部分が普通でつまらない人間だ、ってずっと思ってたんです。
福田:そういうふうに思っちゃう気持ちはすごくわかる。でも周りから見える部分と自分が持ってる気持ちのギャップがあると、そこが辛かったりはしますよね。
石塚:最初に撮られた自主制作映画はどんなものだったんですか?
深川:一番最初の自主映画は、『全力ボンバイエ!』っていういじめられっ子の映画です。いじめられっ子が主役で、好きな女の子にいじめられてることを知られたくなくて、でも知られてしまう。それで、やり返すぞっていうふうに思うけど、やり返せない強さがなくてその彼女に助けられるっていう話。やっつけられなかったけど助けられるっていう、30分の短編です。それがいろんな映画祭でノミネートされたり賞をいただいて、そういう経緯もあって少しずつ大きくなっていった感じですね。
福田:自主制作になることによって、制作に向き合いやすくなる部分はあるんですか。
深川:僕の考え方だとシンプルになります。監督としての考え方は、出資者と観客を繋げる役目であったり、映画を1人でも多くの人たちに見てもらうというサービスを出資者のためにしなくちゃいけない。そういう感覚は、やっぱりどこまでも付きまとっていくんですね。
だけど、「出資がない」ってなった瞬間から、自分自身と向き合うようになりました。これまでの商業映画では自分とあまり向き合ってこかったのですが、自分と向き合って感じてることを言葉にして演じてもらう。周りの人たちに細かく自分を浸透させていくっていうのは、やっぱり楽しいですね。
福田:先ほどは内向きの矢印を外に向けるっていうお話でしたが、ここにきて、今まで外に向け続けてた矢印をまた内側に戻すっていうのがすごいタイミングですね。
石塚:最近は自主制作映画でも、最初は単館から始まって話題になってくる映画が多いと思うんです。やっぱりアカデミー賞、狙われてますか。
深川:いいえ。僕は自主映画のときに賞をいただいて引っ張り上げていただいたんですけども、もちろん映画祭で賞をいただいて褒めてもらうのは人間としては嬉しいです。でも褒められると信じられないんですね。なので、映画祭でも海外の人たちと交流をしてみたいと思ってます。
福田:最後に深川監督からお知らせをお願いします。
深川: 制作中の『あなたの息子ひき出します』は、制作の過程を皆さんにも見てもらいたいと思ってます。映画は作る工程も面白いので、クラウドファンディングもやったりしていますのでご支援をいただければなというふうに思っています。よろしくお願いします。
==
福田:本日は映画監督の深川栄洋さんをお迎えしましたが、つばささんはいかがでしたか。
石塚: 映画全体の90%が失敗だったとしても残りの10%が何かしら次につながっていくっていう映画の世界のお話は、90%の会社がつぶれて10%だけが上場できるベンチャーの世界と似てるなと思いました。