鹿児島中央~吉松間を走るJR九州のD&S列車・特急「はやとの風」。
錦江湾沿いを走って肥薩線に入ると、嘉例川、霧島温泉、大隅横川などに停まって、終点・吉松までは1時間半あまりの旅となります。
「はやとの風」という列車名と真っ黒な車体は、島津軍が勇敢に敵の陣中を突破するイメージ。
あの関ヶ原の戦いにおける“島津の退き口”を列車で表現したといいます。
(参考:「鉄客商売」JR九州会長・唐池恒二著)
平成16(2004)年に走り始めた時、ファンの視点からビックリしたのは、車両の出自でした。
「はやとの風」の車両は、キハ47形という普通列車用に作られた車両。
今もドアやその周辺、二段窓に普通列車時代の面影が感じられますよね。
国鉄時代の特急といえば、クリームに赤の帯、1ドアで、風格のある車両でした。
首都圏の185系電車のように普通列車との兼用を意図した車両こそあれども、普通列車用の車両が“出世”して特急になるということは、まず考えられなかった訳です。
さらに、実際に乗ってみてビックリ!
車内にはリクライニングシート、天井まで届こうかというワイドな窓の展望スペース、車掌さんのいないワンマン運転でありながら、車内販売のアテンダントさんはしっかり乗務。
空いている時期には、アテンダントさんがキャンディなどを無料で配ってくれることもありました。
特急とはいえ自由席なら500円程度の追加料金ということもあり、こういう列車も“結構、イイじゃないか!”という感想を持った記憶があります。
さらに、ローカル線の無人駅に潤いと温もりを与えているのが、名誉駅長さんの存在。
地元のJR(国鉄)OBの方などが就任し、駅の清掃などを担います。
現在は、他のJR各社にもこのような取り組みが波及していますよね。
肥薩線・嘉例川駅の名誉駅長は、現在の篠原さんで三代目。
制服を着用しての、特急「はやとの風」のお出迎え・お見送りは、大事な任務の一つです。
嘉例川駅の木造駅舎が大事に守られ、緑と花がいっぱいの駅でいられるのは、やっぱり名誉駅長さんをはじめとした地元の皆さんの駅への愛情のお陰といえましょう。
平成25(2013)年から販売されている嘉例川駅弁の第2弾は、「花の待つ駅 かれい川」(1,080円)。
調製元の「森の弁当 やまだ屋」によると、駅弁開始からずっと「百年の旅物語・・・」1本でやってきましたが、地元の皆さんから『そろそろ第2弾を・・・』の声が上がり、開発が始まったそう。
その後、霧島市で行われた「きりしま!新・食のおみやげコンテスト」の第1回大会で見事、最優秀賞を受賞し、駅弁として商品化されました。
ホントは2013年の発売当初に購入予定だったこの駅弁。
しかし当時、訪れた日が5月の「母の日」で、地元の方の“嘉例川の駅弁を贈る”ニーズが高いことから、レギュラー版を増産したため調製が無く、4年越しでようやく買うことが出来ました。
見た目は、掛け紙が、前回ご紹介した第1弾「百年の・・・」と比べ、緑色になっているのが特徴。
中味は女性に喜んでもらえるよう、黒米や卵焼きを入れることで嘉例川駅に咲く花をイメージしたといいます。
ご飯・・・地元産の黒米と栗の炊き込みご飯
香の物・・・霧島産の生姜の佃煮
がね・・・サツマイモと人参、ニラ、生姜の天ぷら。鹿児島の郷土料理。
卵焼き・・・昔懐かしい母さんの「甘い玉子焼き」
酢ごぼう・・・地元で採れる姶良ごぼうをサッパリとした味わいに
里の味・・・里芋とサッパリとした梅の果肉を一緒に
鶏の煮付け・・・鹿児島の「さつま赤どり」の中に野菜を混ぜ込んで、
嘉例川自慢の原木椎茸と一緒に煮付けたもの
つけあげ・・・地魚のすり身を使って揚げたもの
そして、「花の待つ駅 かれい川」には、デザートの「けせん団子」が入っているのも特徴。
「けせん団子」は鹿児島の郷土菓子で、元々はただの小豆団子だったそうですが、南国特有の暑さに耐えられるように、いわゆるシナモンなどの「けせんの木」の葉っぱで挟むようになりました。
この駅弁では、サツマイモと紫芋の2色となっていて、これは肥薩線沿線の塩浸温泉に“日本初の新婚旅行”に訪れたという坂本龍馬・おりょう夫妻に因んで、“2個”の団子を蒸し上げています。
「花の待つ駅 かれい川」の販売は、土・休日限定。
コチラも「はやとの風」乗車時であれば、JR九州「みどりの窓口」で2日前までの予約が可能です。
「はやとの風」をリピートで利用する場合や、龍馬の新婚旅行のように男女2人で「はやとの風」の旅を楽しむなら、レギュラー版と1つずつ買って、シェアするのが楽しいかもしれませんね!
運行当初、2両編成のうち1両が丸々自由席だった「はやとの風」も、今や列車の大半が指定席となる人気ぶりとなりました。
肥薩線のようなローカル線とは、傍から見れば、周りを高速道路やクルマ社会に囲まれた敗色濃厚な“西軍”のようなものかもしれません。
しかし、その中を島津軍のように、勇猛果敢に10年以上走り続けたことで、肥薩線は九州の鉄道旅では欠かすことのできない周遊ルートの1つとなりました。
その意味ではJR九州は“ローカル線再生工場”。
「はやとの風」は、ローカル線のあり方に、新たな風を吹かせた列車なのです。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/