日中問題とともに切実な「中日問題」

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第415回)

新聞やラジオ・テレビは最近、オールド・メディアと呼ばれ、偏向報道と批判されることがあります。もちろんこれには賛否がありますが、今回ばかりは“偏向報道”に徹します。お許し下さい。

前回の小欄ではジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰さんにアメリカ・トランプ政権の関税政策における中国の視点についてお伝えしました。日中関係にも影を落としかねない問題ですが、インタビューでは私と富坂さんにとって身近で切実な「中日問題」についても論じました。

富坂聰さんの新著「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」

富坂聰さんの新著「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」

■悲喜こもごも、残酷な経験……、ドラゴンズファンの“本質”

富坂さんは中国問題について指折りの専門家ですが、名古屋出身で大の中日ドラゴンズファンでもあります。このたび、富坂さんが意表を突く書籍を上梓しました。タイトルも「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」(小学館新書)。本の帯には「深刻すぎる『中日問題』」と記されています。

日中問題ではなく「中日問題」です。「やっちゃいました」と笑う富坂さん。野球の技術論には一切触れず、「ドラゴンズの周りにある悲喜こもごもを物語風に、悔しかったドラゴンズにまつわる物語を一所懸命書いた。でも、笑いながら読んでほしい」と話します。

ドラゴンズファンである私も「そう、その通り」とうなずきながらこの本を読みました。岐阜から上京して40年近くになりますが、少年時代に深く刻まれた経験と記憶は潰えるものではありません。ドラゴンズへの思いを持ち続ける東海三県出身者は決して少なくないと思います。

「今年も点が取れない貧打線、けが人続出、ピッチャーも(小笠原)慎之介、福谷、ライデル(マルティネス)が抜けて……、正直、開幕10連敗ぐらいは覚悟していました」

私がこのように切り出すと、富坂さんは「確かに」と同意するとともに、ドラゴンズファンの“本質”をズバリ指摘しました。

「畑中さん、これって本当にドラゴンズって思うんですよ。まずは悪いことから(想定する)という。チャンスの時にランナー一塁・二塁でバントしようが何しようが、まずゲッツーをイメージするんですよね、そうしたら(ファンは)傷つかないじゃないですか」

最悪のパターンを想定する……、2人で爆笑するしかありませんでした。富坂さんは最近、名古屋の地下街でレプリカ・ユニフォームを買ったところ、その数日後にレプリカの背番号の選手が“戦線離脱”したと言います。

「これがドラゴンズなんですよね」(富坂さん)

こうした“残酷”な体験が子どものころからあり、本に「ぶちこんだ」ということです。ただ、その残酷さは今の中日の投手に比べたら、これも笑うしかありません。「(味方が)点を取ってくれないピッチャー、本当はドラゴンズのピッチャーにこそ読んでほしい」と富坂さんは話します。

■ミスター・ドラゴンズならぬ「ザ・ドラゴンズ」とは?

この本を読んで、私が印象に残ったのは「ザ・ドラゴンズ」というフレーズです。「ミスター・ドラゴンズ」はよく知られている(はず)、西沢道夫さん、高木守道さん、そして、昨年まで監督を務めた立浪和義さんの3人です。しかし、富坂さんはこのお三方とは違う「ザ・ドラゴンズ」が存在すると言います。なかなか言葉では言い表せないとしながら、あえて条件を挙げるとすると、

・打たれると辛い、親のような気持ちになる
・一所懸命やっていて、ちょっと空気を変えてくれるところがある
・打たれるんじゃないかという悪い予感がある
・心がしっとり濡れてくるような感覚になる

富坂さんによれば、今の中日に最も該当するのは藤嶋健人投手だそうです。藤嶋投手も今年は選手会長、いろいろな意味で「要」としてがんばってほしいものです。

■ジャイアンツは最大の“宿敵”、名場面の数々

さらに、富坂さんと意見が一致したのは読売ジャイアンツへの対抗意識です。読売対阪神戦は「伝統の一戦」と言われますが、実は読売の最大のライバルは中日である。それは通算の対戦成績が示しています。読売に対する各チームの勝敗を以下に示します(いずれも2025年5月1日時点)。

阪神 893勝1128敗77分
中日 903勝1126敗64分

最近の戦況が続けば、ここ2~3年で逆転する可能性もありますが、現時点では中日の勝利数が上回っています。なお、この数字は1リーグ時代も合わせたものです。2リーグ分立後、1950年からの数字で見ると以下のようになります(各チーム前身の時代を含む)。

阪神 808勝1044敗77分
中日 841勝1017敗64分
広島 814勝1043敗67分
ヤクルト 759勝1099敗61分
DeNA 752勝1107敗61分

阪神より広島の健闘が目立ちますが、いずれにせよ、読売に最も勝利しているのは中日であることがわかります。ファンにとっての誇りです。

読売対阪神戦は勝敗もさることながら、どちらかと言えば「お祭り騒ぎ」のような盛り上がりを見せるのに対し、読売対中日戦は親会社がライバルであることもあり、死闘の場と化すことが多く、プロ野球史に残る名場面が数多く生まれました。

マイキャップ

マイキャップ

私が記憶に残っているもので3つ挙げるとすれば、まずは1994年10月8日、「10・8決戦」と呼ばれる一戦です。両チーム69勝60敗でゲーム差ゼロ、勝った方が優勝というこの試合はまさに死闘、関東地区の平均視聴率がプロ野球中継史上最高の48.8%を記録しました(ビデオリサーチ調べ)。試合は読売が6対3で勝利し、優勝を果たします。

ノーヒット・ノーランの屈辱の可能性から一転、奇跡の逆転サヨナラ勝ち(読売にとっては悪夢のサヨナラ負け)を演じたのは1989年8月12日、8回までノーヒット・ノーランを続けていた斎藤雅樹投手を9回に攻略。落合博満選手がセンターの外野スタンドに打ち込んだサヨナラ3ランに、中継を担当した吉村功アナ(当時東海テレビ)は「こんな試合は今まで見たことない!」と叫びました。

そして、富坂さんと感動の記憶を分かち合ったのは1982年9月28日のサヨナラ逆転劇です。読売の先発は大の苦手としていた江川卓投手。9回まで読売が6対2でリード。敗色濃厚の試合が代打・豊田誠佑選手のヒットをきっかけに、宇野勝選手、中尾孝義選手があれよあれよと連打を繰り出し、土壇場で6対6の同点に追いつきます。延長戦にもつれ込んだ10回裏、読売の守護神、角光男(当時)投手から、大島康徳選手のタイムリーヒットで1点をもぎ取り、劇的なサヨナラ勝ちを収めたのです。こんなことがあるのか……。私も富坂さんも当時の中継をお互いの場所で見て、聴いて大興奮していました。

この年の最終成績は中日64勝47敗19分、読売66勝50敗14分で両者の差は0.5ゲーム。つまり、この試合に勝っていなければ、計算上、ペナントは読売に渡っていたことになります。まさに、天下分け目の勝利だったわけです。

■歓迎されない優勝……、ドラファンの嘆き

中日の応援歌「燃えよ!ドラゴンズ」には、かつて「にっくきジャイアンツ」というフレーズがありました。われわれが勝手に思っているのかもしれませんが、昔もいまも中日にとって読売は“一番の宿敵”なのです。そして、そこには数多くのドラマがあります。

ですが、富坂さんは嘆きます。

「ちゃんとドラマを見せてくれるんですよね。だけど、ドラゴンズというのは最も日本国民から歓迎されない優勝なんですよ。(本には)“そこは何なんだ”というところを書いてます」

「(優勝すれば)ヤクルトもはしゃぐ、去年のようにDeNAもはしゃぐ、広島は広島ではしゃぐ、阪神は大はしゃぎ、ジャイアンツは言うまでもない。だけど何か、中日の優勝の時だけみんな見なかったふりというか、日本中からため息が聞こえてくるような感じがするんですよね」

中日の優勝はこれまで9回、日本一は2回(うち1回は2位からのCS突破)、地元では大きな歓喜と感涙が生まれるのですが、それ以外の地域からはこのように感じられるというのです。

読売対阪神戦が「伝統の一戦」と呼ばれていることにも、富坂さんは“反論”します。

「何で伝統の一戦なんだと。ライバルはドラゴンズだぞと。ジャイアンツ優勝の年でも対ジャイアンツ戦に勝ち越していたりするんですよ。ジャイアンツファンはそこをちゃんと認識しないとダメなんですよ」

ちなみに2リーグ分立後、読売がリーグ優勝した39シーズンのうち、各チームが対読売戦で勝ち越している回数は以下の通りです。

【阪神2回、中日8回、広島3回、ヤクルト3回、DeNA5回】

さらに、1950年から2024年までの75シーズンでみた場合です。

【阪神13回、中日24回、広島22回、ヤクルト13回、DeNA16回】

中日は強い時も弱い時も、読売に対しては選手もファンも並々ならぬ闘志を燃やします。ドラゴンズファンは小さいころから読売に敗れることが何より悔しいことだと刷り込まれてきました。それがこの結果につながっているのだと思います。もっとも上記の回数以外はすべて読売が勝ち越し、または相星という結果はやはり「ジャイアンツ恐るべし」なのですが。

■開幕から1か月、「井上マジック」は炸裂するのか?

開幕から約1か月、いまは大型連休の9連戦中です。けが人続出の戦力の中での現状の戦績は、正直よく持ちこたえていると感じます。やや言い過ぎかもしれませんが「井上マジック」とさえ思います。

井上一樹監督、試合後の「ポジ語録」をいつもチェックしていますが、露骨な選手批判はほとんどありません。そして、選手の活躍はともに喜ぶ、「モチベーター」と言われる所以です。選手たちをうまく乗せ、能力を引き出すことができれば……、一喜一憂の毎日で胃が痛いですが、これも久しく忘れていた感覚です。

ただ、読売との対戦成績は5月1日時点で1勝4敗。今のところ分がよくないですが、「井上マジック」が炸裂するには「打倒読売」こそ不可欠の条件です(と、勝手に思っています)。

中日ファンの心理を見事に突いている本。上梓した富坂さんへのインタビューでは本職である「トランプ関税、中国からの視点」の後、「中日問題」について熱く語り合いました。後半の方が盛り上がったのは言うまでもありません。

(了)

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