週末朝9時過ぎの鹿児島中央駅、真っ黒な車両の周りは、ひと際多くの人で賑わっていました。
列車の名前は、特急「はやとの風」。
平成16(2004)年、九州新幹線の先行開業と共に、鹿児島中央と吉松の間で運行を開始しました。
普通列車用の車両・キハ47を、いわゆる“水戸岡デザイン”によって大幅リニューアル。
少しレトロで木材を多用した温もりある車内は、10年以上経った今も色あせることはありません。
「はやとの風2号」は、鹿児島中央駅を定刻通り9:26に発車。
最初のビューポイントは、鹿児島駅を出て間もなく、仙巌園付近からの「桜島」です。
車内からは、日本語のみならず、様々な言語で歓声が上がります。
この日、2両編成のほとんどを占める指定席は完売。
残りの皆さんはわずかな自由席に集まり、車内は立ち客も溢れる盛況ぶりでした。
列車は、まず日豊(にっぽう)本線を走り、途中の隼人(はやと)から肥薩線に入ります。
最初の“長時間停車”は「嘉例川(かれいがわ)駅」で、10::22~30の8分間停まります。
この駅のウリは、明治36(1903)年に開業した当初からある築100年以上の「木造駅舎」。
今では国の登録有形文化財にもなっています。
そして「はやとの風」と共に、この駅に誕生したのが・・・?
駅弁の「百年の旅物語 かれい川」(1,080円)です。
嘉例川駅は、それまで“何てこたぁない”と思われていたローカル線の無人駅。
ただ、100年の歴史ある古い木造駅舎だけが残っていました。
JR九州はそこに特急を停めるという“常識”では考えられないことをやりました。
これを受けて誕生した駅弁がとても美味しく、なんと「九州駅弁グランプリ」で3連覇!
調製元は、地元・霧島市の「森の弁当 やまだ屋」です。
【お品書き】
・ご飯・・・竹林に囲まれた嘉例川駅をイメージ。霧島市内の棚田で採れた「ひのひかり」を使用。
地元・嘉例川の松下さんが原木栽培した「椎茸」とタケノコを炊き込む。
・ガネ・・・鹿児島特産・紅さつまの天ぷら。野菜の水分だけで作り、揚げる。
(ガネとは「カニ」の意。揚がった形がカニに似ていることから)
・千切り大根の煮物・・・嘉例川の豊富な野菜を使用。
・みそ田楽・・・茄子と南瓜を香ばしい手作りの麦味噌で田楽に・・・。
・スセ(酢の物)・・・大根と人参をさっぱりと仕上げる。
・嘉例川コロッケ・・・地元の椎茸、タケノコを混ぜ込む。
地元食材にこだわって、全て手作りで作り上げている「百年の旅物語 かれい川」。
なるほど、筍と絹さやの緑で“竹林”のイメージですね!
素材の味が活きた優しい味わいは、どこか懐かしくて、訪れる度に食べたくなる味。
週末の嘉例川駅は、この駅弁を求める人がたくさん訪れるのです。
昨今の「駅弁」は、しばしば“買いやすい駅弁”が人気を集める傾向があります。
東京駅で買える地方駅弁は、まさにその代表格。
ただ、「百年の旅物語 かれい川」は、その対極にある駅弁です。
週末限定、現地限定、数量限定・・・究極に“買いにくい駅弁”なんです。
でも、ココまで来ると、逆に『嘉例川駅で駅弁を買うこと』自体が、旅の目的になるんですね。
「駅弁」には、人を集めるチカラがあるのです!
そこで、私の経験上から、嘉例川駅弁の「買い方」のポイントを紹介したいと思います。
●嘉例川駅では、土・休日の午前10:30頃(「はやとの風2号」到着時)から販売。
●嘉例川駅では、通常100個+αの入荷があり、昼前後で完売のことが多い。
●駅そのものが観光スポットになっているため、乗客以外にも駅弁の購入者が多い。
●「はやとの風3号・4号」で買えたことは無いので、ゼッタイ買うなら「はやとの風2号」が必須。
●駅売りの予約は不可。「森の弁当 やまだ屋」は、家族3人でやっている小さな弁当屋さんなので、弁当の調製以外に手が回らないことが推測される。
(繁忙時間帯は、問い合わせ電話等でお手を煩わせないほうがいいと思います)●「はやとの風」に乗車の場合は、2日前までにJR九州の「みどりの窓口」で駅弁引換券を購入。
車内販売にて引き換えることが出来る。(但し月曜日以外、祝日はOK)
●但し、首都圏の「みどりの窓口」では買えないので、乗車2日前までに九州に入ることが必須。
例えば、金曜夜に九州に入り、日曜分を予約といった形であれば可能かも。
●電話であればJR九州旅行予約支店(092-482-1489)で予約可能だが、郵送料等がかかる。
いずれにしても、駅弁1つ買うのに、「買えるかなぁ・・・」とドキドキするのも1つの“旅物語”。
買えなかった時は、また「はやとの風」で、週末の嘉例川駅を訪れてみてはいかがでしょうか。
駅弁を求めて、ローカル線の無人駅に人が集まるという光景は、きっと忘れられない「旅の思い出」になりますよ!
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/