「保護犬」を知っていますか?
飼い主を亡くしたり、飼い主から捨てられたりして保健所に収容された犬のうち、運よく動物愛護団体等に保護された犬たちを指す言葉です。
今回は元保護犬のボストンテリア・とらじが新しい家族と出会うまでの物語をお届けします。
■「私たちには飼えない」。飼い主に捨てられた“とらじ”
「ボストンテリアの保護犬が飼い主を捜しているらしいよ」。
2014年の夏、都内の会社で働く細谷正太郎さん(39)に、同僚の1人がペットショップ「UGpetアトラスタワー中目黒店」のブログを見せてくれました。
すでにボストンテリアの「のんた」を飼っていて「のんたの遊び相手に、もう1頭、ボストンテリアが飼いたいな」と思っていた細谷さんは、早速、UGpetに行ってみることに。これが、保護犬「とらじ」と細谷さんとの出会いでした。
「特に保護犬でかわいそうだから…という理由ではなく、保護犬であろうとなかろうと、相性のいいボストンテリアだったらぜひ家に迎えたいな、という気持ちでした」と細谷さん。
でも、そんな細谷さんですら、思わず「かわいそうに…」と思ってしまうほど、当時のとらじの状態はよくありませんでした。
ガリガリに痩せ、栄養不足のためにところどころ毛が抜け落ちてしまった体…。
脚の筋力が弱いのか、歩き方もひょこひょこと不自然だったそうです。
UGpetの店長の話によると、「とらじ」は、ある高齢の夫婦に飼われていたものの、活発過ぎる性格ゆえにしつけが上手くできず、「とても飼いきれない」と、保健所に持ち込まれた犬。
その後、動物愛護団体が保健所から保護し、まわりまわってUGpetが保護、飼い主を探すことになったのです。
細谷さんのとらじについての第一印象は、「天真爛漫」。「他の犬と遊ぶのが大好き、人を見て吠えたり、噛みついたりということも一切ありませんでした」。
■3ヵ月の熟考の末、家族の一員に
先住犬ののんたも子犬のころはすごくやんちゃで、留守中にゴミ箱をひっくり返されたり、ソファをめちゃくちゃに噛まれたり…と大変だったという細谷さん。
「のんたも成長とともに落ち着いてきて、ちゃんとしつけることができたので、とらじとも根気強く向き合えば大丈夫ではないかと思いました」
しかし、細谷さんはすぐにとらじを連れ帰ることはしませんでした。
まず奥様と「本当に多頭飼いができるか」を確認し、その上で、多頭飼いをする際の注意点を本やインターネットで学習することにしたのです。
「迎える側の準備や心構えができていないのに、衝動的にとらじを迎えてしまったら、失敗するような気がしたんです。
それでは結局とらじをもう1度不幸な目に遭わせてしまうことになってしまう。
それを避けるために、敢えて少し時間を置くことにしたのです」
そんな細谷さんの想いはUGpetの店長さんにも伝わり「とらじは難しい犬ですが、細谷さんならきっと、とらじを幸せにできるはず」と、他の人からの「とらじを引き取りたい」という申し出を断って、細谷さんの準備が整うのを根気強く待ってくれたのでした。
そして3か月後の2014年12月。とらじは、いよいよ細谷家に迎えられることになったのです。
■何でもない1日が、最高の1日に
さぁ、驚いたのは先住犬・のんたです。
突然やってきたうるさい子犬に戸惑い、逃げたり威嚇したりと、大慌て。
でもそんな状態が続いたのも、ほんの数日のことでした。
「驚いたことに、あんなに甘えん坊だったのんたが、とらじが来てから、精神的にすごく成長したんです。動きに落ち着きが出て、文字通り『長男』らしくなりました」。
その後、細谷さんは少しずつとらじをトレーニング。
人間と共同生活を送る上での基本的なルールはしっかり教えこみました。
「家に来て、数週間経ったころかな?ふとした瞬間に『あ!今、とらじと心が通じたな』ってピンときた瞬間があったんですよ。
とらじが僕に心を開いてくれたことがわかって、すごく嬉しかったですね」。
とらじが細谷家に来て、もうすぐ1年半。
ガリガリだったとらじの身体にはしっかり筋肉が付き、毛並みもつやつやに。
家族みんなで山や海に遊びに行って、思いっきり走ることもできるようになりました。
「保護犬を引き取ったというので『偉いね』とか『いいことしたね』って言われることもあるんですが、僕自身は『いいことをしよう』と思ってとらじを引き取ったわけではありません。
とらじが好きで、一緒にこのコと暮らしたいと思ったから引き取ったんです。
だって、その気持ちがないと、一緒に毎日を楽しく過ごせないじゃないですか」
「自宅のリビングに奥さんと一緒に座っていると、2頭がつつ~っと寄ってきて、僕らに体をくっつけてくるんですよ。
そしてそのまま安心しきった顔で寝てしまう。
その寝顔をみていると、『あぁ、幸せだなあ』って…(笑)。
なんでもない1日を、宝物のような1日に変えてくれる犬のチカラって、本当にすごいなって、思います。
これからも、2頭と一緒の毎日を大切に暮らしていきたいですね」。