今年で国鉄からJRになって30年。
JR発足後、各社は様々な新型車両を投入しましたが、JRグループ最初の特急電車として注目を集めたのが、昭和63(1988)年デビュー、JR九州の783系電車です。
“ハイパーサルーン”の愛称で親しまれ、博多~西鹿児島間の特急「有明」で活躍しました。
現在は、宮崎からの特急「きりしま」として、毎日、鹿児島中央駅に顔を出しています。
この30年で駅弁を取り巻く環境も大きく変わりましたが、2000年代半ば、廃業寸前から立て直し、今や全国にその名を知られるようになったのが、鹿児島・出水の駅弁屋さん「松栄軒」。
出水駅近くの工場では、最も稼働する日で1日18時間、鹿児島県内のみならず、各地域向けの駅弁が作り続けられています。
各地域向けの駅弁を作る背景は何があるのか、松山幸右代表取締役社長に訊きました。
鹿児島の「食」を全国に発信したい!
●駅弁大会の常連となった「松栄軒」ですが、今ではいろんな所で食べられるようになりました。
鹿児島だけでなく、東京や大阪、福岡などにも出荷しているのは、なぜですか?
僕らが(駅弁大会などで)「外に出ていく理由」というのは、「鹿児島の食を全国に発信したい!」という思いからです。
お客様と話しているとよく分かるんですが、皆さん「駅弁」へ相当な思い入れをお持ちなんですよ。
「駅弁って、素晴らしい!」って・・・。
やっぱり、その思いに応えて(駅弁を守って)いきたいという気持ちから、「鹿児島の食を全国へ・・・」という大義名分のもとに、各地向けの駅弁を作っています。
東京駅に朝、並んでいるものは、前日の夕方、最終便で送って、朝イチに配送されたものです。
東京仕様に作った駅弁ではなく、みんな出水で作って、売っている駅弁を空輸しています。
●最近は、熊本の駅弁も手掛けていますよね?
実は熊本には、大きく動ける駅弁屋さんが無いんです。
元々、熊本駅には「音羽家」という駅弁屋さんがあったんですが、撤退されてしまいました。
今は福岡・八女の「ニシコーフードサービス」さん、八代の「みなみの風」さんがやっているくらいで、JRさんから「松栄軒さんも熊本向けに・・・」と声がかかって、熊本の駅弁を作っています。
もっと「九州」の駅弁を盛り上げたい!
●実は九州って、県庁所在地の駅弁屋さんが、多くの県で無くなっているんですよね?
福岡・博多駅も、昔からの駅弁屋さんはありません。
「寿軒」は、九州新幹線が博多まで通る直前で無くなってしまいました。
九州新幹線の老舗駅弁屋は、始発の鹿児島が無くなり、熊本が無くなり、そして博多も無いという極めて異常な状況なんです。
そこへ他の地域から大手の企業が本気出して来られたら、九州のフィロソフィーが入った駅弁が全くなくなってしまう・・・。
●「松栄軒」としても、気が気でないですよね?
だからこそ、九州(新幹線)の縦のラインは、何とかしなくちゃいけないと考えています。
最近ではJRさんから「博多にも・・・」というお声がけをいただいたこともあって、鹿児島の黒豚と、福岡の明太子を組み合わせた駅弁を作って、博多駅で販売も行っています。
ココまで来ると、「鹿児島の食を発信・・・」というよりも、「九州の食を発信する会社」になっていかないといけないのかなぁと思っています。
ホントに九州は「頑張らない」とイケない時に来ています。
「頑張る」って、何やかんや言っても、「売れるかどうか」ですからね。
今こそ、老舗が頑張る時!
●その意味では、先日の「九州駅弁グランプリ」・・・いかがでしたか?
「九州駅弁グランプリ」の結果には、ちょっと歯がゆいところがあります。
生粋の駅弁屋としては、もっとプライドを持ってやらなきゃいけない。
「松栄軒」としては、全34作中7作エントリーして、2作が決勝大会に残りました。
今回、未エントリーの駅弁だけでやったんですが、これは面白かったですね。
ボク自身は、このほうが駅弁の活性化になると考えています。
毎回、同じ弁当で「○連覇」というのもイイですが、毎年違う弁当で勝負して変革していかないと。
変革しないと、企業はもう負けですから。
●「駅弁グランプリ」を取材した立場としても、今回はちょっと展開が読みにくかったですね。
これからも(九州駅弁グランプリは)、「新エントリー(の駅弁)」でやるといいと思います。
新作、新作で、駅弁会社を「鍛える」ことにもなりますから。
新作を作ると、みんな「考えます」からね。
その意味では、松栄軒をはじめ、中央軒とか東筑軒、北九州駅弁当といった老舗駅弁屋さんが、もっと上位に食い込んでいかないといけないなと思います。
ボクらも、もっともっとプレッシャーを感じてやらないとダメですね。
もう、このままじゃ済まされない問題です。
(松山社長インタビュー、次回に続く)
去年10月から今年2月にかけて行われた「第12回九州駅弁グランプリ」。
結果は「駅弁膝栗毛」でもお伝えしましたが、決勝大会に残りながら、惜しくもベスト3には届かなったのが、「松栄軒」の新作「黒豚三昧」(1,080円)です。
松山社長は、ベスト3に届かなかったことについて「駅弁にもう少しストーリー性があったら・・・」と分析されていましたが、九州で10本の指に入った駅弁、普通に美味しくいただくことが出来ます。
包装を外し、六角形容器の蓋を開けると、3つに仕切られた黒豚が現れました。
それぞれ、タレ焼き、塩ダレ焼き、味噌そぼろの3つの味がぎっしり詰まっています。
私のお気に入りは、塩ダレ焼き。
程よくスパイシーでこってりし過ぎず、食欲をそそってくれます。
私自身、東京・有楽町で仕事をしていると、近くの鹿児島のアンテナショップにある「いちにぃさん」で、ランチの「黒豚の野菜蒸しセット」をよくいただきます。
素材の味が活きた“白い黒豚”を見ると、もうキュンキュンなんですよね!
松山社長ご推薦の駅弁ポイントの1つが、錦江湾沿いを走る日豊本線。
鹿児島駅を出て、トンネルを抜けると程なく、右手に錦江湾越しの桜島が望めます。
この場所、実は島津の殿様が、桜島を借景に作った名園「仙巌園」の目の前。
77万石の殿様気分で、駅弁が食べられる路線なんて、ココ以外にありえません。
次回、いよいよ松山社長インタビュー最終回です。
*「駅弁屋さんの厨房ですよ!」シリーズはこちらから↓↓
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.1「祇園」編)~伊東駅「いなり寿し」(600円)
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.2「丸政」編①)~小淵沢駅「甲州かつサンド」(700円)
水戸駅「常陸牛 牛べん」(1,050円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.3しまだフーズ編①)
出水駅「えびめし」(930円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.4松栄軒編①)
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/