番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは、両親が始めた製麺会社を受け継ぎ、個性的な新しい麺を開発。うつ病も克服し、地域振興にもひと役買っている社長の、グッとストーリーです。

「亀製麺」

メインストリート・大学通りには、桜といちょうの木が並び、南部にはのどかな田園風景が広がる東京・国立市。個人が経営する個性的なお店も多い国立で創業して、今年で58年。ラーメンからパスタまで、様々なオリジナルの麺を製造している会社が「亀製麺（かめせいめん）」。人気商品の一つが、地元のカレー専門店と協力して作った『国立薬膳カリーヌードル』です。国立市の「地域振興ブランド」にも認定されたこの商品は、パッケージのデザインを国立在住のイラストレーターが担当。一見、本のような体裁になっているので、今年、期間限定で国立駅前の本屋さんでも販売され、ユニークな試みとして話題になりました。

「『よそにないものを、亀製麺さんで作ってください』という地元の人たちの声が、新商品を開発する力になっているんです」と語るのは、玉澤孝三（たまざわ・こうぞう）さん・64歳。

玉澤孝三さん

亀製麺はもともと、玉澤さんのお母さんが個人店として1960年に創業。会社名はお母さんの旧姓・「亀岡」から取りました。その後、お父さんが社長に就任。大手製麺会社から下請けの仕事を任され、会社は順調に発展していきました。長男の孝三さんは、小さい頃から麺作りを手伝ってきましたが、自分は違うことがやりたいと、京都のファッション雑貨メーカーに就職。亀製麺は弟さんが継ぎました。

ところが……弟さんが事故に遭い、急きょ国立へ帰って、再び会社を手伝うことになったのです。妻の恵美子（えみこ）さんとともに実家へ戻り、1981年、専務として亀製麺に入社した玉澤さん。

「実は、弟のことがなくても、いつか家業を手伝うことになるんだろうな、と思ってました」

「ものづくり」へのこだわりを、玉澤さんは両親から、知らず知らずのうちに受け継いでいたのです。

『国立薬膳カリーヌードル』

玉澤さんは3年後、31歳の若さで社長に就任。しばらくは順調でしたが、やがて新たな問題が起こります。亀製麺に下請けを発注していた大手製麺会社が、商品の価格を抑えるため、さらなるコストダウンを要求。「もともとうちは、生産量は少なくてもいろいろな麺を作るのが得意な会社なんです。大量生産を請け負っているときは『これでいいのかな…』と思ってました」という玉澤さん。さんざん悩んだ末に、2011年、これまでの下請けの仕事を一切断り、独自の商品を開発していく道を選びました。収益の大きな柱を失った上に、開発コストがかかる新商品はどうしても価格が上がるため、取引先から受け入れてもらえず、売上げは半減。3年間は赤字が続きました。

玉澤さんは強迫神経症と、うつ病を発症。「この頃は、心臓をわしづかみにされて、ギュッと押しつぶされるような、そんな感覚に襲われてました」…そんな辛い状況の中、経理を担当する妻・恵美子さんにも支えられ、新商品を考え続けた玉澤さん。ある日、取引先の女性社員が言った何気ない一言が突破口になりました。

「湯切りしなくてもいい生ラーメンって、ないのかしら？」

亀製麺が作る「3種の冷やし中華」のチラシ

製麺業界では、生ラーメンは湯切りをするのが当たり前。常識が邪魔をして、そういう消費者のニーズがあることに気付かなかったのです。玉澤さんは1年かけて、湯切りをしなくてもスープがドロドロにならず、しかもコシのある生ラーメンを開発することに成功。一般の消費者だけでなく、鍋の〆に、ラーメンをお客さんに提供していた居酒屋チェーンからも、「ほぐすだけで、お客さんにそのまま出せる」と注文が来るようになりました。玉澤さんは言います。

「これも想定外のニーズでした。業界の常識にとらわれていたら、生まれなかった商品ですね」

こうした努力が実って、路線変更から4年目、業績は黒字に回復。玉澤さんも健康を取り戻しました。その後も、添加物や化学調味料は一切使わず、国産小麦と平飼いの卵で、低糖質のパスタなど、様々な新商品を開発。今や、国立を代表するメーカーになった亀製麺。玉澤さんにこれからの夢を伺うと……

「私は「夢リスト」を作っているんです。34個の夢のうち、今までに叶えたのは11個。『ディーゼルエンジンのセスナ機購入』『青梅マラソン完走』など、まだまだ叶えていない夢がたくさんありますからね。休んではいられませんよ（笑）」

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY　2018年5月26日（土）　より