子供たちの心を育む“ミュージカル教育”の取り組みと成果とは?!
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「アナと雪の女王」「ラ・ラ・ランド」など、このところ、ミュージカル映画の大ヒットが続いていますが、ヒットの理由のひとつが「若年層にウケた」ということ。大人の中には“ミュージカルが苦手”と言う人もいますが、子供たちは抵抗がない、と言う子も多い。その理由は…小さい頃からミュージカルに慣れ親しんでいるからです。
若い世代は、自分を表現したり、他人と一緒に何かを作り上げていくのが苦手、というのは世界共通の悩みです。その対策として、欧米では「ドラマ教育」と言って、芝居を教育に取り入れて、演じることが必修化されています。なかでも、演劇だけでなく、歌とダンスが一緒になった“ミュージカル”は総合的な力を養えるということで、その重要性が増しています。
では日本ではどうでしょうか?教育の場で子供たちが演じる、というのはまだまだですが、“ミュージカルに触れる”は、どんどん広がっています。
劇団四季、宝塚歌劇団に次いで、年間25万人、日本第3位の観客動員数を誇る、地方劇団のパイオニア、秋田県の「わらび座」。日本、とりわけ東北をテーマにしたオリジナルミュージカルを作り続けている、今年創立65周年の老舗劇団です。
わらび座の公演回数は年間1,200ステージ。うち400回が小中高校の芸術鑑賞会で、各地の学校へ出かけて行って、ミュージカルを演じています。
また、本拠地・秋田の劇場では修学旅行生を受け入れていて、ミュージカルの観劇と、そのあとに俳優が「踊り体験教室」を開いて本格的な踊りを教える。初めは恥ずかしがったり、嫌がっている生徒も、お腹の底から声を出して動いているうちに、疲れた仲間を励ましたり、やる気のない仲間を引き立て、一人ひとりが主役だと感じる。
教室の最後に発表会が行われる時分には、クラスがひとつになって、大変な熱気となっている・・・んだそうです。劇団の方いわく、「子供たちの能力や感性は思っている以上にすごいんですよ!」。
そして日本で一番見られているミュージカル劇団と言えば劇団四季。ミュージカル教育も規模が大きく、多彩です。
劇団四季と言えば、『ライオンキング』や『キャッツ』などの海外ミュージカルの上演で大変有名ですが、30ものレパートリーを持つ、ファミリーミュージカルの上演にも力を入れてきました。遡ること50年以上も前。日本生命が主催、劇団四季が舞台の制作、出演を担う形で1964年に日生劇場でスタートした「ニッセイ名作シリーズ」がそのはじまり。
「子どもたちにこそ本物の舞台を見せるべき。その感動は、必ず将来役に立つ」という想いが発端となり、課外授業として東京都の子どもたちを無料で劇場に招待。この時上演したのが、“生きる上で大切なこと”がテーマに描かれたファミリーミュージカルです。
こうした活動をより大規模に行うのが、08年から始まった「こころの劇場」。一般財団法人舞台芸術センターと劇団四季、そして約180社の企業や団体の協力により運営している、日本全国の子どもたちに演劇の感動を無料で届けるプロジェクトで、今年度は全国171都市、441回もの公演を開催し、なんと54万人もの児童が観劇する予定なんです!実に、日本全国の小学校6年生の半数以上が、「こころの劇場」で劇団四季のファミリーミュージカルを観ていることになります。
ファミリーミュージカルが舞台を通じて語り掛ける「生命の大切さ」や「人を思いやる心」、「信じあう喜び」。『こころの劇場』がこうした教育上の大きな目的を持っているのはもちろんのこと、さらに、大きな役割があります。それは、なかなか観劇する機会に恵まれない地域にも公演に行く、ということ。北は北海道・利尻島から、南は沖縄・石垣島、宮古島まで、劇団四季の俳優が、離島にまで駆けつけているのです。
例えば、毎年公演を行っている北の端、利尻島。近くの島、と言っても20キロほど離れている礼文島からも子供たちが船に乗って駆けつけ、今年は子供たち総勢700人以上がミュージカルに触れたそうです。今年上演した作品はファミリーミュージカル『ガンバの大冒険』、約2時間(1時間50分)に及ぶ公演を子供たちはもちろんのこと、島の大人たちも非常に楽しみにして、温かいおもてなしをしてくれます。
劇団四季のこうした“旅公演”に出かけるのは、劇団四季の俳優たち。面白くなければ直ぐに騒ぎだし席を離れてしまう、大人以上に厳しい“子供”という観客を相手に、台本、演出、音楽、美術など、全てに妥協は許されません。こうして小学生に観劇の体験をプレゼントして、未来の演劇ファンを作るのもさらなる目的となっているのは言う間でもありません。
旅公演では、俳優たちも様々な役割を担うそうです。例えば、公演終了後、衣裳を脱いだ俳優もヘルメットをかぶって撤収作業を行ったり、衣裳を洗濯したり、その土地のゴミの分別方法を聞いて、仕分け袋を用意するというようなことも俳優がする。俳優たちにとっても、「こころの劇場」はまた格別な想いがあります。子供たちの素直な反応や想いに触れ、感動させられたり、気を引き締め直したりする機会にもなっているのです。
今年度は『ガンバの大冒険』、『嵐の中の子どもたち』のファミリーミュージカル2作品を上演しています。
劇団四季のミュージカル教育として、もう一つ大きな柱が『美しい日本語の話し方教室』。「話し言葉としての日本語を、明晰に美しく話すためには」をテーマに、劇団四季の俳優が実際に小学校5、6年生の教室を訪れ、60年を超える歴史の中で培われてきた独自の方法論“母音法”を通して美しい日本語の話し方について分かりやすく教える実践的な授業です。
2005年からスタートして、これまでに全国各地の小学校でのべ5,800校、合計48万人以上の児童に向けて授業が行われています。学校で読み書きを習うことはあっても、話し方を習う機会は少ないのではないで しょうか。そこで劇団四季が、多くの児童が自分の気持ちをしっかりと相手に伝えることができ、日常生活に活かせることを目標に話し方のレッスンをしてくれます。
教えてくれるのは母音法という、母音の発音を正し、五十音すべてをきれいに発音できるようにする手法。それにより、言葉の一音一音が分離し等間隔に並ぶため、一語一語の言葉が明瞭になります。四季の俳優は母音法の訓練を毎日しています。
【例】おはようございます ⇒ OHAYOO GOZAIMASU ⇒ オアオーオアイアウ
1コマ45分の授業の中で前半は、日本語のしくみ、母音の重要性、美しい日本語の話し方についてわかりやすくレクチャー、後半では、劇団四季のオリジナルミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』のテーマ曲「友達はいいもんだ」を使って、歌詞を正しく伝える方法とともに、「思いやり」や「友情」の大切さについてともに学んでいます。
また、劇団四季が積極的に行っているのが「修学旅行や芸術鑑賞会などの学生団体の受け入れ」。学生の観劇者数は年々増加していて、現在年間8万人!特に、日本初の無期限ロングランとなっている「ライオンキング」が修学旅行の定番となっているそうです。
というように、日本でのミュージカル熱は、「子供たちのミュージカル鑑賞人数の増加」によるものが大きいのですが、さらにこのところ、“ミュージカルに出たい”という子供たちも増加しています。日々の稽古ごととしてのミュージカルを楽しみ、発表会的な公演を目標に頑張っている子どもたちも日本中に増えているそうです。ミュージカル教育は、プロの劇団による『子供たちのミュージカルの観劇』が行き渡って、今後は“子供が自分たちで演じる”場がもっと増える、というようにシフトするのかもしれません。
いずれにしても、プロの劇団が果たす最初の役割はとても大きいのでは、と感じました。
11月7日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より
高嶋ひでたけのあさラジ!
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