番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、歴史的に価値のある往年のクラシックカーを集め、ミュージアムを開設。当時の状態に整備し、実際に走らせている館長さんの、グッとストーリーです。
埼玉県加須市(かぞし)、東北自動車道インターチェンジのそばにある「ワクイミュージアム」。
10年前にオープンしたこのミュージアムでは、1910年代から60年代までに造られたイギリスの名車ロールス・ロイスとベントレーがおよそ90台、毎週土日に無料で公開されています。
驚くのは、ここに展示されている車はすべて「現役」。
吉田茂・元総理が乗っていた1937年製のロールス・ロイスや、1928年、ルマン24時間レースで優勝したベントレーなど、昔の映像や本の中でしか見ることができなかった歴史的名車が、いつでも走れる状態で展示されているのです。
「車は飾るだけでは意味がない。実際に動いて、生きている車を展示したかったんです」
と語るのは、館長の涌井清春(わくい・きよはる)さん・71歳。
元々は大手時計メーカーでマーケティングの研究をしていました。
ある日、高級ブランドについて調べた際「部品に至るまで、完璧なものしか販売しない」というロールス・ロイスの経営理念に感銘を受けた涌井さん。
「自分も、好きなものをとことん究める人生を送ってみよう」と、42歳のときに会社を辞め、クラシックカーの輸入商に転身。
当時の日本はバブル経済華やかりし頃で、需要もありました。
ところが、海外へ買い付けに行っても「悪いが、日本人には売れないね」と断られることばかり。
日本に売却するとその後、車が消息不明になることが多いからだと聞き、涌井さんはショックを受けました。
「クラシックカーは所有するものではないんです。20世紀の文化遺産であり、購入した人は“一時預かり人”に過ぎません」
と言う涌井さん。
欧米では、クラシックカーは後世に受け継いでいくもので、愛好家たちがオーナーズクラブを結成し、名車の行方を常に把握。
所有者は整備を怠らず、実際に走れる状態で保存することが当たり前になっているのです。
日本にもそういう文化を定着させなければ、と痛感した涌井さんは、まず自分がそれを実践するコレクターになろうと決意。
その原点になった一台が、ワクイミュージアムの目玉でもある、白洲(しらす)次郎の愛車、1924年製の「ベントレー・XT 7471」です。
白洲次郎は戦後、吉田茂総理に請われGHQとの交渉に当たった人物で「敗戦国でも言うべきことは言う」姿勢を貫き、平和条約締結にも貢献しました。
その白洲次郎が大正時代、ケンブリッジ大学に留学中、乗っていたベントレー。
イギリスでは、車のナンバーを次の所有者がそのまま受け継ぐルールがあり、いま誰がその車を持っているのか、すぐ分かるようになっています。
「白洲次郎のベントレーは、日本に連れて帰るべきだ」
という使命感に駆られた涌井さんは「XT 7471」のナンバーから所有者を探し出し、粘り強く説得。譲り受けることに成功しました。
以来涌井さんは、海外の販売業者やコレクターと関係を築き、300台以上のクラシックカーを収集。
20年前、加須市(かぞし)にショールームを開設。
英語で「伝承」を意味する「ヘリテージ」と名付けられ、クラシックカーを愛する新旧のオーナーが出逢い、歴史を継承する場になっています。
さらに車の修復・整備を行う「ファクトリー」も設置。
ここには腕利きのメカニックたちが揃い
「もし部品がない場合でも、うちは自前で作れます」
と言う涌井さん。
そこで整備されたクラシックカーをミュージアムに展示。車の周囲には柵がなく、座席には自由に座って構いません。
「ロールス・ロイスもベントレーも人の名前です。僕はその人物にも興味があるんです」
と言う涌井さん。
名車を動く状態で展示することにこだわるのは、ロールス・ロイス創業者の一人で職人でもあった、ヘンリー・ロイスのこの言葉に心動かされたからです。
「正しく行われしもの たとえささやかなりとも すべて気高(けだか)し」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年8月5日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
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