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肥薩線のキハ220形
特急「かわせみやませみ」や「いさぶろう・しんぺい」、さらには「SL人吉」といったJR九州らしい「D&S(デザイン&ストーリー)列車」が目白押しの肥薩線。
ただ、本数は限られていますので、旅の日程とタイミングが合わないと乗れないこともあります。
でも、肥薩線(八代~人吉間)の普通列車を中心に活躍する1両の赤い気動車も侮れません。
普通列車ですが、車両の中央部にはなんと、展望スペースが設けられているのです。
この赤い気動車、キハ220形1102は、実は2004~11年まで鹿児島の指宿枕崎線で、快速「なのはなDX」の指定席車両として、黄色く塗られて活躍していました。
リクライニング機能は省略されていますが、インアームテーブルを装備したD&S列車並みのシートがあり、九州新幹線全線開業までの7年間、指宿への観光輸送を担っていたんですね。
かつて指定席料金を取っていた車両に、乗車券のみで乗車できるのは乗りドクですよね!
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球磨川
人吉から肥薩線を日本三大急流の1つ・球磨川の流れと共に走って、かつての鹿児島本線(今の肥薩おれんじ鉄道)のトラス橋が見えてきたら、いよいよ接続駅の八代(やつしろ)。
肥薩線は鉄橋の下をくぐって、右へぐるりと回り込む形で合流していきます。
この球磨川は、「尺あゆ」と呼ばれる大きな鮎が生息していることで有名な川。
旬を迎えた初夏、球磨川と八代という地名を耳にすると、恋しくなってくる“鮎の駅弁”があります。
(参考)球磨川漁業協同組合
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鮎屋三代
その名も「鮎屋三代」(1,150円)!
掛け紙にも、平成14(2002)年9月24日に球磨川で釣り上げられた体長34センチの「尺あゆ」の実物大の魚拓が刷り込まれています。
調製元は、八代駅前で長年、鮎の加工や鮎料理を手掛けている「頼藤商店」。
八代駅前のお店のほか、新八代駅、熊本駅などで購入出来ます。
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鮎屋三代
頼藤商店初代・頼藤清氏の覚書という、天皇陛下に球磨川の鮎を献上した際のエピソードが綴られた掛け紙を外すと、掛け紙同様、ドーンと大きな鮎の甘露煮が現れました。
この甘露煮こそ、依藤商店がこの清氏から三代にわたって受け継いできた秘伝のたれで、骨までやわらかく煮こんだもの。
川魚特有の臭みは全くなく、頭からガブリと喰らいついても優しい歯触りで、苦味もありません!
「鮎+臭み=苦手」という方程式で頭がカタくなってしまっていた方は、この甘露煮を口にすると、間違いなく“鮎の新しい世界”を知ることになるはずです。
(甘露煮のみの通販も行っています)
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鮎屋三代
加えて炊き込みご飯は、球磨川産天然アユによる「焼き鮎」からとったダシで炊き込まれたもの。
好き嫌いがホントに分かれる「アユ」という食材を、万人受けが基本の「駅弁」へと仕上げ、かつ大きな人気を獲得できたのは、素材の良さと三代にわたって続く「技」の積み重ねなのでしょう。
平成16(2004)年の九州新幹線部分開業と共に誕生し、「九州駅弁グランプリ」の初回から3回目まで3連覇した実績も持つ「鮎屋三代」。
熊本の鉄道旅では欠かすことのできない駅弁の1つです。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/