捨てることも大切【瀬戸内寂聴「今日を生きるための言葉」】第99回
捨てないといただくものもいただけないものです。捨てないと入ってくる場所がありません。こちらを空っぽにしておけば、そこにいただくものが入ってくるのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文…
捨てないといただくものもいただけないものです。捨てないと入ってくる場所がありません。こちらを空っぽにしておけば、そこにいただくものが入ってくるのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文…
男の魂は、孤独の美と楽しみについて敏感です。 女はそれを承知して、愛する者に惜しみなく自由を与え、その間に自分自身も悠々と疲れを回復させて、いつも新鮮さを保つべきなのです。 相手の自由を認めることは、自分にも自由と孤独の…
恋は錯覚の上に咲く花にすぎません。 女は恋人の上に理想の男の仮面をかぶせ、ほんとうの恋人と思いこんで身をやいていきます。その仮面がはずされたときに見いだすのは、自分が捨てた男と大差のない男、あるいは、はるかに価値のない男…
「時」はその人とともに生きつづけます。 肉親よりも、夫婦よりも、空気や太陽よりも、 人は自分の時と永遠につきあわなければならないのです。 そして時をふり返るというのは、よほど幸福な時か、 ほんとうに孤独に打ちひしがれた時…
だまされる能力が残されているということは、何かの恩寵ではないでしょうか。 すべてがくっきりと、一分のすきもない正確さで見えてきたなら、生きる望みもなくなってしまいます。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 …
幸福とは、一瞬の感覚であると思います。 今、幸福と思うことが、あすは不幸の種になっているかもしれません。 今不幸だと思っている原因が、思いもかけない悟りに通じ、 人生の奥義をのぞかせる種にならないともいえないのです。 瀬…
姉の送ってくれた三十株の牡丹に寒肥をほどこしながら、あの冬も格別寒かったと思います。白梅をくれた老人も、紅梅をくれた華やかな女人も、すべて浄土の人になっています。 花の咲くのに立ち合い、美しい日を仰ぐ度、今年が見おさめか…
人間が他の動物とちがうところは、愛することと祈ることを識(し)っていることではないでしょうか。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
わたしはインドを歩きつづけながら、 「生きながら死して静かに来迎をまつべしといふ、万事いろはず、一切を捨離(しゃり)して、孤独独一なるを死するとはいふなり」 という一遍の法語を、常に思い浮かべていました。孤独独一という烈…
女が鬼にひかれるのは、男よりも自分のうちに飼う鬼の存在を 自覚しているからかもしれません。 思いつめた女の情念のはては、鬼になっても消えない、男への思慕に しおしおと引きさがっていきます。 人間が鬼にならなければならない…
人間の孤独の表情は、人間の背中がいちばん知っています。 人間の背中がさびしさの翳を背負ってくるのは、人生の苦しみを味わったときからではないでしょうか。 男の背のさびしさに気づき、それに惹かれてしまったら、女はもう、その男…
男が老いて性的不能になっても熱烈な恋ができ、かつ嫉妬の炎を燃やすという例は、わたしは荒畑寒村氏の上にも見ています。 九十歳のとき寒村氏は四十歳の女性に熱烈な恋をして、毎日原稿用紙十枚も二十枚ものラヴレターを書きつづけまし…
布施とは、相手の欲することを与えること。物施(ぶつせ)もあれば心施(しんせ)もあります。 でもわたしは、顔施(がんせ)ということばがいちばん好き。 だれに逢ってもにこにこ優しい表情をみせることで、 顔さえあればだれにでも…
生と死は相対的なものではなく、水が氷になったような、ひとつのものの変化にすぎず、表裏一体でひとつつづきのものなのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
キリスト教系の女子大生のとき、「み心のままに」という祈りのことばを教えてもらいました。仏教徒になって、わたしはこの好きだったことばをまた身近に思い出します。「み心」は、キリストでもブッダでもいいのです。自分が帰依(きえ)…
孤独に甘えてはいけません。孤独を飼い馴らし、孤独の本質を見きわめ、 事故から他者の孤独へ想いをひろげるゆとりを手に入れないかぎり、 孤独の淵から這い出ることはできないのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる…
ひどくつらい思いをした方がみえたとき、わたしは 「悲しいでしょう、つらいでしょう、気がすむまでお泣きなさい」 というしかありません。そのときわたしにもほんとうの涙がわいてきます。 相手の気持ちになって一緒に泣く、これしか…
自分の属している世界から、ある日突然姿を消し去り、全く別の世界で生き直したいと、一生に一度も思わない人間がいるでしょうか。 心が冷たいからとは限りません。心があたたかすぎるから、しがらみに耐えきれなくなった人間もいるはず…
昨日、美しい知人が訪ねてきました。三年前はじめて訪れたときは美しいけれど能面のような顔をして陰気な人でした。今、その人の顔に華やかな笑顔がかえっていました。若い恋人に裏切られ、殺して死のうと思ったと悶え苦しんでいたのです…
だれかを愛するということは、命の火です。 たとえそれが自分だけしか燃やす火力がなくとも尊いのです。 灰になっているより、火でいるほうが、 生きている証拠をつかんでいるのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる…
死ぬということは、生命の川の流れに注ぎきり、川を太らせ、 永劫に流れつづけるその川の中に、蘇生するということかもしれません。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
神も仏もあるかないかと疑いつづけているうちは、ないのです。 あると信ずるとき、それは自分のなかにあると、仏教は教えてくれます。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
母親の胎内にいる胎児の姿を思って下さい。 自分の腕で自分の折り曲げた両膝を抱えこんで、 膝にうつむいた顔を押しつけています。 何という孤独なさびしそうな姿でしょう。 人は胎児のときから孤独だったのだと、あの姿を見ると思い…
結婚生活を北京で送っていたわたしは、夫が出征した直後にもうお金がなくなりました。阿媽(アマ・お手伝い)の春寧(シュンニン)の給料も払えなくなったので、帰ってくれと彼女に告げると、祖母の茫媽(ファンマー)が翌日駆けつけてき…
自分の存在の相(すがた)を孤独なりと言いきれる人にだけ、自然は心を開き、ことばをかわし始めます。 西行も芭蕉も流浪の旅をしました。川も山も木々も草も、旅の途上にあるものは、人格をもって行手に待ち、なつかしくよりそい、やが…
人間は絶望する前に希望を捨ててはいけません。 それは人間として傲慢なことなのです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
一番自然で幸福な女の一生とはどういうものでしょう。 やはり、年ごろに適当な男にめぐりあい、結婚し、愛する夫の子供を何人か産み、途中、あれこれ波風はあっても、がまんしたりされたりして添いとげ、年老いて、夫が病気で倒れたとき…
人は何処より来て、何処へ行くのか。 わたしは今もってわかりません。 わかっていることは、自分は自分の意志でこの世に生まれてきたのではないということ、この世にいる時間を自分の都合で調節できないということだけです。 何かの意…
わたしたちはだれも死にたくない。 自分が死にたくないように、人も死にたくない。 絶対殺さないという、仏教の教えこそ、この世で最高の教えです。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生きる言葉 あなたへ』光文社文庫
人間は本来孤独なものです。 そうとわかってはいても、やっぱり他人の愛を求めたがる。 孤独だからこそ、愛がほしいし、語りあう人がほしい。 肌であたためあう相手がほしいのでしょう。 瀬戸内寂聴 撮影:斉藤ユーリ 出典:『生き…