人は不幸を味わうほど、人の痛みに敏感になれるもの 【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】 第39回
もしあの人に逢わなければ、 もしあの人と結婚しなければ、 いくらあとでそう思っても、仕方がありません。 運命というのは、そういうことです。 万物流転の法則のなかでは、ひとりの人間の運命など、 目にも入らないゴミみたいなも…
もしあの人に逢わなければ、 もしあの人と結婚しなければ、 いくらあとでそう思っても、仕方がありません。 運命というのは、そういうことです。 万物流転の法則のなかでは、ひとりの人間の運命など、 目にも入らないゴミみたいなも…
やっぱり生きているということは、ああ、いい天気だとか、今夜は風が出そうだとか、今年のさんまはおいしいとか、そんなつまらないことを何の警戒心もなくふっと口にして、それを聞いてもらえる相手がいる、ということかもしれません。 …
逢った人間は必ず別れなければなりません。 死なない人間がいないように、別れのない人間どうしの関係もありえないのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
少しずつ、少しずつ仏の世界が近づいてくるのを感じています。 死ぬまで悟りなど得られないでしょうが、それでいいのです。もう、すべてを仏のみ心のままにゆだねきっているので、気持ちはじつに楽で平安です。 なんと有り難いことでし…
「犀の角のようにただ独り歩め」。 何か自分が行きづまったときや、たとえようもなくさびしいときに、ふっとわたしの口をついて、このお釈迦さまのことばが出てきます。すると不思議に心はなだめられ、不如意も、怒りも怨みも消えてしま…
年をとるにつれわたしは、憎しみも愛も伝えたいと思いたったときから、必ず一晩寝かせておくという生活の知恵を身につけてきました。一晩の眠りのあとで、なお、恋も憎悪も昨夜のまま燃えていれば、そこではじめてペンをとることにするの…
人間は孤独でさびしいのが当たり前なのです。自分がさびしいから人のさびしさもわかる。自分はこんなにさびしいのだから、あの人もきっと人恋しいだろうと思いやったときに、相手に対して同情と共感が生まれ、理解が成り立ち、愛が生まれ…
恋とは安らぐよりも、悩みたがる気分のことではないでしょうか。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
定年をすぎた夫に魅力を感じなくなったという妻たちが、急にいきいきして、今まで抑え込んでいた自分の才能にめざめることがよくあります。突然家の外に出て働きだし、結構それが成果を収めていくのを見ると、男にすたりはあっても、女に…
人間は五十になったら老いて、六十になったらくたびれて、七十になったら死ぬと決めてしまわないで、もしかしたら百二十まで生きるかもしれない、百五十まで生きるかもしれない、そう思って生きてみませんか。もしひょっとして明日死んで…
わたしたちには無数の欲望があります。煩悩が燃えたぎっています。 してはいけないとわかっていても、人のものがほしくなるし、御馳走や好物だとつい食べすぎてしまいます。 人を憎まない、ということでさえできません。 どうやら、自…
自分の記憶ぐらい自分本位に都合よくまげて覚えこんでいるものはなく、 自分の行動と心理くらい、麻のように乱れこんがらがっているものはなく、 自分の心の奥くらい、固い殻でしっかりかくし秘めているものはないのです。 瀬戸内寂聴…
わたしたちは何の役にも立たないでこの世にいるはずはないのです。 子供も大人もひとりひとりに役があります。 阪神大人災に遭われたお年寄りも、 「何のために生きているのか、こんな目に遭ってまで生きていたくない」 とおっしゃい…
人恋しさがないから旅に出られるのではなく、人恋しさの物狂おしさゆえに、旅に出るのではないでしょうか。 会えない旅の途上、一歩ずつ、執着の恋から遠ざかりつつあるという瞬間くらい、純粋に熾烈に恋が燃えさかるときはありません。…
何事につけ、襲いかかる苦労を苦に病んでいては、 生きていて面白かろうはずはありません。 わたしはしなければならないと直感したら、何であってもそれを愉しいことだと信じ、やりとげるように心がけています。 多分、根が楽天的なの…
仏様や神様が決めた寿命の分を、わたしたちはどうしても生きなければならない存在です。 大病をしても、最愛の人に先立たれても、なお生きなければならないこともあります。 寿命は素直に受け入れ、そして仏様がボケさせ、死なせてくだ…
生きてある日は今日ばかりとは、このごろのわたしの真実の実感です。 逢う人はすべて一期一会とおもい、心をこめた別れ方をしておきたいと思っています。 そう思いはじめてから、いっそう人がなつかしく、恋しく思われるものありがたい…
何も努力しないで、ただお扶(たす)け下さい、何かを与えて下さいと祈るのは、 人間の甘えです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
同床異夢(どうしょういむ)ということばがあります。 どんなに愛しあっていても、一つのベッドで抱きあって寝ても、 ふたりで一つの夢を見ることはできないということです。 互いに別々の夢を見て、相手の夢のなかにまでは入っていけ…
聖書のなかに「復習するはわれにあり」ということばがあります。 わたしはこのことばを「自業自得」とおきかえて、自分を納得させてきました。 自分で選んだことには自分で責任をとれ、という解釈です。 わたしが切羽つまったところに…
心の聡明な人、考え深い人たちは、 怠けずよくはげみます。 独りで生まれ独りで死んでいく人間は、 自分を頼れるものに鍛えあげるしかないのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
人間の愛とは、大体において自分本位なものです。 とくに男と女のセックスをともなう愛は、仏教では〝渇愛(かつあい)“と呼ばれます。 渇愛とは肉欲の愛。喉が渇いてたまらない感じで、飲んでも飲んでも心は乾きつづけます。 渇愛は…
みんな自分の身に起きた不幸が、世界一のように思いこみたがります。けれども世の中には不幸と同じくらいの幸福もばらまかれているのです。 人は不幸のときは一を十にも思い、幸福のときは当たり前のようにそれに馴れて、十を一のように…
まだわたしは生きています。 生きている限り、様々な人々とも思いがけない出逢いが 行く手に待ち受けていることでしょう。 同時にそれは、多くの別れをも受け入れることになります。 人間が好きで、だからこそ小説書きになったわたし…
祈るということは、自分を生まれたての赤ん坊のように無心にし、ひれ伏し、身を投げだすことです。たとえひれ伏している真上から刀を振り下ろされても悔いないという絶対の信を得るために、人は祈るのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユー…
自分が孤独だと感じたことのない人は、人を愛せない。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
時が癒してくれることを関西では「日にち薬」といいます。日時が薬になって、どんな悲しみも治してくれる。ほんとうにやさしく人の心を癒すのです。 悲しいときはじっとして、そのいやなときが過ぎていくのを待ってください。 瀬戸内寂…
人間が生きてゆくには、もちろんお金が必要です。健康が必要です。 地位もほしいし、高価なものもほしいでしょう。 けれども、そうしたすべてを手にいれても、人に愛され、 人を愛する心がなければ、人生は殺伐としたものになります。…
恋ほど、人生にとって大きな事故があるでしょうか。 それはいくら注意深く用心を重ねていても、 襲うときには必ず一方的に襲ってくるものです。 その避けがたい点では、恋は最も天災に似ているかもしれません。 瀬戸内寂聴 撮影:斉…
生きることは、働くこと。仕事をさせていただくことです。 自分にふさわしい、あるいは自分にできる仕事をさせていただいて、 それが人様の役に立つ。 それが生きがいというものです。 仕事があることはとても有り難いことです。 瀬…