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SL人吉(2013年撮影)
肥薩線最大の中間駅・人吉駅。
熊本~人吉間には、春~秋の週末を中心に大正生まれの8620形蒸気機関車(ハチロク)が、3両の50系客車率いる全車指定席の「SL人吉」も運行されていて人気を集めています。
ハチロクの汽笛って、昭和のSLと違って少し軽くて、音に大正時代の軽快感があるんですよね。
大正ロマンたっぷりの「SL人吉」は、また機会を設けて、ご紹介したいと思います。
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新温泉
さて、人吉は城下町、鉄道の街であり、温泉の街でもあります。
市内各所には、温泉宿は勿論、共同浴場が点在していて、日帰り入浴も楽しめます。
中でも、昭和6(1931)年築のレトロな浴場を誇るのが「新温泉」(300円)!
入口の男湯、女湯の表記が、右から書いてあって、一気にテンションが上がります。
営業時間が13:00~なので、昼過ぎに人吉に着く「SL人吉」で行くと、一番風呂が楽しめます。
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新温泉
高い天井のあるレトロな浴場に入ると、黒いお湯が掛け流し!
源泉は浴場の前、道を挟んだ反対側の河原沿いにあって、昭和6年に上総掘りで掘られたそう。
湯温が42℃ということもあり、冬季は加温されていますが、しっかり鉱物、ほのかに硫黄っぽい匂いがする温泉が毎分50リットル湧出していて、泉質はアルカリ性単純温泉です。
決して万人受けはしませんが、温泉好きなら間違いなく心惹かれる温泉です。
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人吉駅弁やまぐち
人吉駅のホームでも、「いさぶろう・しんぺい」や「SL人吉」の発着時に、おなじみ「菖蒲豊實さん」による駅弁の立ち売りが行われています。
今回、訪れた日は、残念ながら菖蒲さんの立ち売りがお休みの日・・・。
立ち売りが無い日は、駅の改札を抜けて、左手を望むと「人吉駅弁やまぐち」の社屋があります。
一番右手のドアを入った所が直売所になっていますので、出来立ての駅弁を入手できます。
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栗めし
鮎寿しと並ぶ「人吉駅弁やまぐち」の看板駅弁といえば、何と言っても「栗めし」(1,100円)!
栗の形をしたプラスチック容器が、栗の絵が描かれた掛け紙で包まれ、ゴム留めされています。
人吉盆地ののどかな山村の風景が想起される駅弁。
人吉から肥薩線のD&S列車「いさぶろう」で矢岳越えに挑んで吉松へ向かうには、ちょうどピッタリの駅弁ではないでしょうか。
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栗めし
昭和40(1965)年発売開始という人吉駅弁の「栗めし」。
既に半世紀以上のロングセラー駅弁です。
くり型のふたを開けると、大きめの栗が栗ご飯の上にゴロゴロっと5個も載っていました。
しかも、この栗がホクホクで甘い!
ふたを開けた瞬間から、炊き込みご飯ならではのいい匂いが食欲をそそります。
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栗めし
栗ごはんには、一緒にかんぴょうが炊き込まれていて、栗の甘さを優しいものに・・・。
玉子焼やエビ、ミートボールなどは、ちょっと懐かしい昭和の旅といった雰囲気。
蕗やこんにゃく、高野豆腐、ひじきなどの煮物がいいアクセントになって、どんどん箸が進みます。
懐かしさいっぱいの駅弁を立ち売りの菖蒲さんから買って、SLやキハの中で食べれば、ほんの少しだけ“所得倍増”時代の息吹が感じられて、美味しさも倍増というものです。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/