熊本で質の高いもやしを作っている もやし製造業社長のストーリー
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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
スーパーでよく特売の目玉になる「もやし」。きょうは熊本で、おいしくて新鮮な、高い品質のもやし作りに情熱を燃やす、30代社長のグッとストーリーです。
周囲は真っ暗な、夜の10時過ぎ。熊本市でもやしを生産する会社「熊本製萠(せいほう)」ではこの時間から作業が始まります。その中には社長の姿も……。
「普通もやしは朝から収穫して、翌朝出荷するんですけど、ウチは深夜に出荷作業をして、そのまま市場(いちば)に持っていくんです。新鮮なもやしを届けたいので」と語るのは、熊本製萠の5代目社長・鳥井文博(とりい・ふみひろ)さん・34歳。
袋に「くまモン」が印刷されている熊本製萠のもやしは、地元の人たちに「くまモンもやし」と呼ばれ、親しまれています。ほかのもやしより、見た目はヒョロッとしていますが、歯ごたえがシャキシャキしていて、もやし自体の味が濃いのが特徴。文博さんは言います。
「もやしは水っぽくて味がない、というイメージがありますが、ウチのもやしは味噌汁に入れると、もやしの“ダシ”が出るんです。“主張するもやし”なんですね(笑)」
熊本製萠の創業者から、文博さんのおじいさんが権利を買って、もやし作りを始めた鳥井家。おじいさんの跡は、文博さんのお父さんが継ぎましたが、ある日急に亡くなってしまいます。いったんお母さんが会社を受け継ぎ、おととし6月から文博さんが30代の若さで新社長に就任しました。
ところが、就任直前に思わぬ試練が襲います。おととし4月に発生した、熊本地震です。震度6強の揺れに襲われた工場は、天井が落ち、設備は傾き悲惨な状態に……。そんな逆境にもめげず、なんとか設備を復旧させましたが、もうひとつ大きな問題がありました。それは10年間続いていた、慢性的な赤字です。スーパーなどで、よく特売の目玉にされるもやし。もやしの原料となる緑豆は中国産ですが、価格が年々上昇しており、その上昇分を価格に転嫁したくても、小売価格は低いままで抑えられているのが現状です。
たくさんのもやし製造業者が「これでは利益が出ない」と廃業していき、熊本製萠も危機的状況にありましたが「もやしは絶対にすたれない商品です。やり方さえ変えれば利益は出るはず」と考えた文博さん。収穫からお客さんの口に入るまでをできるだけ短くするために、収穫作業を深夜に切り替え、温度調節など、大手が機械化・自動化している部分も、人の目を届かせ、手間暇かけて、キメ細かい作業を続けていきました。そんな努力の結果、大手には作れない、シャキシャキの歯ごたえと風味が味わえる、おいしいもやしを作ることに成功したのです。
さらに文博さんは、その手間が掛かった分のコストをかぶらず、思い切って価格に上乗せしました。
「育てるのに手が掛かるもやしは、もっと適正な価格で販売されるべき」という考えからです。よそが1袋20円ぐらいの中、「くまモンもやし」は1袋30円ぐらいで販売されていますが、「やっぱり、このもやしじゃないと」と買っていく固定客も多く、飲食店からの発注も増えたおかげで、熊本製萠の経営も黒字に転換していきました。
昼夜逆転の生活、元日以外は休みなしで、毎日もやしを育てている文博さん。しかも社長は日中、人と会わないといけないので、なかなか遊びに行くこともできません。しかし街で「くまモンもやし、いつも食べてるよ!」「おいしいもやしをありがとう!」と声を掛けられると、疲れも吹き飛ぶそうです。文博さんは言います。
「もやしは、なかなか高級品が作りにくい商品ですが、いつか、栄養価も高くおいしい『ブランドもやし』を作るのが夢です。それで熊本の街を盛り上げて行けたらいいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年6月2日(土) より
番組情報
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