それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
相模湾を抱いて、温暖な気候に恵まれている風光明媚な町、湯河原温泉は、万葉の時代から良質な湯が湧く場所として知られてきました。
明治時代の中頃からは、秘湯の趣きと風情をもとめて文人墨客が数多く訪れ、数多くの作品を書きました。前の都知事も足しげく通った場所として大きな話題になったのは、記憶に新しいところです。
湯河原温泉には、旅館の31人のおかみさんが所属する「おかみの会」があります。会長は、旅館「ご縁の杜」を経営する深澤里奈子(ふかざわりなこ)さん、42歳。
「ご縁の杜」は十部屋ほどの小さな旅館ですが、要所要所におかみの理念とお客様への思いやりがあふれています。まず、注目すべきは『食事』です。
食材は、肉・魚・卵・乳製品を一切使わないオーガニック料理・・・。「それじゃあ、うまいご馳走を食えないじゃないか」という声もあるでしょう。しかし、おかみさんは言います。
「肉や魚や卵が体に悪いというわけではありません。でも、たった一泊二日でも、大地のエネルギーを吸い取った食材だけを摂ると、体が楽になり、直観力や感受性が冴えてくるのが分かります。すると、ストレスや疲労に埋もれていた本当の自分が見えてきます。自分が何を、どのようにしたらいいかが、ハッキリしてくるんですよね」
「ご縁の杜」のユニークなサービスの二つ目は『おかみと行く日の出ツァー』毎朝6時、おかみが運転する9人乗りのハイエースに乗って、真鶴半島の先端まで日の出を見に行くサービスです。
今の季節は6時ですが、夏場は 日の出の時刻が早まりますから、4時出発!意外にも希望者が多く、車を2台出すことも少なくないといいます。
「海から出て来る太陽を見ると、みんな希望にあふれた笑顔になります。その後の自分が、どう変わるかが楽しみですよ」
こう言って、おかみさんは声を弾ませます。
さて、この「ご縁の杜」が、去年の10月5日に実施したツアーは、日本中の注目を浴びました。
大きな注目を浴びたツアーとは、乳がんの患者さんたちの貸し切りツアー!
地元・平塚共済病院で乳がんの手術や治療を受けた20代から80代までの患者さん、17人が一泊二日の温泉旅行を楽しんだのです。
湯河原温泉「おかみの会」では去年の一月、首からかけて胸を隠すエプロンのような形の「入浴着」を一を括購入。加盟する全施設に配布してきましたが、逆に「かえって目立つ」といった理由から、ほとんど利用されませんでした。
「ならばいっそのこと、貸し切りで温泉を楽しんでもらおう!」と、このツアーを受け入れたのが深澤里奈子さんの「ご縁の杜」でした。
これまでは、人目を忍んで深夜の入浴や家族の貸切風呂にしか入れなかった患者さんたちの明るい声が、大浴場に響きました。女性だけのツアーですから男風呂もド~ンと開放!
「ねえねえ、今度は男風呂に行ってみましょうよ!」と、女学生のようにはしゃぐ患者さんたちの声がうれしかった~と振り返る深澤さんの元には
「病気になって初めて、温泉に入れた!」
「みんなと一緒の大きなお風呂は、やっぱり楽しい!」
~といった声が沢山届きました。
国立がんセンターの予測では、2016年の乳がんの患者数は、およそ9万人。
製薬会社「エーザイ」の調査では、うち8割近くの患者さんが、辛かった体験として「温泉に行けなかったこと」をあげているそうです。
2017年1月11日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
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