日豊本線の南宮崎~鹿児島間が電化したのは、昭和50年代半ばのこと。
当時の子供向けの鉄道本には24時間以上の運行時間と日本最長距離列車を誇っていた東京発・日豊本線まわり西鹿児島行の寝台特急「富士」の記事がよく載っていました。
特に宮崎でDF50形ディーゼル機関車に付け替えて、最後の力走を見せるブルートレイン「富士」は旅情たっぷりで、子供ながらにいつかは乗りたいと思ったものです。
電化からはずいぶん時間が経ちますが、日豊本線では、都城から吉都線(きっとせん)、隼人から肥薩線(ひさつせん)といった非電化路線が接続。
このためローカル列車には、電車に混じって、気動車列車がしばしば見られます。
訪れた日は、宮崎~西都城間の普通列車に、キハ40形気動車2両で充当されていました。
白地に青帯は、九州における国鉄形気動車の標準的なカラーリングです。
都城から分岐する吉都線は、都城盆地、小林盆地、加久藤盆地といった“盆地めぐり”の路線。
そんな吉都線を走るキハ40のボックスシートにも似合いそうな駅弁といえば、西都城「せとやま弁当」の「みやこのじょう盆地物語」(930円)かもしれません。
2013~14年にかけて行われた「第10回九州駅弁グランプリ」に合わせて登場した駅弁で、決勝大会ではベスト10に入った実力派の駅弁です。
【お品書き】
一、 南九州産豚塩麹焼
一、 鶏つくね木の子あんかけ
一、 海老マヨネーズ和え
一、 鶏もも照焼
一、 玉子焼き
一、 串間産かまぼこ
一、 千切大根と人参の膾(なます)
一、 鶏の油みそ
一、 都城伝統ガネ
一、 都城特産牛蒡揚げ
一、 煮物五種
一、 名物かしわめし
一、 白ご飯 白ごま梅干
地元産の豚や鶏肉、野菜をふんだんに使い、蒲鉾、玉子焼きが入った幕の内風の駅弁。
看板駅弁の「かしわめし」もちょびっと入っています。
都城も島津氏の文化圏だからでしょうか、ご当地のかき揚げは「ガネ」というんですね。
肉と野菜をバランスよく、たっぷりのおかずを少しずついただくことが出来てお得な「930円」。
西都城の駅弁は、駅弁としては価格帯が抑えられているのも特徴です。
せとやま弁当の小坂さんは、『旅行中ならテンションが上がっているので、少し値段が高くても買ってくれるけど、普段から来てくれるお客さんには手が出ない』と話します。
小坂さんには、毎日の朝礼で必ず言う「ことば」があるそうです。
『手を抜かず、気を抜かず、気配り。お客様の笑顔を浮かべて作りましょう!』
戦後すぐの昭和23(1948)年創業で、新作も積極的に投入している駅弁屋さんでありながら、地元密着でどこか家庭的な雰囲気が漂う西都城「せとやま弁当」。
小坂さんも『お客さんに、母さんの弁当のように思ってもらえたら嬉しい』と話します。
西都城(都城)の「冷めても(心が)あったかい駅弁」、ぜひ一度、足を運んで味わって下さい。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/